49 姫巫女、次の未来
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矢を受けた歌姫は亡くなってしまった。応急処置も何も間に合わなかったようだ。
混乱していた場をナハティガル猊下が収め、解散を命じられた。私達の元にやって来たナハティガル猊下は申し訳ないと頭を下げていた。その横にはメガネ様の姿は無かった。
「猊下、メガネ様はどちらに?」
「精鋭の者と共に矢を放った者を追っているようです。メガネ様の代わりに挨拶をさせて頂く事、お許しください」
最後に会えないのは残念だったけれど、私がここで出来る事は無いので大人しくノヴィルに帰る事にした。
一部の物しか知らない地下通路に入り、車に乗って移動中に情報をまとめる事にした。
「オクルス、矢を放った奴は見えた?」
「えぇ、ばっちり。真面目そうな男だったわ。プレニル側から来たみたい。大分離れた場所にいたのに矢が届くなんて、なかなかの腕前だわ」
「離れてたのかい。音がはっきり聞こえなかったのはそれでか」
「貴女はむしろ歌に聞き惚れていたからでしょう?」
オクルスに指摘され、アウリスは口を噤んだ。
オクルスの見た者が本当なら、プレニルとメガニア間で手を取り合うなんて事はないだろう。とはいえ、メガニアからプレニルに戦闘をしかけるなんてこともないだろうことは、今回立っていた警備の者達を見ればわかる。
「メガネ様と会えなかったのは残念だな」
私の呟きは車のエンジン音に消えた。
何も動かないだろう。そう考えた私は間違っていたようだ。
メガニア建国から少しして、ノヴィルの街中でも眼鏡を付ける者が増えていた。
ファッションという訳では無く、その眼鏡にはステータスを見れるスキルがついているようだ。事細かにではないが、ステータスが見れるだけで便利な物だったので軍の中でも流行っていた。私も少し懐かしくて、久しぶりに眼鏡をかけていた。
大分眼鏡が広まったあたりで、軍の方に情報が入って来た。
その情報はプレニルに関する事だった。
プレニルでの庶民の生活や小さな村の位置から始まり、だんだんとプレニルの城の間取り、プレニル教皇の傍にいる護衛の数と特徴、プレニル教皇のルーチン、侵入に最適なルート等々。
ノヴィルの軍としては有り難い情報だ。これを元に訓練をし、プレニル教皇を倒すシュミレーションも繰り返されていた。
何かの罠なのではないだろうか。そう私とエトワレが怪しんでいる中で、軍から数人の兵がプレニルに向かった。情報が正確かの確認の為のようだったが、彼らが帰って来てその情報が正確であった事が証明された。
それを合図だったかのように、軍はプレニルに向けて動き出した。
私達はノヴィルの武力を残す為だとしてその侵攻には参加できなかった。仕方なくオクルスとアウリスの力を借りて状況を確認していた。
メガニアは進行していく軍に対して何もする事は無かった。むしろ食事の提供をしてくれた。
そしてメガニアから一人の少女と大きな狼が軍と一緒にプレニルに向かった事がわかった。
ノヴィル軍の侵攻は思っていたよりも順調だった。プレニル領の村も軍に少し怯えてはいたけれど、聞かれると情報を教えてくれるほどだった。物資に関しては彼らも少ない中で生活しているらしく、軍は無理に奪う事はしなかった。軍の目的は教皇の命だけだったようだ。
そうして、プレニル教皇の首は落とされた。
教皇の護衛により、こちらもいくつかの犠牲はあったが、それでも想定よりも被害は少なくすんだらしい。
その後、軍はプレニルの城を制圧し、教皇の代わりというようにプレニルの国を動かしていた。エトワレが扱いを悩んでいた軍がノヴィル領からプレニルに移動した事は有り難いことではあった。しかし、神に否定的な彼らがこちらを敵に見ないとも言えない。
どう対応しようかと悩んでいる時に、メガネ様がノヴィルに訪れた。
「プレニルの情報を流したのは私です」
挨拶を交わし、一先ずお茶でもと勧めてすぐにメガネ様はそう言った。私が言葉を失っていたけれど、メガネ様は私が聞きたい事を告げた。
「プレニルは我が国の民を殺しました。最初はプレニルと会話によって何かしらできないかと思いましたが、それが難しい事がわかりました。しかしメガニアには戦力がほとんどありません。十分な実力を持つ者はいますが、数が足りないので攻め込むには不安が残ります。なので私は、プレニルとノヴィルの情報を集め、ノヴィルが軍を保有していて、仮想敵国がプレニルだということを知りました。そして、プレニルの小さな情報から大きな情報まで、全てノヴィルに流させて頂きました。おかげで、ノヴィルの軍がプレニルを攻め込み、教皇に手を掛けてくれました。情報を流した際に、プレニル国民も教皇の犠牲者であり、彼らを傷つけない方が得策であると流したおかげで、無駄に血を流す事も無く終わることができました。その事に感謝と、勝手にそちらの軍を利用してしまった事を謝罪させてください」
「情報……?」
どうやってそんな情報を流したのか。そう考えて、流行り出した眼鏡の存在を思い出した。もしかしたら眼鏡が盗聴器やカメラのような役割があったのだろうか。
「それで、ミーティア様。そちらは恐らく、あの軍隊がノヴィルに攻め込んでくるんじゃないかと心配されていると思いますが」
「そう、ですね。あの軍隊は前教皇が創り出した組織で、彼らは神の存在を否定する者達です。信仰する私達に牙を向けると考えています」
「ですよね。なので、私達から提案させてください」
メガネ様を見ると穏やかな笑顔を向けていた。声も落ち着いたもので、優しさを感じると同時に、どこか恐ろしさを覚えてしまう。
「私達が情報を流したと軍は気づいており、今はノヴィルの情報を求めてきています。彼らの欲しがる情報を私達は手に入れています。ミーティア様が情報を流すのをやめてほしいのであれば、情報を流すのはやめようと思います」
「……その代わり、私達に何か望むのでしょうか?」
「えぇ。そんなに構えなくても簡単な事です」
そう言って一呼吸置いてからメガネ様は言った。
「私達の国に干渉しない事。少しでも敵対したと私達が感じた時、私達は情報を持って、そちらを攻撃します」
つまり大人しくしていろ、ということなのだろうか。これは、私達が大人しくしていれば安定した暮らしができると、軍の人間達に襲われる恐怖も無くいられるというのか。
でも、それは確定ではないだろう。そして、こちらの情報を持ち、いつでも軍に渡せるメガニアはかなり有利だ。
「そんな未来は、私は望んでいない」
今からノヴィル内の眼鏡を全て壊し、メガニアが掴んだ情報を全て嘘に変えるのも時間がかかる。言いがかりで敵対していると思われるんじゃないかと怯えるのも嫌だ。
メガネ様が現れる未来がどうなるのかはわかった。フラグだってとてもわかりやすいものだ。
過去に戻って歌姫が死なないように動く。そしてメガネ様と友達になって、メガニアと何も脅しも無く手を取り合う。そんな未来が、私にとってのベストだ。情報があれば、アンブラと会う事だって簡単にできるかもしれない。
また戻ろう。まだ知らない未来が残っているなら、スキルを使おう。その先の世界でもどうしようもないのなら、それを最後にしよう。
「これが、本当の最後」
不思議そうに私を見ているメガネ様に笑顔を見せて、私はリセマラを行った。




