45 姫巫女、説得
エトワレのおかげで監禁生活が終わった、私ミーティアはめでたく自由を手に入れた。
自由になったのなら、やりたい事は沢山ある。
まずフォルモにも頼んだけれど私自身でもアンブラを探したい。
知識だけでなく身体で覚える為にも、誰かから剣術を習いたい。
そして、軍部の方に入隊したい。
入隊する事はかなり反対されるかもしれないが、早くアンブラを探す為なら譲れない。それに軍隊に入った方が、私の行動範囲も広がるだろう。
巫女としての勤めはほとんどないから、私には時間が沢山ある。それにずっと監禁されていた可哀想な少女の願いなのだから簡単に首を縦に振ってくれるだろう。
そう、思っていた。
「駄目に決まっているだろう」
エトワレからの言葉は反対だった。
でも「はい、わかりました。」なんて簡単に受け入れるつもりはない。
「兄様。自分自身を守れる術を身に着けたいのです。だから、剣術を学びたいんです。駄目、ですか?」
可愛いミーティアの上目遣い攻撃に勝てる奴なんていないだろう。エトワレも酷く顔を顰めていたが、緩んでしまいそうな口元を隠して首を振る。
「な、なんと言われようとも、駄目だ」
「何故です?」
「それよりミーティにはやってほしい事があるんだ」
そう言ってエトワレは指を一本ずつ立てていく。
「まず同年代の子供より勉強が遅れているだろうし」
「監禁された部屋の中で、私が勉強に使いたい者は全部用意してもらえてましたし、教師の方もいました」
「美味しい物を食べて身体を作ってもらいたいし」
「監禁生活中の食事は栄養バランスも考えられている物でしたよ」
「お、女の子だからもっとお洒落とか」
「そんなに興味ありません」
監禁されていた少女、と言われれば十分な生活をしていないイメージがあるのだろうが、私の監禁生活は全く不便は無かった。おかげでエトワレの言葉を簡単に跳ね返せる。
しばらく黙っていたエトワレだったけれど、座っていた椅子から立ち上がり、物凄い勢いで私を抱きしめて来た。
「お兄ちゃんは心配なんだよ!剣なんて学んだらミーティの可愛い御手手が痛い思いするだろうし!外に出たら可愛いミーティに悪い子とするような奴がいるかもしれないし!男だらけの軍隊に入るなんて絶対絶対危ないんだからね!」
一応教皇だというのに、先程までの威圧とか威厳とか、そういうものが全て消え失せていた。
監禁生活から抜け出した私の予想外なことは、エトワレが思っていた以上のシスコンだったという事だ。シスコンだからこそ、妹を助け出す為に父親を殺して教皇になる覚悟もできたのだろう。
にしても、ここまで溺愛されると、こちらが自由に動けなくなる。私は何よりアンブラを探しに行きたいのだからとても困るのだが、どれだけ言っても、エトワレの意志が変わる様子は無かった。
「くぅ……!ミーティが軍部に入りたいなんて言うなんて!残す事にしたがいっそ軍部を解体させた方がよかったか!」
「そんなことをしたら路頭に迷う元軍人さんの問題が出て来ると思いますよ」
「そうだよ。だから親父が作った物だが残しているんだ。ただでさえ弱肉強食な世界で路頭に迷う国民がいるというのに、こちらの勝手で増やすわけにはいかない」
「聞いた話ですと、軍人さんも路頭に迷っていた方だった人が多いのでしょう?お父様のその点は素直に評価しても良いと思います」
「仮想敵が神であるのは問題だけどな」
エトワレはため息をついて、私を撫でていた手を止めて、今度は頬ずりをしてくる。
「ミーティは賢い子だから、ミーティにも考えがあるのはわかっているよ?ミーティにやりたい事があるならお兄ちゃんも応援したいんだよ?でも心配なのは変わりないんだよ」
「確かに、軍部の方でお父様と同じ思考を持っている人がいたら私が現れると危険かもしれませんね」
「ミーティ、それがわかってて入りたいの?」
「危険があるなら中に入って調べたいじゃないですか。それに、私に対する扱いで軍部の大部分の思考がわかるかもしれません」
「……ミーティ、本当に賢くなって。昔のまだ何も知らなかったミーティが懐かしい」
「兄様、そろそろ頬ずりやめてください。髪が乱れます」
エトワレはしぶしぶと私から離れてくれる。乱れた髪を手櫛で直した。
実際のところ、エトワレも潜入調査を考えていたはずだ。今は大人しいけれど、何時軍が神に剣を向けるかなんてわからない。それを事前に発覚する為にも必要なはずだ。そしてそれを一番信用できる者に頼みたいだろう。その点で言えば、実の妹であるミーティアが行くのがエトワレが一番信用できるだろうし、私としてもアンブラの居場所を探したい。お互いの利害が一致しているのだからエトワレならば受け入れてくれると思っていた。
なのに、まさかエトワレがシスコンだなんて。もう少し冷酷なイメージだった。
エトワレはしばらく唸ってから諦めたように息を吐き出した。
「わかった。せめて剣術に関しては許可する」
「ありがとうございます、兄様」
「軍部とかに関してはもう少し様子見だ。出来る限りミーティが行かなくていい方法を探すからな。お兄ちゃんはミーティを軍部に入れるなんて絶対反対だからな!」
「うん。わかってる」
今はそれで十分だ。簡単に首を縦に振ってくれないとは思っていた。
この結果が出るまでに18回戻った甲斐がある。
そういえば言っていなかった。
ゲームでも分からなかったミーティアのスキルを私は存分に活用している。
ミーティアのスキルは、時間の巻き戻しだ。自分が望む時間だけ戻してやり直しが可能なスキルで、私は『リセマラ』と呼んでいる。
リセマラをする事で本来進むはずだった出来事が少し変わってしまう事がある。それは新しい行動や言葉がきっかけになったり、私が何もしなくてももう一つの起きるであろう未来に変わる。それがこの能力の便利なところだ。
ミーティアの監禁を避けられないかとリセマラは行っていたけれど、前教皇の発狂を止める事は出来なかった。そして、あまりに沢山リセマラを行うと人々は違和感に気づくらしく、前教皇の私を見る目がさらに険しくなっていた。
リセマラに関してはエトワレも知っている。こうして会話中に何でも行っているのも気づいているだろう。それでも何も言わないのはエトワレの優しさだ。
注意しなければならないのは、起きる未来をしっかり見極めなければならない。新しく進み始めた未来より、前の未来の方がよかった時、もう一度リセマラをしたところでその未来に戻れるかはわからない。前世の私は経験がないけれど、所謂ギャンブルという物なのかもしれない。
この能力を使う事でこちらにデメリットがある訳では無いから、何度でもリセマラを行える。まぁ、何度もやり直すのは疲れるのだけれど、前世で何度もゲームをやり直して来た私には苦には思わなかった。
ミーティアとアンブラが手を取って歩ける未来の為に、私はこのリセマラを駆使しながらこの人生を進むのだ。
そうして私には剣術の先生が出来、剣を習い始めて二年後、エトワレへの説得が成功し、齢12年を迎えた私は正体を隠して軍人となった。




