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31 メガネ、帰国

 やあやあ、どうしたんだい?いい加減眼鏡ネタないわって顔をして。

 私だよ!メガネだよ!


 私達はプレニルを出てから数日、無事にメガニアに辿り着いた。行きより物凄く早くてメガニアでも車を用意しようかと考えるぐらいだった。

 むしろ前の世界にあった車を作れたら一番いいよね。でもメガニアもプレニルも産業革命前の世界って感じなんだよな。科学力がそんなに育ってないというか。電気というものはないから日が沈んだら皆夜更かしせずに寝てるし。そんな中で作れるとしたらやっぱり馬車や人力車ぐらいなんだろうな。せめて馬車だけでも考えておかないと。

 とまあ、そんなことは頭の片隅に積んでおいて、メガニアに繋がる橋を渡っている私の頭にはナハティガル君しかなかった。一応報告として毎晩ナハティガル君の眼鏡に移動はしているけれどやはりずっと一緒に入れるようになると思うと嬉しさが込み上げて自然と顔がにやけてしまう。


 橋を渡りメガニアに入った。メガニアの入り口にはいつものように沢山の人が集まっている。プレニルに向かうのかノヴィルに向かうのかはわからないけれど、沢山の人がフォルモさんが考案しただろう食べ物を食べている。何か新作ができたのならば私も食べなければ。いや、別に食いしん坊ってわけではないよ?アンちゃんにそんなことを言われてるけれど、これはただメガニアの特産物の確認ってだけなんだから。

 私達が車から降りると警備兵の人がこちらに駆け付けた。


「巫女様お帰りなさいませ!長旅お疲れ様でした!」


 一人の警備兵がお出迎え、もう一人いた警備兵はメガニア国内の方に走って行く。もしかしたらナハティガル君に報告に行ったのかもしれないな。

 それにしてもわざわざ膝をついてお出迎えしてくれるなんて。巫女である以上教皇の下の立場だとは言ってもすごくむずがゆい。でも他の人たちも見ているのだから巫女らしくしていないといけないだろう。


「貴方も私達がいない間も警備をしてくださりありがとうございます。メガニアに大きな変化はなかったですか?」

「新たに移住してきた者がいるぐらいで、特に大きな変化も無く、平和を守れております」

「そうですか。後で警備兵の皆さんに褒美と称してお土産を渡しますね。それまでまた警備をお願いします」

「はいっ」


 警備兵が私にキラキラした目を向けてから元の持ち場に戻っていった。変に神格化されてる気がするなぁ。

 とりあえずメガニア国への入り口に向かうと、そこにフォルモさんが立っていた。私達の姿を見て一礼してから近づいて来た。


「おかえり。無事に帰ってこれたみたいで何よりだ」

「ただいまフォルモさん。あ、こちらはプレニルの騎士のウェコ。プレニル教皇の意思をシバに伝える為にも、今後の事を話し合う為にも来てもらったよ。ウェコ、この人はフォルモさん。メガニアの警備隊長を務めてもらってるの」


 そう紹介するとウェコは緊張した様子も無くプレニル特有の挨拶を向ける。


「初めまして、ウェコと言います。この度は私達の仲間がお騒がせしまして申し訳ありませんでした。それについての報告と、シバの今後について教皇猊下よりお言葉を頂き、メガネ様御一行の警護も兼ねてこちらに参りました」


 いつもの喋り方を感じさせないウェコの言葉に少し驚いた。そういう話し方もできるのか。それかジャンシェからきつく言われたのかもしれない。

 フォルモさんはメガニアで作った挨拶をしてみせる。


「メガネ様より紹介に預かったフォルモという。メガネ様をここまで安全に連れてきてくださり感謝する」

「いえ。メガネ様に何かあれば我らの教皇猊下も悲しんでしまいますので」


 そんな会話をしてからフォルモさんは入り口の門を開けてくれた。


「教皇猊下が待っていらっしゃる。俺も後で向かうから、メガネ達は先に行っていてくれ」

「わかった」

「あ、あの」


 早速門をくぐろうとしたけれどクデルの声がした。後ろにいたクデルに目を向けると、クデルは一度フォルモを見てから言う。


「私達も後から行きます。メガネ様には申し訳ありませんが」

「ううん。大丈夫だよ。クデルと、ルデルとルーもかな?ゆっくりおいで」


 そう伝えて私はアンちゃんとウェコを連れてメガニアに入国した。

 メガニア内は特に変化は見られず、とても穏やかな空気が流れている。メガニアの景色を珍しそうに見ていたウェコが田んぼに落ちそうになったのには焦ったけれど。


「すげーな。プレニルとは全然ちげえ」

「そうだね。そもそもプレニルに田んぼなんてないよね」

「畑に水張ってるのが田んぼっていうのか。畑はねーの?」

「ちゃんとあるよ。お米だけじゃ暮らせないからね」


 急いでナハティガル君の元に伝えたいところだったけれど、ウェコに色々説明している内に思ったより時間がかかってしまった。

 ナハティガル君が住む大きな屋敷に辿り着くとナハティガル君が屋敷の前で私達を待っていた。姿が見えた瞬間に走り出してナハティガル君に飛びつきたい気持ちがあふれ出たけれど必死に抑えた。そもそもナハティガル君に飛びつくなんてそんな烏滸がましいことはできない。それでも足は勝手に早足になってくれる。アンちゃん達を置いていきそうな速さでナハティガル君の目の前に辿り着いた。報告でナハティガル君のことはほぼ毎日見ているけれど、やっと帰って来たんだと実感できる。あまりの嬉しさに声が震えそうになるけれどそれを抑えつつ私は軽く頭を下げる。


「ただいま帰りました。猊下」

「おかえりなさい、メガネ様」


 そんな簡単な挨拶だけでも凄く嬉しい。顔が勝手ににやけてしまう。一応客人のウェコがいるのだからもっとしっかりしなければならないのに。むしろもうウェコどこかに行ってほしい。

 そんなことを考えている私に変わってアンちゃんが口を開く。


「ただいま帰りました、猊下。こちらはプレニル教皇直属の騎士であるウェコという方です。この度の事件やシバの今後について話し合いの為に来ていただきました」

「初にお目にかかります、猊下。ウェコと申します」


 ウェコは挨拶をしつつもナハティガル君をまじまじと見ている。うちのカッコいい教皇に目が離せなくなる気持ちはわかるけどあまりにも見すぎじゃないかな。それ以上見るならお金取るぞ。


「そんなに固くしなくても構いません。プレニルの教皇猊下とは違い日が浅い教皇なので、むしろ固くされると困ります」

「猊下、それでは下に見られて舐められてしまいます。ここは偉そうにふんぞり返っても構わないですよ」


 ウェコの後ろからアンちゃんがアドバイスの様に言う。ナハティガル君は苦笑をみせる。そんな顔も麗しい。

 ふと、ナハティガル君の斜め後ろに女性がいる事に気が付いた。見覚えのない女性だけれど、最近メイドさんでも雇ったのかな。ここは「誰よその女!」と激高すればいいのだろうか。

 私の視線に気が付いてくれたのかナハティガル君が女性に手を向ける。


「彼女はヨナキウ様です。メガネ様がいない間にメガニアに移住することになりまして、医術に秀でています」

「初めましてメガネ様」


 ヨナキウは頭を下げてくれる。医術に秀でている、ってことはそういうスキル持ちか魔女だってことなのだろう。後で詳しく教えてもらわないと。と、その前に。


「医術に秀でているってことはシバの怪我は治ったの?」

「えぇ。綺麗に治っています。本人はぐったりしていますが」

「そうなの?」

「まぁ、気にする事ではありません。恐らく」


 何かしら事情がありそうだ。後で二人っきりで聞いておかないと。二人っきりで。

 とりあえず立ち話もなんなので屋敷の中に入る事になった。





 メガニア城門入り口前。残ったクデルはルデルの腕を引っ張った。


「フォルモさん、こちらが私の双子の兄のルデルです」

「……双子?にしては見た目の年齢差を感じるんだが。それにルデルはそこの犬の名前だったんじゃないのか」

「その辺を教えるのはまた後でで。長くなってしまいます。で、ルデル。フォルモさんが私達のお父さんのお兄さん、つまり私達の伯父さんなの」

「え、そうだったのか?」


 ルデルはまじまじとフォルモを見る。その視線にフォルモは少したじろいでいた。そんな二人にクデルは嬉しそうに微笑する。フォルモはクデルの表情に気づき、少し驚いた様子をみせつつも優しく笑ってクデルの頭を撫でた。


「おかえり、クデル」


 あぁ、その言葉が聞けるとは思わなかった。

 そう思いながら、クデルはフォルモを見上げて満面の笑顔を見せた。


「ただいま、フォルモさん」

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