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64 メガネ、前世

 やあやあ、どうしたんだい?

 新学期に思い切って眼鏡デビューしたら「誰だ、こいつ」みたいに見る顔をして。

 私だよ私、メガネだよ!


 さて、ノヴィルから帰ってきてしばらく経ったわけだけど。戻って来て知ったことが一つあった。

 人の前世のことも見ることができるようになった私は、とりあえず身近な人から前世があるのかを調べてみた。そうして、結果的にメガニアに住む皆さんのことを調べ上げたことになったけれど、驚きの結果が出た。

 メガニアの国民達は皆、前世を持っていて、しかもその前世は恐らく私たちの前世の世界と同じ場所で過ごしていた。流石に同じ日本人で揃っているわけではなかったけれど、文章を読んだ感じとして同じ世界を過ごしていたことがわかった。

 しかも、前世の記憶は残っていなくても、前世での知識や技術はどうやらなんとなくわかるようで、おかげで農業・建築業・食事・音楽・服飾、様々なものが今までよりもよくなった。さすがに前世の世界のように物資がたくさんあるわけじゃないから、できることは限られてくるけれど、それでも前よりも住みやすい国に変わってきたと思っている。

 喜んだアンちゃんは私に可愛らしい服を色々作ってくれて、ちょっとしたファッションショーを開き、おばあちゃんたちに喜んでもらえた。今も私の服と、たまに気分転換に絵を描いている。

 フォルモさんも新しい食材を使ってさらなる美味しい料理を研究してくれている。

 声を取り戻したセレナードは、楽器を作れる技術師が前世だった人と協力し、曲作りと楽器の発明をしているようだ。

 ナハティガル君は最近は忙しい様で、食事の時と寝る前ぐらいしか会えない状況だった。

 まぁ、私も、ちょっとずつ予定が詰まってきているわけだけど。



 そんな私は今、プレニルにいる。クデルの眼鏡に移動して、クデルと踊りの調整を行っていた。

 色々あって、メガニアになる前から行われていたという雨乞いの儀式は私が不在の間に行われてしまった。それならもう私は踊らなくてもいいのかと安心していたら、収穫を祝う時に踊ったらどうだろうという声が出てきたようだった。所謂収穫祭、というものだろう。そんなに時間が経っていたのかと驚きつつ、私に期待する皆さんの目に負けて、私の踊りは収穫祭で披露することにしたのだ。

 ……神様への感謝の踊りってことになるけれど、メガニアは別に豊穣の神ってわけじゃないから、必要ないように思うんだけどな。

 そう愚痴ると、クデルは苦笑した。


「メガニアの皆さんはメガネ様を可愛がっていましたし、メガネ様の綺麗な姿を見たいのでしょう。皆さんへのサービスとしても踊って差し上げるのがいいですよ」

「そう、なのかなぁ?……いや、幼い子供だと思われてるならそれもあるか」


 まだ幼い子供が楽しそうに動いている様子は、お年寄りには微笑ましく癒しの存在になるだろう。……姿は幼いけど、私一応中身は成人なんだけどな。


「ところで、メガネ様。新しいフリをいれたんですね?」

「ああ、うん。メガニアに踊りの知識がある人がいて、ちょっとアドバイスをもらったんだ。クデルの舞いを変えすぎないようにはしたけど、変だったかな?」


 恐らく動画サイトで踊った動画を上げていた前世を持つ人から少しばかり踊りを見てもらい、もう少し映える踊りのフリを教わったのだ。踊りの先生であるクデルが嫌に思ったらそのフリは今後は踊らないつもりであるけれど。


「いえ。祭で踊るのであればそちらの方がよろしいと思います。私のは舞い、とは言っていますが、敵を倒す為の短剣の技術を学ぶためのものですので、メガネ様の思うようにアレンジしてください」


 そう言ってもらえると安心だ。それなら前世が振付師の人と、音楽を作ってるセレナード達とも相談して、もう少しアレンジをいれられないか考えてみよう。やるなら良いものを作らないと。


「収穫祭は、一月後、でしたっけ?私もその時はメガニアに行きますね」

「本当?それならルデルも喜ぶよ」

「ルデルは元気にしてます?」

「うん。フォルモさんから戦い方学んだり、ナハティガル君のお手伝いしてくれたり。大分戦力になってくれてるよ」

「それならよかった。……ふふ、元気だろうなとはわかってるんですけど、しばらく離れていると心配になりますね」


 そう言って笑顔を向けるクデルに、こちらも嬉しくなる。クデルの笑顔はすごく可愛い。


「セレナードもクデルが来るってしれば、さらに気合入れるだろうな。ノヴィルからも人が来てくれるし、頑張らなきゃ」

「ノヴィルからも、ですか?」

「うん。ノヴィルの巫女様と仲良くなってね。収穫祭のことを教えたら遊びに来てくれるって言ってくれたんだ」

「それは、なかなか豪華な収穫祭になりそうですね」

「うん。建国の時は残念なことになっちゃったし、収穫祭は盛り上がっていきたいよ」


 そうクデルと話していると、暇潰しにと黙ってこちらを見ていたエレオスが犬のルーを連れてこちらに近づいて来た。


「ノヴィルの巫女が来るのか」

「ん?うん。そうだよ」

「ふむ。……ならば余もメガニアに行こう」


 一瞬、エレオスが何を言っているのか把握できなかった。すぐに声を上げたのはクデルだった。


「な、何を考えてるんです猊下!猊下直々に他国に行くなど……っ!」

「教皇としてではない。巫女としてメガニアに行くと言っているんだ。ノヴィルの者が行くというのに、プレニルからは行かないのはいかんだろう。メガニアとの友好のためにも必要だと思うが」

「そ、そうかもしれませんが、でも」

「母さんは、前に他の者とも仲良くしろと言っていたではないか。ちょうどいい機会ではないか?ノヴィルの巫女とも多少の交流はあるほうがよいだろうし」

「それは……そう、か……な?」


 あぁ、クデルが言いくるめされる。

 でも確かに、プレニルとも友好があると見せつけるにはちょうどいいかもしれない。メガニアはプレニルともノヴィルとも仲良くしている。それを見せつけるのも、メガニアとしてはいいことだろう。


「私もエレオス猊下が来るのに賛成するよ。こちらの歌姫や国民に酷いことしないなら、ね?」

「勿論、余がもうそんなことをするつもりはない。神も最近は降りてこないから大丈夫だろう」


 エレオスの言葉に、そういえば巫女は神に身体を貸すものだというのを思い出した。エレオスの場合は、神がエレオスの身体に降りて、プレニルの犬たちに命令していたわけだけど、最近はそういうのはないようだ。

 まぁ、エレオスもクデルのおかげで生きることに前向きになったし、教皇としてちゃんと仕事をしているようだから問題はないようだ。

 ミーティの方は聞いたことがないけれど、どうなのだろう?後で聞いてみよう。


「……では、メガネ様。私と猊下、あと護衛に何人か連れて、そちらにお邪魔しますね」


 クデルが申し訳なさそうにそう言うので、私は気にしなくていいと言うように笑顔を向けた。


 前だったら、ナハティガル君に何か害が起きないかと心配になっていたけれど、今の彼らなら安心だ。

 もうこの世界には、ナハティガル君を傷つける人はいないのだから。

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