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41 メガネ、友達

 やあやあ、どうしたんだい?

 いつも眼鏡している友達が眼鏡外したところを見て、こいつ誰だ?って言いたそうな顔をして。

 私だよ私。メガネだよ!


 さて、私はナハティガル君への報告を終えて、ミーティのお部屋にやってきました。ちなみに私が眼鏡だという事は隠しておきたいので、ルデルに見張りを頼んで移動した。でも、オクルスには見られているのかもしれないんだよな……。まぁ、それがバレたところで、相手に利がある訳ではないだろうからいいのだけれど。


 薄めの浴衣に着替えて、私はナーススに連れられてミーティの自室にやって来た。扉をノックするとミーティの声が返事をする。その声にナーススが扉を開けてくれて、私は部屋の中に入った。中は広く、けれど思ったよりは質素な部屋に思えた。

 白いネグリジェに身を包んだミーティは笑顔で駆け寄ってくれた。


「急にごめんねメーちゃん。夕飯は一緒に出来なかったし、沢山お話したかったんだ」

「こうやって呼んでくれたのは嬉しいよ。ありがとうミーティ」


 そう答えるとミーティは嬉しそうに私の腕を引いてベッドに近づいていく。ベッドは二人で寝ても十分な広さがある。ミーティはお姫様でもあるから天蓋ベッドに寝ているイメージだったけれど、そんなものは無かった。


「遠慮せず横になってね」

「ありがとう。でも、いいの?部屋の中には護衛もいないのに」


 今までは必ずオクルスかナーススが一緒にいたのに、部屋の中では私達二人だけだ。もしかしたらナーススが扉の向こうにいるのかもしれないけれど、ミーティがここまで信用してくれるのは嬉しいけれど少し心配になる。


「メーちゃんはお友達だからいいのって説得したから大丈夫。外にいるナーススは鼻が利くから、もし血が流れればすぐに反応して入って来るけどね」

「あ、そっか。臭いでそれがわかるのか」

「……もしかしてメーちゃん、皆の能力の話聞いた?」


 ミーティに聞かれ、素直に頷く。


「オクルスに聞いたよ。神様から与えられたんだっけ?」

「そう。事故に巻き込まれて与えられたものだよ。ファタノヴィ界では呪いだって言ってたけどね」

「事故?」


 私が聞き返すと、ミーティは頷いた。それからゲームでの設定だけど、と前置きしてから説明を始めてくれた。


「五人は本当はこの世界の人間ではないの」

「え、じゃあ私達と同じ転生者?」

「って訳では無いみたいだよ。元いた世界に関しては不明だけど、その世界で巨大な穴が開いて、五人を含む大人数が地面の崩壊と一緒に穴に落ちて行ったんだって。その中で生き残ったのが五人だけだったんだ。で、この世界に来たと同時に、五人は五感のどれか一つが人より優れた物になっていたの」

「へー。てっきり神様に願って得た能力かと思ってた」

「ファタノヴィってそこまで優しい物じゃないからなぁ」

「優しくないの?」

「うん。ファタノヴィはギャルゲーなんだけど、全エンディングがBADENDなんだよね」


 少し考える。ギャルゲーは、大雑把に言えば女の子を攻略するゲーム。対象キャラの女の子の数だけエンディングがある。ファタリテートのノヴィル編は恐らくあの五人が攻略キャラなのだろう。それが、全てバッドエンド?不幸せな終わり?


「……それは、面白いの?ファタノヴィやってたミーティにそんなこと言うのは失礼なのはわかってるけど」

「まぁ、評価は悪かったね。突然の戦闘が始まったりしたし」

「戦闘?」

「戦闘チュートリアルがボス戦で、戦闘操作ほぼほぼわからないのにボスにボコボコにやられてゲームオーバーとかあったりしてたよ」

「……それは」

「特定のルートに入らないとその戦闘は全く無くて、ただのノベルゲーだと思ってたから私も流石にコントローター投げたよ」

「だろうね」


 私だったら絶対にそのルートはいかない。ナハティガル君が待ってるなら頑張るけれど。


「あ、他の皆の話も教えようか?」

「いいの?」

「いいよ。教えて困る事も全くないし。むしろメーちゃんにも共有したい」


 ベッドに横になってとりあえずリラックスする。思えばこの世界に来て、この姿で寝た事がほとんど無かったから少し新鮮だ。


「じゃあ、まずはナースス。ナーススは嗅覚が優れていて、嘘もわかるように訓練されているの。でも軍の方では人というより犬みたいな扱いされていて、人を信用するのに抵抗を持っている子だったの。最年少のアウリスのことは妹のように見てて、アウリスに何かあると一番怒るんだよね。そんな子なんだけど、五人の中では一番難易度低いんだよ」

「聞いてる限りでは難しそうに思うけれど違うんだ」

「うん。信用しちゃうと後は結構従順なの。ツンデレに見せかけてのデレデレな感じ。ただ、エンディングは主人公のアンブラを殺してしまうENDか、どちらも生きてるけれどナーススは植物状態になってしまうルートの二つがあるんだよね」

「わぁ。植物状態は今後も注意が必要なの?」

「ナーススが絶望して、精神的に苦痛が増えに増えたせいでなった事だから、それを気を付けてれば大丈夫。最初はアウリスとしか交流持たない子だったけれど、私が頑張って五人が本編より仲良くなったから、そんなことは起きないはず」

「それならよかった」


 ということは、ナーススは人を信じやすい子ではあるけれど、仲間思いな子だということだろうか。


「次はアウリスね。アウリスは一番年下の子なの。私よりは五つ上だけどね。聴覚が良すぎて全ての音がアウリスを襲うんだよ。だから今は特別に作ったヘッドフォンで聴力を多少抑えられてるんだ。それでも色々聞こえてるらしくて、もしかしたら今のこの会話も聞こえてるかも」

「聞き取れるってこと?特定の人の声を」

「そうだね。知ってる人の声なら聞き取れるらしいよ。それでもかなり集中しないと出来ないらしくて。普段は防音加工している部屋で過ごしているの。で、アウリスは幼い頃からよく聞こえる音に悩まされてたんだ。その中で国内のどこかのお家で母親が子供に寝る前に聞かせるお話をしてるのを聞いたの。そのお話をアウリスも気に入ってね。強い人が魔物を倒して人を助けるお話だったの」

「絵本のお話かな?」

「この国には絵本が無いから母親が自分で作って話してた即興のお話だったかも。でも、アウリスは任務でその親子が住む村を潰してしまったの」

「ひえ」

「自分が殺してしまった人がその話を作ったのは知らなかったから、そのお話が聞こえなくなったことをアウリスは残念がるの。アウリスとしては正義の名の下に、お話みたいに自分が悪を倒すヒーローだと思っているから、アウリスが自分達がしている事が悪い事かどうかに気づくことでエンディングが変わるんだ」

「私にはミーティ達が悪い事をしているようには見えないけど」

「原作では巫女姫の護衛の位置にはいなかったからね。主人公のアンブラが上から受ける命令で動く部隊だったから。そっちだとプレニルに加担している噂とかがあれば真実はどうあれ倒してたんだよね」

「大分変えたんだ」

「うん。どうせなら、皆幸せにしたいもん」


 ミーティは簡単に言っているけれど、かなり大変だったのではないだろうか。そもそも元の主人公がいないのだから。

 元の主人公と言えば、少し気になる事がある。


「ねぇ、ミーティ」

「何?」

「アンブラってファタノヴィでは何をしていたの?」

「その五人を率いる特殊部隊隊長だよ」

「あれ、でもそれって」

「うん。今の私の立ち位置がアンブラが本来いるはずの場所なんだ」


 それではアンブラがもし原作通りに来ても彼の居場所が無いのでは?


「本当ならアンブラがここに来るのを待ち構えようかとも思ってたけど、他の誰かとのフラグは立って欲しくなくて。だから皆の私への好感度を上げといて来るのを待つ作戦にしたんだ」


 なるほど。アイドルの推しが現れるのを待つファンみたいな気持ちかな。仲間を増やして待つ。


「だけど、思ったようにはいかないね。どんだけ待ってもアンブラは来なくて、今回は会えたと思ったのにあっちについてて……」

「私もまさか捨てられるとは思わなかったな。ごめんねミーティ」

「メーちゃんは悪くないよ。……今回は今までとは違うから、もしかしたらって思ってるの。この先はきっと今までとは違うって」


 そう言ってからミーティは身体をこちらに向けて、私の手を握って来た。


「私ね。最初はアンブラに会う事を優先してたけれど、今一番優先したいのは家族なの。そして、その次に友達を大切にしたい。そしてあの五人かアンブラって」

「……私アンブラより上でいいの?」

「うん。だってメーちゃんは同じ転生者で、私にアンブラの情報くれて、そして、その名前かな」

「名前?」

「メガネって、前世にあった眼鏡から名前取ったの?」


 本来の姿が眼鏡だと言おうか悩んだけれど、黙っている事にした。


「うん。咄嗟に出たのがメガネだったの。変な名前になっちゃったけどね」

「私、前世で眼鏡離せなかったからかなんか親近感を感じるんだよね。だから、こうして友達になれて嬉しかった。それに、前世を知っている人に会えたのも嬉しかったんだ」


 ミーティの表情が真剣な物に変わる。私はその目から視線を逸らす事ができなくなった。


「もう、こんな奇跡が起きるかわからないから、どんな結果であれ、もう諦めることにしたよ」

「あ、諦めるって?」

「私と、ミーティアとアンブラが仲良くする未来。私は、家族と友達の幸せを優先する」


 なんだか、止めないといけないように思えた。でもその理由はわからない。わからないのに、このままミーティが諦めてしまうのは駄目だと直感が告げている。


「……家族や友達、だけじゃなくて、ミーティも幸せになってほしいよ」


 口に出せたのはそんな言葉だけだ。

 原作ゲームの内容を知っていて、アンブラに会う事を目指して、色んな設定を原作と変えた可愛い女の子。無性に、彼女の幸せを私は祈ってしまう。

 私の言葉にミーティは苦笑を見せた。


「大丈夫。家族と友達が幸せなら、私も幸せだよ」

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