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52 姫巫女、思考

 どうしよう。私はどうしたらいい。

 あの戦闘の前にアンブラに会う事が出来た。出来たのにアンブラは今回から現れたアネスの傍にいる。彼女の味方だったから、今までずっと敵対していたのだろうか。

 そうなると、どうすればいい。

 アネスとアンブラが出会わない未来を探す?否、今まで探した結果見つからなかった。

 アネスがノヴィルに来ないようにする?否、アンブラが何時からアネスといるか分からない以上、アネスが来ない事はアンブラも来ない事になるかもしれない。

 アネスを殺す?……否、それでアンブラがこちらの味方になるとは限らない。

 そういえば、メーちゃんのところにアンブラが過ごしていたと言っていた。メーちゃんはアネスの事を知らなかったから、アネスより先にアンブラを見つける?その為にまたリセマラをする?でもメーちゃんとの仲が崩れないという保障が無い。

 折角刃を交わす前にアンブラに出会えたのに、それでも私が望む未来には辿り着けないのか。

 やっぱりアンブラとの未来を諦めるしかないのか。もしアンブラとの未来を目指すなら何を捨てなきゃいけないんだろう。これ以上何かを捨てたくない。エトワレも、軍の皆も、メーちゃんも、私には大切なのだ。


「ミー」


 声が聞こえて私は顔を上げた。

 今いるのは私の自室だ。あの後メーちゃんと別れてずっと今後の未来を見るか、もう一度リセマラをするかと悩んでいた。

 私の目の前にはクティスがいる。温度の変化や人混みでも敏感に感じてしまうクティスは一日のほとんどを部屋で過ごしているのに、こうして出て来てくれたのは嬉しい。


「クティス、どうしたの?」

「うん。なんだかミーからピリピリしたものを感じたから会いに来たの」

「そ、れは……。うん、ごめん。クティスが過ごしづらいよね」

「クティスは大丈夫だよ。でも、ミーが大丈夫じゃなさそう」


 そう言ってクティスは私の頬に触れてきた。クティスの低い体温が心地いい。


「クティスは、痛みとか温度は共有させることはできるけど、気持ちは感じ取れない。すごく、もどかしい」

「……クティスは優しいね。ごめんね、心配させちゃって」


 そう言えば夕食もとっていない。クティスだけじゃなく、他の子達にも心配をかけているのかもしれない。どうにか元気にならないと。

 メーちゃんに会ってから、決めた目標がぶれてしまっている。私は、私はもう諦める。



 そうして私は、メーちゃんを部屋に招いて皆の事を話した。

 そして私が一番優先したいことも。


「もう、こんな奇跡が起きるかわからないから、どんな結果であれ、もう諦めることにしたよ」

「あ、諦めるって?」

「私と、ミーティアとアンブラが仲良くする未来。私は、家族と友達の幸せを優先する」


 私の言葉にメーちゃんは凄く悲しそうな表情を見せた。そんな顔をさせたかったわけではないのに、ちょっと申し訳なく感じつつ、私の事を考えてくれてるのかと思うとメーちゃんの優しさが嬉しくなる。


「……家族や友達、だけじゃなくて、ミーティも幸せになってほしいよ」

「大丈夫。家族と友達が幸せなら、私も幸せだよ」


 シスコンが激しいエトワレも、苦労して仲良くなってくれた五人も、可愛い友達もいるのだ。前世の私が望んだことが叶わなくても、私は構わない。私はただ、今大切に思う人を守る。その為だけに動くんだ。


 翌日、軍の召集に呼ばれ、アウリス以外のメンバーと一緒にダフォディル隊長の言葉を聞いていた。アウリスにはメーちゃんの護衛と一緒に、この召集以外で集まっているメンバーがいないか、そしてその会話を盗み聞くようにお願いした。私の隣に立つオクルスも不自然にならないように気を付けながらその視線を動かしている。

 気を付けていた結果、アウリスが反神主義の会話を聞く事に成功した。そしてその会話の中で、明日には動くという言葉を聞いたそうだ。

 ここから私達は大きく動かないといけない。

 アウリスから話を聞いてすぐに、クティスには反神主義と思われる兵士全員の身体に触れてもらった。奴らが動く時、クティスの力ですぐに彼らの動きを防げるだろう。

 メーちゃんへの説明を皆に任せ、私はエトワレの元に行き、反神主義が動こうとしている事を伝えた。エトワレは黙って私の報告を聞いてからため息をつく。


「とうとう動く、か。メガニアからメガネ様が来ているって時に困った奴らだ」

「……猊下、前に伝えていましたが」

「わかってる。私の命が狙われて、ミーティの能力では暗殺者に殺される未来ばかりだっていうのだろう?覚えているよ」

「暗殺者は私が抑えます。猊下の元には絶対行かせません。ですが、今回のやり直しは予想外の事がいくつか起きてます。だから、他にも猊下の元まで辿り着くものがいるのかもしれません」

「その時は大丈夫だよ、ミーティ。私もそれなりに戦えるのだから、そんなに心配はしなくていいんだよ」

「ですが」


 確かにエトワレのスキルは強い。でも私のスキルと違って、エトワレはスキルを使うと代償が発生する。それを知っているから、できるなら使ってほしくないのだ。

 そしてその代償を知っているから、今までの未来の中でエトワレはスキルを使えずに酷い目に遭っている。

 やってくるだろうアンブラを倒さないと、と私が決意を新たにしていると、いつの間にかエトワレは私に近づき、頭を撫でてきた。


「本当はミーティを私の傍に起きたいんだけどなぁ。確かにミーティは強くなったし、ミーティのスキルで死ぬことはないとはわかっているんだけれど、お兄ちゃんは凄く不安なんだよ」

「……今は軍に所属するミーなんですから、妹扱いはやめてくださいよ」

「ミーティが今どんな姿でも、私の可愛い妹である事は変わらないんだよ。……それより、いいのかい?暗殺者って、ミーティが会いたがっていたアンブラなんだろ?」


 エトワレにも全ては話してあった。妹が恋い焦がれる相手と聞いたその時は複雑そうに顔を顰めていたけれど、諦めたら諦めたで心配なのだろう。


「もう、いいんです。私はたった一人の家族と、可愛い友人と、大切な仲間がいれば、望んだのとは違う未来も歩けると思うので」

「ミーティがそう決めたのなら、私も特に言わないけれど……。無理はしてないんだね?」

「はい。大丈夫です」


 大丈夫。もうアンブラと仲良くできるとは思えない。アンブラはアネスの手を取っている。やって来たらその怒りを叩き込めばいい。

 もうこれ以上、アンブラを望まないと決めた。




 その意志が揺れたのはメーちゃんの護衛から戻って来たリングアの言葉がきっかけだった。


「反神主義の兵達が飲んでるお茶は、催眠効果がある」


 その言葉に反応するのが少し遅れてしまった。催眠効果。


「……寝かせる効果ってこと?」

「それもだけれど、思考を鈍らせるのもあるかもしれない。それと中毒性は高いのもわかったの。……これを兵士に飲ませて私兵を増やしているって思ってもいいかもね。他の詳しい事はもう少し調べないといけないけれど」


 そう言ってリングアは、気が進まないのかため息をつく。元々リングアは植物に関して調べるのが好きだった。そのおかげで毒草に関しては詳しくて、他の植物の効果を見るのも好んでいた。そんなリングアが嫌がっているのは珍しい。


「そんなに研究に気が進まない?」

「んー。不味いから飲んで研究するのが気が進まないのと、これ植物だけの効果じゃない気がする」

「植物だけじゃない?……誰かのスキルが関わっているの?」


 私の問いにリングアは頷いて、ハンカチの上に広げて見せたお茶の葉を見せる。


「葉っぱのほうは問題は無い。問題なのは粉末になってる方で、これがケシっていう花の種子を粉末にした奴」

「ケシ……。なんか聞いた事があるような」

「そうなの?まぁ、とりあえずこのケシが厄介だけど、お茶に入れられている量は少ないのよね。催眠はあるだろうけれど、それだけの為に兵士に飲ませるようなものではないと思うの。私が作ってみたけれど、飲んだ時の毒性が違っていたし」

「……作ったんだ」

「大分前にね。何かに使えないかと思って。それで、試しに反神っぽい兵士を捕まえて飲ませたら、味は同じだって言われるだけで終わったわ」

「だから、誰かのスキルが混ざっていると?」

「そう。味は同じだけど飲むなら聖女様が渡してくれたものがいいって言われた。聖女に崇拝していたら、まぁ、そこまでだけど。私は聖女のスキルが魅了なのじゃないかと推測してる」


 アネスのスキルは誰もわかっていない。もしスキルが魅了なのだとすれば、聖女ではなくお茶に魅了をかけていれば、お茶を求めた兵士を操る事ができるのだろうか。


「……でも、それなら別にアネス本人に執着させればいいんじゃない?」

「お茶の方が広げやすいから、とかあるんだと思うよ。その辺は私にもわからないわ」

「そっか。……うん。十分な情報だよ。ありがとう、リングア」


 私がそう言うとリングアは部屋を出て行った。

 アネスのスキルが魅了かもしれない。

 その憶測は、アンブラはアネスのスキルによってあちらの手に落ちたのかもしれないという予想に繋がる。どうしてもアンブラが敵に回るのもそれが理由だというのならば、今回メーちゃんから離れたのも魅了されたからという理由に繋げれる。そして、アンブラの魅了を解けば、手を取り合えるのかもしれない。


「……駄目だ」


 そう呟いて、私は頬を叩く。

 またそうしてリセマラしようとすれば、今までと同じのを繰り返してしまう。これ以上は求めないと決めたんだ。今更アンブラを求める為にリセマラを繰り返すことはしない。もう、疲れたのだから。

 気合を入れた私は、明日に向けてもう少し動く為に足を踏み出した。

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