34 メガネ、爆走
やあやあ、どうしたんだい?顔に化粧水とか付けようと掌に広げて、付けようとしたら眼鏡かけたままだと気づいて絶望を感じた顔をして。
私だよ、メガネだよ!
私達がノヴィルに行くと決めた日、すぐに鳥を使って手紙を送り、あちらから帰って来たのは一週間後だった。
それまで私は眼鏡の姿でも人間の姿でもナハティガル君の傍から離れずにずっと一緒にいてナハティガル君成分をしっかり満タンに入れたよ。これで離れても寂しくない。はず。
とはいっても、プレニルに行った時の様に一日の終わりにナハティガル君の眼鏡に戻って報告はするんだけどね。
ミーティア様からのお返事には橋を渡ったノヴィルの領地で待ち合わせがしたいということだった。特に困る事はないだろうとナハティガル君達と別れ、アンちゃんとルデルと一緒に橋を渡りノヴィルの領地に足を踏み入れた。
荒野が広がるノヴィルの領地には見た限りお迎えらしい人の姿は無かった。まだ来ていないのだろうと私達はのんびり待つことにした。
「それにしてもメガネ、その格好動きにくくないか?」
ルデルの言葉に私は改めて自分の身体を見下ろす。白を基調に赤い色がポイントで入っている、前の世界でいう所の巫女服姿だ。着物ではあるけれど袴は裾を気にする必要も無く、見た目よりは動きやすい。ただ、アンちゃんの趣味でフリルとかリボンとかが飾られていて引っ張られそうな場所は多い。
「引っ掛けないように気を付けていればまだ快適だよ」
「そうか?」
「まぁ、ルデルよりは動けないけれど」
ルデルの格好は甚平ではなくなったけれど、ルデルの脚の線がよくわかる細身のズボンに袖が無い着物を着ている。打撃で戦うルデルには丁度いいのかもしれないけれど、まだ成長中の筋肉とかがよくわかるからワイルド。もっと筋肉つければすごく似合いそう。でも顔はまだ幼いから凄く似合わなそう。
そして私の服とルデルの服の製作者であるアンちゃんは黒ずくめな格好をして紺色の羽織を着ていた。羽織以外はノヴィルにいた頃に着ていた服だと言っていたけれど、すごく似合わなく思ってしまう。
私達の会話を聞いていたアンちゃんは私達の全身を見てから親指を立てて見せた。
「似合ってるから安心しろ。それにメガネは戦闘するにしても補助するぐらいしかできないからそれでいいんだよ」
「まぁ、それもそうか」
「ってか、アンちゃんって本当に器用だね。こんな服作れるし、こないだ描いてた私の肖像画もすごかったし」
プレニルで手に入れたという染料を使ってアンちゃんは一日使って私の絵を描いて見せた。出来上がった絵を見た時は実はカメラでも用意できたの?というぐらいに私そのままだった。色が足りないと本人は満足していなかったけれど、その肖像画は国の人たち、特にお年寄りの皆さんのお気に入りとなり、綺麗に掃除された特別な家に私の肖像画を飾って手が空いた皆さんがお祈りをしている姿を偶然見てしまった時は物凄く恥ずかしかった。実際にやられたら恥ずかしいから嫌だけど、本人にやってもいいんじゃないかな?
恐らくノヴィルから帰って来たらアンちゃんは私の肖像画を沢山の人に依頼されそうだ。アンちゃんに習って衣服を作れる人は増えたけれどアンちゃんほどの絵を描ける人は今のところいなそうなので、皆が各々崇拝する神様の絵を持ちたがり依頼するだろう。……他国には私は巫女であり神ではない設定で話をしているから何かしら言い訳を考えなくては。
「お待たせいたしましたわ」
話していた私達の横から声がした。そちらに視線を向けるとミーティア様がメガニアに来た時に一緒にいた女性、オクルスがそこに立っていた。
気配は感じてはいたけれど、車の音もしていなかった。一体どうやってここに来たのだろうかと疑問には思ったけれど、オクルスは片膝をつきノヴィルの挨拶を見せた。
「メガネ様お久しぶりでございます。ミーティア様の部下オクルスと申します。ミーティア様からのご命令で私がメガネ様をノヴィルにいるミーティア様の元までご案内いたします」
丁寧な言葉にこちらも丁寧に返そうとしたのを抑える。立場的に言えば私の方が上だ。だからと言って偉いですと主張しすぎず、それでも一線を置くように。
「お久しぶりですオクルス様。ミーティア様の元までよろしくお願いします」
そして自分達はメガニアの要人だと示すようにメガニアの挨拶を見せる。こんなものでいいだろうか。
オクルスは笑顔で返し立ち上がり、アンちゃんとルデルに目を向ける。
「そしてアン様とルデル様ですね。アン様はダフォディルと用事があり途中までの同行だとは聞いております。最後まで案内は出来ませんがいいですか?」
「構いません。しばらくノヴィルに過ごしていましたから迷う事はないかと思います」
オクルスは頷いてからそれでは、と手に持っていた鞄を見せる。
「ここからの移動は他国には内密にしているので目隠しをして頂きます。失礼ですがお願いします」
その言葉に私達は首を傾げつつもオクルスが私達に手渡してきた布に目線を落とす。アンちゃんが何か言いたげに私を見ていたけれど、従うしかないと頷くだけで伝えた。
アンちゃんとルデルは私が渡した眼鏡をかけていたので、仕方なく眼鏡を外ししまってから目隠しをした。それを見届けて私も同じように目隠しをする。
オルクスがちゃんと目隠ししているか確認してから、私達に手を繋ぐように伝えてきた。オクルスに手伝ってもらいながら手を繋ぎ、そしてオクルスが引っ張って私達は先導されるがままに足を動かす。
この状態で攻撃されたら危険だなと思いつつも進んでいくと、何か大きなものが動く音がした。平らな地面を歩いていたはずだけれど突然下り坂を歩かされる。一体私達はどこに連れていかれるのかと考えつつも、しばらく歩いていると引っ張られる事も無くなった。
「目隠しを外してもいいですよ」
オクルスの声にすぐに目隠しを外した。外の明るさに目が慣れるように何度も瞬きをしてそして広がる光景に私は、そしてアンちゃんもルデルも驚いた。
そこは元の世界で言う所の地下道のような空間が広がっていた。壁はコンクリートの壁、床もアスファルト。白い光が天井から照らしている。そして目の前にあるのは私達が良く知る自動車だった。
簡単な造りの自動車だけれども運転席に一人、後方に二、三人は座れるサイズだ。乗った事はないけれども自動車が初めて作られた時の形がこんなのじゃなかっただろうか。
「アンちゃん、知ってた?」
「知らなかった」
小声でノヴィルで暮らしていたアンちゃんに聞くけれどもアンちゃんも初見らしい。となると、本当に機密事項だということだろう。それにしてもこんな情報を私達に見せて本当に良いのだろうか。
オクルスはエンジンを掛けながら説明してくれた。
「機密ではありますが、ミーティア様より許可は貰っているので大丈夫ですよ。外を走るより速いですし、ミーティア様も早くメガネ様にお会いしたいのでしょう」
「嬉しい事ではありますが、もし私達が情報を漏らしたらどうするのですか?」
「その時は、命の保証も出来ませんね。申し訳ありませんが」
そんなことを綺麗な笑顔で返された。美人の笑顔は眼福だけれど言ってる事が怖い。
「さ、乗り心地はいいとは言えませんが、よくある馬車よりはいいですよ。臭いに関しては我慢をお願いします」
オクルスに促され、私達は車の後部座席に座る。安全のためか私を真ん中に座る形だ。私とアンちゃんが小さいおかげでなんとか三人で座れた。
そんな私達を見て運転席に座ったオクルスが振り返る。
「慣れているようですね」
「何にですか?」
「この車にです。どうやって進むのかとか、そもそもこれが車だとわからない人が多いんですよ」
オクルスの言葉で私達は自分達がおかしいと怪しまれているのだと気づけた。オクルスは最初にこれが車だとは言っていない。でも懐かしんで私達は車を見て、慣れたように後部座席に座った。実は情報が漏れていると疑われてもおかしくないかもしれない。
どうにか言い訳を考えようとするも、オクルスは前を見た。
「まぁ、大丈夫ですよ。そう言う人もいるとはミーティア様より聞いておりますから」
「え?」
「では、発進します」
そう言ってオクルスは思いっきりアクセルを踏んだのだろう。私達は後部座席にめり込まれるような勢いに襲われながら私達の身体は運ばれていった。




