47 姫巫女、揺らぐ
本来、人と仲良くなるのは気が合わない限りは大変だろう。でも、ゲームで何度も彼女達を攻略して来た私にかかれば容易い事だ。
ナーススは一番警戒心を表に出すタイプだけれど、本来は世話好きな子であり、犬のように信頼を勝ち取れば大分懐いてくれる。嗅覚が優れているから犬と呼ばれているけれど、実際は性格も犬の方が近いのだ。
ナーススとは一緒に過ごす時間が多ければ多い程心を開いてくれる。それこそ仲良しな友達の様に一緒にいて、小さなことでもナーススを褒めてあげる。それだけでナーススから信用を貰えるので、ナーススはゲームでも攻略が簡単なキャラクターだった。
次に攻略するのはアウリスだ。アウリスはその聴覚を完全に操れていないので騒がしい場所は苦手だ。彼女と動く時はなるべく静かな場所を選んでいく。そして彼女は人の語る物語が好きだ。特に英雄の話を好んでいる。この世界には童話というものも無いので、前世で知られている桃太郎なんかをこの世界の物に当てはめて語って見せれば興味を持ってくれる。食べるのも大好きなアウリスだから、食べ物を分ける行為なんかも彼女の信用を得るには十分だった。
アウリスと仲良くなった頃にクティスとの仲を深める為に動き出す。クティスは触覚が優れているので、少しの温度変化も人の動きも敏感に感じ取って疲れてしまうのだ。だから接触は出来るだけ少なく。人と仲良くする事を望む彼女の為に他の皆との楽しかったエピソードも伝える。そして何よりも寒さを嫌う彼女にマフラーを渡せば、それがかなりの好感度を上げるアイテムになってくれるので、いつの間にか彼女から私を訪れてくれるようになるのだ。
リングアはなかなか出会える機会が少ない。味覚が優れた彼女は毒も知っていて、毒味役と称して呼び出される事が多い。ただ、そんな任務から戻って来た彼女を癒してあげるのが好感度を上げるのにちょうどいいのだ。本来のゲームシナリオではリングアとアンブラは他のメンバーよりも恋愛感が強いのだけれど、私とリングアが禁断の恋に落ちるわけにはいかない。ならば良き理解者となるのが一番いいだろう。彼女の愚痴を聞きながら甘やかしてみる。普段からは想像つかない程にリングアは甘えん坊で幼い部分があるので、甘やかしてくれる存在を嫌がる事は無い。最初は年下からそんな事をされることに年上のプライドが許さない様子もあったけれど、今では二人っきりの時は猫の様に甘えてくれる。
本来のゲームでも難易度が高かったのはオクルスだ。実際のところ、私も何がオクルスの好感度を上げるのにいいのかはわかっていない。何度も見えてしまうオクルスなので隠れて何かしていればそれに気づかれて信用が下がってしまうかもしれない。なので、いっそのこと隠し事がある時はオクルスに言ってしまう事にした。ついでに私が大好きなアンブラについても語って、私の目的を何度も明確にして伝え、別の考えが出たら包み隠さずにオクルスには伝える事にした。その成果か、仕方ない子だというような目で見られるようになってしまったけれど、信用は勝ち取れた。
こうして、五人の攻略は一年以内には完了していた。でもその間にアンブラに会う事は無かった。
そして私が入隊した二年目に、ゲームのシナリオ通りにアンブラに敵対することになった。シナリオと変わりが無ければ、アンブラの目的は教皇であるエトワレを殺す事だ。
必死に力をつけた私はスキルを使いながらアンブラに勝つ事が出来た。自分の戦力は十分だという事がわかったので、スキルを使って教皇の元に向かう廊下でアンブラと対面する場面に戻った。
剣を交える前に、私はアンブラに説得を試みた。教皇を殺す必要は無いはずだ、一体何を目的にしているのか、アンブラが誰かに支持されているのか。でも私の問いにアンブラは答えてくれなかった。
この時点で、ゲームのシナリオの様にアンブラとミーティアは出会っていなかった。シナリオと同じように庶民向けの小さな教会でアンブラに出会おうと巫女である事も軍人である事も隠して待っていたけれど、アンブラに会わなかったのだ。だからこれが、アンブラとミーティアの初対面だった。そりゃ、初対面の相手に何でもべらべらと喋れないだろう。
答えてくれないだろうとわかっていたので、アンブラが剣に手を掛けた時に私はスキルを使った。
いっその事、アンブラを教皇と出会わせてみようと考えた。
本来であれば教皇のいる部屋に向かう廊下で警備しているけれど、今回は教皇のエトワレのすぐ横で一緒にアンブラを待ってみることにした。
最初は、シナリオ通りにエトワレは殺された。殺された瞬間にリセマラを行う。
次にエトワレはアンブラに捕らえられた。私を殺そうとしたアンブラにエトワレが必死に庇い、私を逃がしてくれた。ただの国民として隠れた私は、他の国民達と共に軍が開いた集会に出た。軍の者は神はいないことを伝え、教皇は正しき道を示した前教皇を殺し、この国を売ろうとしていたと罪を被せ、国民の前で教皇を処刑した。教皇の首が地面に落ちる前に、私はリセマラを行った。
次もエトワレはアンブラに捕らえられた。私は洗脳された姫として保護された。隠れてエトワレが監禁された牢獄へ行くと、そこには拷問にかけられたエトワレの姿があった。私の姿を見つけて、安心したように微笑むエトワレの姿に耐え切れなくて、私はリセマラを行った。
どんなに繰り返しても、エトワレとアンブラが出会うとエトワレが苦しむ未来にしか辿り着かなかった。耐え切れなくなって、私は五人と十分な信用を得た時まで戻った。そして、未来を覚えていないエトワレに泣きついた。謝った。
覚えていないにしても、エトワレを何度も苦しい目に遭わせてしまった。そしてエトワレは何度も私まで巻き込まない様にしていた。
教皇として、国をまとめる王としても、家族を捨てノヴィルの為に動くのがエトワレの正しい選択なのに、エトワレはそれをしなかった。エトワレは、ミーティアの為だけに教皇になったのだと、改めて気づかされた。
私の中の優先順位が変わり、私はアンブラよりもエトワレの身を重要視するようになった。これは本来のミーティアの気持ちも混ざっているのかもしれない。
私がなんとか説得しなければ、とリセマラを繰り返してアンブラと戦闘を繰り返した。
でも、何回目かの時に、アンブラがやって来ないという未来が現れた。暗殺に優れたアンブラだから、隠れて襲ってくるかもしれないとどんな時でも気を抜かずにいたけれど、アンブラは何時になっても来なくなった。
別の道を選んだアンブラが命を落としたのかもしれない。そう考えて私はリセマラを行った。
もう百回は繰り返したのだろうか。いつの間にかリセマラをした数も数えていなかった。
何度も私はアンブラを殺し、アンブラに殺されかけ、アンブラが来ない未来を迎えていた。
それだけの回数をこなしていると、私はアンブラがいない未来を望んでいた。
もう、次で最後にしよう。こんなにやっても別の未来がやって来ないなら、諦めよう。ミーティアに別の幸せをあげよう。
そう考えて諦めかけていた私はこれで最後だ、とリセマラを行った。
ノヴィル国内には何も変化はない。報告におるとプレニルも変化はない。
何も変化はない未来だ。そう考えていた私だったが、一つ変化が起きていたのに気づいた。
プレニルとノヴィルの間にある小さな島。その島がこの度国となるという報告を耳にしたのだ。




