42 メガネ、接触
やあやあ、どうしたんだい?
眼鏡かけたまま寝てしまったみたいな顔をして。私だよ、メガネだよ!
さて、あの後はミーティの話を聞いていたらいつの間にか眠っていて、少し寝不足で朝を迎えたよ。
ナーススとアウリス以外の情報もここで少し話しておこう。
リングアは味覚に秀でていて、他のメンバーよりは突然人より良くなった事に動揺したり不便さを感じる事は無かったようだ。そんなリングアに軍がしたことは、あらゆる毒物を知り、耐性をつけることだったそうだ。今のリングアを毒殺する事は難しく、そして毒見役になる事が多いので、彼女がいる場での毒殺は困難を極めるらしい。人の舌と自分の舌を触れさせる事で相手の好みの味を知る事が出来るのはついでに習得したらしい。ついでに習得できることとしてはおかしい気がするが。
その能力は軍の上部の人間が面白がって、リングアは人と口づけ、舌を合わせる事に躊躇が無くなっていた。でも主人公に会って、自分を女の子として見てくれることで、リングアはアンブラを信用し、他の人への口づけを拒否するようになった。彼女のエンディングは、口づけを拒否した彼女に激昂した上司が殺し、アンブラが絶望するルートか、この世界が嫌いなリングアと共に新作の毒を二人が飲んで二人で死ぬかだそうだ。
クティスは触覚に秀でていて、少しの温度変化、風の変化等々をその肌で感じる事が出来る。その能力で近くにいる人の数も距離も肌で感じ取れる。ただ痛覚も人より敏感なので少しの傷でも彼女にはかなりの大怪我に感じてしまうらしい。しかしそんな彼女も、痛覚共有ができる能力を獲得し、彼女が一人に怪我を負わせるだけで周りの者にその痛覚が共有されて沢山の人間を殺す事も可能だそうだ。
人が傍にいるだけでクティスは嫌がっていて、普段はマフラーを巻いたり厚着をしたりして肌を極力出さないようにしていた。でも主人公のアンブラとの好感度が上がる事でアンブラの体温を好むようになるそうだ。
彼女のエンディングは死にかけたアンブラの痛覚を共有して一緒に死ぬか、クティスに監禁されて死ぬまで部屋に共に過ごすエンドがあるそうだ。
そして最後のオクルスは視覚に秀でている。透視能力、遠視能力等と視覚に関する事は問題なく操る事が出来、その能力から狙撃が得意で、オクルスの為だけに狙撃銃が開発されたらしい。そしてその能力から情報収集も得意で、大人な方法で他の軍人達と繋がりも作っているそうだ。
そんな彼女の好感度はわかりづらいらしく、しかも彼女のイベントが発生する時は他のキャラのイベントと被る事が多いので、他のキャラと同時進行はできないそうだ。
エンディングはオクルスに殺されるか、オクルスと恋人らしい関係になっても監視されるエンドだそうだ。
彼女の特徴としては他に比べて恋愛要素が少ないらしい。
そんな話を聞いていて、ではミーティは?と聞こうとしたけれど、その時にはミーティは寝落ちしていた。また機会があれば聞いておこう。
私が朝起きるとミーティアはもうベッドには居なかった。私を起こしに来たアウリスによれば、今日は軍の方で集合がかかったから先に起きたそうで。ミーティアは滅茶苦茶謝っていたと聞かされた。
「アウリスはそっちに行かなくてもいいのですか?」
「メガニアの巫女様が来ているなら護衛が必要だろうってことで抜けさせてもらったよ。ボクなら軍の上部の奴らの声を覚えてるから離れてても聞く事も出来るしね」
そう言ってアウリスは耳に付けた大きなヘッドフォンを指す。それから周りを見てから首を傾げた。
「そう言えば君の護衛は?」
「私の事は気にせずに観光していいよと言っているので、自由に歩いていると思われます」
「そっか。君を置いて行くのはどうかと思うけど」
「私は少し疲れたので今日はのんびり寝ていようかと思ってるんです。アウリスさんも私の護衛をしなくてもいいんですよ?」
「流石に護衛無しにするのは怒られちゃうよ。ボクの事は気にせずにどうぞ」
護衛、というよりは監視の方が近いのかもしれないと少し思ったけれど、口にはしない。
ルデルにも監視はついているだろうけれど、上手く動けているのだろうか。少し気になったからお昼寝をするとアウリスに伝えて、私はベッドに横になって目を閉じた。身体はそのままに、意識だけをルデルがかけている眼鏡に移す。本当はルデルの眼鏡に私が移った方が援護とか会話とかできるのだけれど、それをしたらベッドに一つの眼鏡が落ちている状態になってアウリスに見られるので、見て聞くだけに抑えないと。
ルデルの眼鏡から見えたのは細い路地のようだ。恐らく居住区の方にいるのかな。
そしてルデルの目の前にいたのが、アンちゃんだった。まさかルデルがアンちゃんと接触しているとは思っていなかったから少し驚いた。
「で?本当に抜けるつもりではないっすよね?」
「……わざわざそれを聞きに来たのか?」
アンちゃんは呆れたようにルデルを見ている。その顔には私が渡した眼鏡がちゃんとある。
「そうっすね。俺を裏切るならともかく、メガネを裏切るのはアンらしくないと思ったっすよ。だから確認だけはさせてほしいっす。二人っきりなら離せるんじゃないっすか?」
「……そうだな。はっきり言っておこうか」
アンはこちらを真っ直ぐ見つめる。その目には嘘偽りはないということがわかる。
「俺はここでやる事が出来たんだ。だからそっちには戻れない。わかったか?」
「そのやることは俺達にはできない事っすか?巻き込みたくないんすか?」
「お前らには関係ない事だ」
「関係ない?アンは思ってなくても、こっちはお前をまだ仲間だと思ってるんすよ」
アンちゃんの言葉にルデルは噛みついていく。
二人の会話を黙って聞けるおかげか、アンちゃんの言葉をじっくり考える事ができた。
アンちゃんはやる事ができたから抜けたいという事。その内容は教えてくれないけれど、この間は聖女様の傍に付く、と言っていたから恐らくアネス関連だとは思う。
その為には私達から離れる必要があると。
「なぁ、ルデル。お前は何か一つしか選べないと言われて、すぐに思いつくものはあるか?」
「は?そりゃ……クデルだけど」
「なら、クデルの事だけ考えて動けよ。メガネにもそう伝えろ。全部を求めたところで、手に入るわけないからな」
そう言ってアンちゃんはルデルに何かを投げた。ルデルがそれを受け取ると、それが小袋だという事が分かった。
「なんだよこれ」
「選別。良く調べてみろよ。それがこの国の嗜好品だ」
そう言ってアンちゃんはルデルに背中を向けて歩いて行った。ルデルはそれを追う事は無く、小袋をポケットにしまった。
そこまで見てから私は意識を身体に戻した。うっすらと目を開けばアウリスが眉間に皺を寄せてじっとして座っているのが見えた。
とりあえず普通のお昼寝に見えてたのだろう。少し安心して息を吐き出した。
思い出すのはアンちゃんの言葉だ。
何か一つしか選べないのなら。
ミーティは既に優先順位は決めているようだった。アンちゃんも何かしら大事にしたい物を見つけたのかもしれない。ルデルも推しだからこそ、クデルが大事で、それでも今は私について来てくれている。
そうなると私は、私が一番に選ぶのはナハティガル君だ。こうして転生して出会えて、一緒にいれるようになれたのだ。ナハティガル君が原作みたいに傷つくことは嫌で、それを止めることになればとプレニルに行った。そしてそのフラグは折れたはずだ。
そして今、私はノヴィルにいる。それはナハティガル君の為ではない。私が友人に会いたかったから、誘われたから来ただけだ。
ミーティの事は好きで、できるなら助けになりたいと思ってる気持ちは本当だ。でも、もしナハティガル君に何かあったと言われたら私はナハティガル君を優先するだろう。
誰もが平和であることは難しいのと同じように、誰とでも仲良くするなんて難しい。切り捨てられるものは切り捨てることも必要だと、わかっているつもりだ。
でも、仲良くなった子と離れるのは、私には耐えられない。
突然、アウリスが立ち上がった。驚いて思わず起き上がると、アウリスと目が合った。
「丁度起きたみたいだね」
「え、えっと、おはよう」
「おはよう。ちょっと問題が起きたよ」
アウリスは私に近づいて、目線を合わせるように屈んでくれた。
「軍部が、教皇を敵として動き出そうとしてる。ミーがもう少ししたら来ると思うけど、君達はすぐに離れた方がいいかもしれない」




