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55 メガネ、死に分かれた再会

 やあやあ、久しぶりだね。え、お前誰だだって?

 私だよ私、メガネだよ!

 え?ミーティが主役がよかった?気持ちはわかるけど私で我慢してね!


 さて、私はルデルとメガニアに帰ったと思わせて、ミーティに渡した眼鏡に意志を移動してました。

 申し訳ないと思いつつ、ミーティのステータスを見せてもらっていたら、スキルのレベルが上がったのか新しくその人の前世を知る事が出来るようになってたよ。

 それでバレたら大人しく土下座を、それも綺麗なスライディング土下座を披露しようと覚悟してミーティの前世を読ませてもらったわけだけど、好きだった人が目の前で死ぬなんて、自殺を推奨するわけではないけれど気持ちはわかるなぁと思ってた。

 ミーティが最初はアンブラとの未来を望んでいたのにそれを諦めたのはミーティアの幸せを選んだ結果なのかもしれない。アンブラとミーティアをくっつけたいのはあくまでミーティの前世の人の願いであって、ミーティアのキャラとしてそれが最善の幸せではないと考えたのかもしれない。

 それを知っても、私はなんだか納得がいかなかった。


 私が色々考えている内にミーティの元にアンちゃんがやって来た。二人の戦闘が始まったわけだけど、私は酔っていた。

 ステータスを見たのでミーティのスキルについてはわかっていたけれど、あんな短時間で何度も何度もやり直しをしていて、時間を戻したと自覚した瞬間にはまた時間が巻き戻される。それを繰り返されるのはなかなか辛かった。それを気にせずに戦闘が出来てるミーティは凄い。

 酔わない様に別の事に集中しようと考えた私は、とりあえずアンちゃんの前世を見る事にした。

 それを見て、驚いた。

 アンちゃんとミーティは前世では恋人同士だったのだ。

 どんな偶然だと思いつつも、このまま二人を争わせるのは駄目だと、先程まで感じていた違和感が形になる。

 二人の攻撃が、二人に致命傷を与えるだろうというタイミングで、私は二人の眼鏡にお互いのステータス画面を表示させた。それは、二人の戦意を喪失させるには十分だったようだ。

 ミーティを拘束していた糸は緩み、ミーティはその場に膝をついた。アンちゃんは目を丸くしてミーティを見ていて、持っていた短剣は床に落ちた。

 大丈夫だろうと思い、私は擬人化をしてその場に転がる。いやぁ、まだ酔ってるんで。もうここで吐こうかとも思えるぐらいには酔っているんです。皆は動く乗り物の中で文章読むのは気を付けようね。

 転がった私を気にせず、アンちゃんはゆっくりと足を動かし、ミーティの目の前で膝をついた。


「……華、なのか?」


 ミーティの前世の名前だ。ミーティはアンちゃんを真っ直ぐに見つめて大きく頷いた。

 私からはアンちゃんの表情は見えないので、アンちゃんが今どんな感情なのかはわからない。死に分かれた恋人と再会して喜んでいるだろうかと思っていたけれど、アンちゃんが口にしたのはそんな言葉では無かった。


「華、あの後大丈夫だったか?あのストーカーが傍にいたんだろ?何もされなかったか?」


 もっと他に言う事があるだろう!と言いたかったけれど黙っておいた。もう亡くなっているとはいえ、自分が守ろうとした恋人の無事を聞くのも彼氏としては正解だろう。私は彼氏いた事が無いから本当に正解かはわからないけれど。


「なんで、……なんでそんなこと言うんですか、先輩。私のせいで、先輩が死んでしまったのに」


 ミーティの眼から涙が溢れていく。これは、第三者が何か言う雰囲気ではない。


「私が先輩にお願いしなかったら、先輩が死ぬことはなかったのに。私が自分であいつになんとかできたら、こんなことなかったのに。私が、……弱かったから」

「そんな事は無いだろ。俺が死んだのは華のせいじゃない。俺が気を緩ませていたから悪い。だから、そうやって自分を責めなくていいんだ」

「で、でも……っ」

「お前が自殺したのは少しショックを受けているのが本音だが、こうやってまた会えたのが嬉しいのも本当だ。だから、泣かないでくれ。見た目が違ってても、笑顔の方が見たい」


 そう言ってアンちゃんはミーティを抱き寄せた。ミーティはアンちゃんの胸に顔を埋めている。

 ……いやぁ、リア充してるなぁ。


「で、メガネ」


 黙って見守っていた私にアンちゃんは視線を向ける。その視線が少し冷たい。


「ルデルと一緒に帰ったもんだと思ってたんだが?ミーティア様が眼鏡をしていたからまさか、とは思っていたが、本当にいたのか」

「だ、だって私も心配だったし、大切な友達のミーティを助けれるなら助けたいから様子を見て」

「ルデルは帰ったのか?あの茶葉を持って」

「あ、やっぱり何か考えがあって、あれをルデルに渡したんだ」


 私の問いに、アンちゃんはミーティをあやす様に背中を撫でながら言う。


「あぁ。あれが麻薬だってのがわかってたからな。メガニアの医者……名前なんだっけ。あまり交流ないから覚えてないが、ナティから医者が痛みを抑える薬を探してるって聞いてて、前世だと麻薬って医療にも使われていたのを覚えてたんだ」

「じゃあ、アンちゃんはそれを調べる為にあっちについてたの?」

「いや、それは偶然知っただけ」


 ここで泣き止んだのか、ミーティが顔を上げた。顔はこっそりとハンカチで拭いていたのか、目が少し赤いぐらいだ。私の存在に少し気まずそうにしているので、気にしないでというように笑顔を向けておく。


「ダフォディル隊長に離れる事を伝えて、帰ろうとしたらアネスに会ったんだ。それでアネスがすぐに俺に対して催眠みたいなスキルを使ってきた」

「じゃあ、それのせいで」

「いや、眼鏡のおかげか、アネスの思い通りになることはなかった。まぁ、香りのせいで頭がぼんやりしたが、とりあえずスキルにやられたフリをしてアネスの傍に付く事にしたんだ。ダフォディル隊長にとってもアネスの対応に困っている様子があったし、メガニアに何か影響があれば困ると思ってな」


 じゃあ、アンちゃんは最初っから私達を裏切っていたわけではないのか。その事には安堵したけれど、こちらを騙した事には後で相応の報いを受けてもらおう。


「それは多分魅了のスキルです。私達の考えでは、その茶葉とアネスの魅了を使って神に剣を向ける兵士を増やそうとしているのだと思ったんですが」


 ミーティの言葉にアンちゃんは眉を寄せる。


「なのかもしれないが、隊長が茶葉を利用しているところは見れなかったんだよな。俺に見えない所でやってたのかもしれないが、そこは証拠はない。アネスに関しては、俺をアクセサリーか恋人みたいにどこでも連れて行ってたから、アネスの行動は教えられる」

「……それ、アンちゃんが監視されてない?」

「されてたかもな。ルデルが軍のほうを探ってた時は頑張って抜けて茶葉を渡す事ができたけどな」


 アンちゃんは立ち上がり、ミーティに手を差し出した。ミーティはその手を取って立ち上がる。私にもしてくれるかと思ったけれど、アンちゃんは私の両脇に手を通して無理矢理立たせられた。ミーティの前世が恋人とはいえ、扱いが酷いのではないか。


「殺すつもりは無かったけれど、怪我は無かった……ですか?ミーティア様」

「かしこまらなくてもいいですよ、先輩。あ、いや、アンブラ」

「アンでいい。メガニアではアンとして過ごしてたし」

「それなら、私もミーティでいいです。怪我は無かったですよ。アンは、猊下を殺しに向かうのでは?」

「ゲームではそうなのか?俺はそのつもりは全くない。ただ、教皇猊下に今の軍の状況を話して、メガニアとの友好をお願いして俺は逃げるつもりではあった」

「メガニアとの友好って」

「俺が猊下と話せるならそういう理由じゃないと駄目かと思ってな。俺は猊下の下で殺されたって事にしてメガニアに帰ろうと思ってた。……あんなこと言っておいてなんだが」

「大丈夫だよ。帰って来たアンちゃんに私とルデルで突いてあげるだけだから」

「どういうお仕置きだよ」

「でも、そんな理由だけで教皇猊下のところに行こうとしてたの?」

「アネスと過ごした結果、アンブラの名前が広まっちまったからな。俺はアンとしてメガニアで過ごしたいから、アンブラは死んだことにして、俺は似てるだけの他人ってことにしたかったんだ」


 その為にしても、私達を騙したりする必要は無かったのではないかと思うのだけれど。私の考えがわかったのか、アンちゃんは肩をすくめた。


「こっちはアネスにべったりくっつかれて、お前らと仲間だと思われたらそっちにも何か手を出しそうだったから突っぱねる形にしたんだ。ここに来るのもなんとか説得して来れたくらいに、アネスは俺に執着してるんだよ」

「それは、何故ですかね。やはり恋したとか?」

「それかアネスも私達みたいに前世でゲームをプレイした人とか?」

「前世を覚えているって様子はなかった。それに、俺に恋しているって感じでは……」


 アンちゃんが少し言葉を濁した時だ。


「アンブラ」


 広いホールに、女性の声が響く。私達が視線を移すと、そこにはアネスが立っていた。


「……よく、ここに来れましたね」


 そうミーティは私達にだけ聞こえるように呟いた。外は兵士達が近づかない様にオクルスとクティスが動いているようだった。二人の能力は知らないけれど、ミーティがアネスの来訪に驚くぐらいには侵入は不可能な程の守りなのだろう。アンちゃんは、多分、暗殺スキルみたいなのがあるから侵入できるのかな?


「アンブラ、何をしているの?ミーティア様を殺しに行くと言っていたじゃない。何故殺していないの?」

「申し訳ありません、アネス様」


 アンちゃんは頭を下げて見せてから、すぐに頭を上げて口調をいつものものに戻す。


「俺がそっちにいる必要が無くなった。もう十分に情報も頂いたし、俺は抜けさせてもらう」

「裏切るつもり!?」

「元々、俺は信用してなかった。人を操って使おうとしていたのはわかってるんだ。貴女の傍につきたい兵は他にもいるだろうし、他を当たってくれ」


 アンちゃんが冷たく言い放つと、アネスは可愛い顔立ちをクシャクシャに歪める。彼女の手には何も持っておらず、彼女を守ってくれるような兵もいないようだ。ステータスを確認してみると、魅了スキルを持っているぐらいで、脅威はないようだ。前世の欄も確認したが、前世でゲームをプレイしていたとかは書いていない。普通の女性だったようだ。


「私が貴方が抜けるのを許すと思って?今すぐ言葉を撤回してくれるなら許してあげるわ」

「撤回するつもりは全くありません。それより、なんでそんなに俺に執着するのかがわからない」

「それは、私が貴方を愛してしまったから」

「違うでしょ。あんたが本当に好きなのは他にいるんじゃないのか?」


 相手が丸腰とはいえ、ちょっとアンちゃんは言いすぎじゃないだろうか。そう感じてアンちゃんを落ち着かせようと口を開いたけれど、言葉を紡ぐ事は出来なかった。

 突如、私達の身体が何かに押さえつけられる。傍に誰かがいるわけではないのに、上から凄い力で押されている。あまりの強さに床に座り込んで、それでも流せないその力に、私達三人は床に倒れるしかできなかった。

 倒れた後、腕を動かすのも難しい状態だった。私が指の一本でも動かそうとすると、亀裂が走るような音がした。私の本来の身体が眼鏡だから、眼鏡にダメージが入っているのだろう。このままではレンズが割れてしまうのか、フレームが曲がってしまうのか。どこまで眼鏡が壊れたら私の擬人化が解けるのだろうかと、今考える事ではないことに現実逃避してしまう。

 私達の様子に驚いた様子のアネスだったけれど、自分が来た方向を見た。そちらの方から、壮年の男性がこちらに歩いて来た。

 ミーティが着ているのと似た軍服を着て、右目は眼帯で隠されている。彼は何の感情も無い表情でこちらを見ていた。


「ダフォディル隊長!」


 アネスの言葉に、この人が軍の一番偉い人だとわかった。軍隊だからもっと元帥とかそういう役職名だと思っていたけれど、そういう訳では無い様だ。

 ……とすると、フォルモさんも隊長って呼ばれていたから、フォルモさんも大分偉い人だったって事かな?


「アネス。怪我は無いか」

「えぇ。何もされていません。ですが、アンブラが私達を裏切ったようです。彼には目をかけていたのに許せません。ダフォディル隊長、彼に相応の制裁を」


 アネスはとても嬉しそうに言葉を紡ぐ。このままではマズい。でも動きを封じられている状態で何が出来る?目暗ましをしたとしてもこちらを拘束する力が緩まるかはわからない。ミーティのMPはまだもう一回スキルを使うには足りない。どうすればいい?

 恐らく、アンちゃんもミーティも現状からの逃避を思案していたはずだ。だから、私達は本当に驚いた。

 ダフォディル隊長が抜いた剣が、アネスの腹を貫いたのだから。

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