44 姫巫女、計画
元いた世界で命を落とした私は、大好きだったゲーム、ファタリテート ノヴィルのキャラクター、ミーティアに生まれ変わっていた。
ミーティアはファタノヴィの攻略キャラクターではなく、主人公をサポートするキャラクターだった。
時折軍を抜けて街を歩いていた主人公のアンブラが小さな教会の修道女に出会い、本来なら関わりを持たない修道女に日々溜まっていた鬱憤やら近状やらを話していた事をきっかけに、修道女が攻略キャラ達がアンブラの事をこう思っているのではないか、という体で攻略キャラの好感度を教えてくれるのだ。それが身分を隠したミーティアだった。
そして特殊なルートを選ぶことで、アンブラは教皇の元に向かい、その命を奪うのを目的にする。そんなアンブラを止める為に現れるのが、ミーティアだった。
ミーティアはお助けキャラであり、アンブラの前に立つ敵キャラだったのだ。
可憐な見た目から予想も出来ない程の強さを見せ、突然現れた戦闘システムに慣れないプレイヤーをいじめていく。恐らく戦闘に慣れていたとしても、ミーティアを倒すのは大変だろう。何度も周回しても、倒せたのは片手で数えるくらいだ。
アンブラに負けたミーティアは大人しく負けを認め、自分を殺すようにアンブラに言う。しかしアンブラとしてはお助けキャラで仲が良かったミーティアを殺す事に躊躇いを覚え、その瞳から涙を流すのだ。
普段は感情が乏しいアンブラが、他の攻略キャラのエンディングでも見せない涙を流す。その様子は私にとってとても強い印象を残し、そして私は思ったのだ。ミーティアを攻略し、二人が幸せになるルートがあるのではないかと。
しかしどれだけ周回してもそのルートは見つからなかった。どうあがいてもアンブラとミーティアは剣を交わす。そしてアンブラかミーティアが死んでしまう。
その最期を否定したかった私にとって、ミーティアに転生できたのはとても都合がよかった。
ミーティアの幸せを求める。私自身がミーティアとして、前世でも見れなかったエンディングを迎える。それが私の目的だ。
自分が転生したと気づいたのはミーティアが五歳の頃だ。
その年はノヴィルの巫女であった母が死に、私が巫女に選ばれ、それと同時に父がミーティアを監禁した年だった。
ミーティアは此処から五年の間監禁されることになる。その理由は前世の時は不明だったけれど、ミーティアの過去の記憶を見るに、教皇である父は教皇であるにもかかわらず、神を否定しようとしていたのだ。
巫女は神の言葉を伝える役割もある。巫女を通して神が人々を見ているとも言われているので、父は巫女である私を自分から離そうとしても納得できる。
ただ、そんな教皇に不信感を覚える者も少なからずいた。監禁されている私の部屋に見張り兼護衛としてやって来たフォルモもその一人だった。
フォルモは過去のファタリテートのゲームで主人公のアンブラとパーティを組んでいた人だと聞いた事があった。今の彼はアンブラと出会う前の彼なのだろう。それに気づいて、もっと早いうちにアンブラと出会う事を目指して、彼に言った。「アンブラという男の子を探して」と。
フォルモは名前以外の情報は無いのに頷いてくれて、少ししてフォルモがノヴィルを去ったという話を聞いた。
これ以上は私が出来る事は無い。ほとんど訪れる人がいないのを良い事に、私はゲームの内容を思い出す。
前作のエンディングは二種類あるようだ。でも、どれを選んでもアンブラはノヴィルに戻って来る。その後の生死に関しては不明だが、それだけは確実だ。
ノヴィル編では軍に入り、特殊な力を持った五人の女性達の隊長として過ごしていく。そしてルートによってはアンブラが死んでしまう可能性だってある。
アンブラを殺してしまうのだけは避けたい。そうなると、特殊な五人とアンブラの関係を良い物にすればいいのだろうか。いや、良い関係にしたとしても、死んでしまうフラグを折れた訳では無い。なら、どうするか。そう考えて一つ思いついた。
ミーティアが先にあの子達の隊長になればいいのでは?
同じ軍に所属すればアンブラに出会えるきっかけは増えるだろう。そしてアンブラを上手く引き入れて、危険なルートに入ろうとしていたら私が抑える。なんだったら教皇に刃を向けようとするアンブラを止める事もできるだろう。
ゲームでのミーティアも誰に習ったかはわからないけれど、力はあった。その点でも軍に入ってもいいのではないだろうか。そしてこの監禁される五年の間で知識をつける。簡単なストレッチとか、多少の筋トレをしてもいい。そうして力をつけて、此処から出たらすぐに剣術とかを学ぼう。
そう決めて、私はすぐに動き出した。
監禁生活は、部屋から出れないだけでそれなりに快適だった。
ご飯はちゃんと一日三回用意されるし、こちらが頼めば好きな物を用意してもらえた。ただ監禁から逃れる為に使えそうなものは流石に用意してもらえなかった。
分厚い本をダンベル代わりに持ち上げ、掃除用のモップを剣に見立て、一人ではできない事は知識として頭に叩き込んだ。
一応姫でもあるから、礼儀作法もしっかり学んだ。私の専属の侍女が詳しいので学ばせてもらい、学問は教師の人を雇ってもらった。外部から来た人たちにはとても心配されたけれど、笑顔で返してやれば皆後ろめたい気持ちを表情に残して接してくれる。
そんな日々を五年も過ごせば私は立派な女性になっていた。心配なのは同い年の子に対する接し方だけれど、それは前世の知識に助けてもらおう。
ミーティアが監禁される生活があったのは知っていたけれど、その生活から救ってくれたのは兄だという事しか知らない。というよりも、ミーティアの情報は少なかったから兄妹仲というのがどれだけいいのかわからないし、兄のエトワレの性格も今の私にはミーティアの記憶でしか知らない。
妹にも優しいお兄さん、というのが今の私の認識だが、実際のところ彼はどんな人なのだろう。
そう少しドキドキしながらこの部屋から出る日を待っていると、勢いよく部屋の扉が開かれた。
いつもは控えめなノックをして、私が応えない限りは開く事は無かったのに。流石に驚いた私がそちらを見ると、そこには肩で息をしている男性がいた。
美しい金髪の彼がエトワレ。ミーティアの兄であり、この頃は確か19歳だ。
「にい、さま?」
私を凝視して肩で息をしている以外動きが無いエトワレに恐る恐る呼び掛けた。それが引き金だったのか、エトワレは涙をこらえるように顔を顰め、それから私に駆け寄って私の身体を抱きしめた。
「ミーティ!待たせてごめん!!ずっと辛い思いをさせてごめん!!」
全然辛くなかった、なんて言える空気ではない。エトワレの肩越しに私達を見て涙を流している使用人達の姿があった。
私はエトワレの背中に腕を伸ばし、抱きしめ返す。
「兄様、ずっと、ずっと会いたかったです」
私にとっては何の感動も無いが、私の中のミーティアには嬉しいことであったのか、私の目から涙が零れた。




