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30 メガネ、帰路

 やあやあどうしたんだい?久しぶりにいつもの語りから始まるって顔をして。

 そうだよ、メガネだよ!

 なんだかんだこうして私が最初に話すのは久しぶりだ。少し嬉しさを感じてしまう。これからもメガネ頑張ります。


 取り敢えずそれは置いといて。

 私達はプレニルで三日間を過ごした。その間に皆は好きなように過ごしていた。

 クデルはエレオスに政治に関する事を話し合っていて、ひとまずはクデルがいなくても大丈夫なようにはしたようだ。

 アンちゃんはルデルの服を用意したり、街に出て服の素材や絵を描くための物等を買いに出かけたりしていた。一度目を赤くして帰ってきたこともあったけれど、理由は教えてくれなかった。

 ルデルはアンちゃんに服を作ってもらってからジャンシェに戦闘技術を学んでいた。十分強くなった頃に自分専用のナックルをもらったと嬉しそうに見せびらかしに来ていた。

 犬のルーとも仲良くなろうとはしたけれど、ルーはなかなか心を開いてくれなかった。クデルに相談したら自分が裏切ってしまったからだと寂しそうな顔をさせてしまった。でもクデルとルーは丁度よい距離に二人でいるので手を出さないようにしているとは言っても、ルーがクデルに何かするという事はなさそうだった。

 各々三日間を好きに過ごし、そしてメガニアに帰る日がやって来たのだ。


「本当に帰ってしまうのか?本当にまた来てくれるのか?むしろこちらがクデルの家でいいのだぞ?道中で何かあるのかもしれないのだぞ?なんだったら余が一緒に」

「もう。教皇様が留守にするなんて駄目です。何のために私が色々教えたと思っているんですか」


 行くぞ!とプレニル城の出口に集まった私達の見送りに来たエレオスはクデルとの別れが相当嫌なのか先程からこの調子だ。他の人がいる時は口調を乱さなくなったのはエレオスの成長の賜物だ。そして表情も豊かになってくれたおかげで、入り口を守る為に立っている騎士達が驚いた表情を見せている。まあ仕方ない。

 ちなみにプレニル城にはプレニルの犬以外の騎士達も勿論いる。今までは城の中に入れる者はほとんどいなかったけれど、最近では侍女を雇ったり城の警備の為にと中に入れる騎士を増やしたりと、以前よりも人口密度が増えていた。信用できるかわからない人が増えているのは教皇への安全を考えると不安はあるけれど、私達が使おうとした客室に物凄い埃が溜まって客人が掃除をしなければならないみたいなことにはならないだろう。


 しばらくクデルとエレオスのやり取りを見ていたけれど話が進まないのがわかってかジャンシェが口を開く。


「猊下があんな状態なので、自分の方から伝えさせて頂きます。出来る限り早くクデル様が戻ってきた方がいいかと思い、こちらで車を用意しました。それを使ってメガニアに向かって頂けると嬉しいです」


 こちらの世界の車は魔物が引く馬車だ。私達は徒歩で(疲れたら私は眼鏡に戻ったり、狼姿だったルデルに乗ったりはしたけれど)ここまで来たので楽に帰れるのは有り難い事だ。


「そして、シバにメガニアに常駐してもらうことにしました。それをシバに伝える為、旅の同行にウェコを連れて行ってください」

「よろよろ」


 ウェコが少し嬉しそうに手を振る。こちらとしても戦力が増えるので嬉しい。皆もそれで意見はないようなので私は少し頭を下げた。


「ご厚意ありがとうございます。無事にメガニアに帰りましたら、シバの対応も変えさせて頂きます。そして三日間お世話になりました」

「お言葉有り難く受けとります。……本当に早めにクデルを戻してくれ」


 最後の言葉はジャンシェの本心だろう。クデルがいなくなってエレオスが荒れるかもしれない。そうなると大変なのは周りの人間だ。私は深く頷いて見せた。

 こちらの話が終わってもクデルは解放されそうな様子はない。仕方ないからエレオスを止めようと思って動く前に、ルデルが口を開いた。


「そう言えばジャンシェ。侍女とかにピンク髪の女はいるっすか?」

「ピンクの髪?……いなかったな。ほとんど茶色か金色だ」

「そっすか。もしそういう子が現れたら優しくしてあげてほしいっす」

「知り合いか?」

「知り合い、ではないっすよ。俺が一方的に知ってるだけなんで」


 そう言ってからルデルはクデルとエレオスに近づいていく。エレオスからクデルを解放させるためだとは思うけれどエレオスとルデルでは喧嘩が始まってしまう。それをわかってかアンちゃんもそちらに向かって行った。


 そしてなんとかエレオスをクデルから離し、私達はメガニアに向かって帰路につく。

 車は思ったより立派で車輪付きの木造の家を引っ張っているようにも見える。車を引っ張るのは一匹の狼の姿の魔物とルーだ。ルーも中に入れようかと思っていたのだけれど、本人が走りたいと希望したので引っ張ってもらう事にした。

 車の中で私はルデルの隣に座った。


「ねぇルデル。最後にジャンシェに聞いてたピンク髪の女の人ってゲームに関係ある人?」


 ルデルが唐突にそう聞いたというのならばファタリテート プレニルで重要な位置にいる人物なのだろう。私がナハティガル君を守る為に危険なフラグを避けるように、ルデルもクデルを危険に晒さない為に確認したのかもしれない。


「あぁ。主人公なんすよ」

「主人公?」

「そうっす」

「ファタリテートの?」

「ファタリテート プレニルの」


 少し考えてから私は目を見開く。


「主人公はクデルじゃなかったの!?」

「最初に俺とメガネ達が会った時に説明したはずっすよ。クデルは主人公の友人だって」


 言っていたのかもしれない。しれないけれど別のショックが私に襲っていたから覚えてなかった。


「ファタリテート プレニルの主人公はピンクのふわふわした髪のアネスちゃんっていう人っすよ。垂れ目のほわほわした癒し系な女の子っす。ファタプレは乙女ゲーだったっすけど男子からそれなりに人気があるキャラだったすね。まあ、俺はクデル一筋っすし、垂れ目の子はそんなに惹かれないんすよね」

「そうなの?」

「俺は強気な感じの見た目の子が好みっす。……まあ、アネスちゃんに関しては今後現れるんじゃないっすか?今はファタプレ前のシナリオかもしれないっすし」

「そうだね。今はアンブラがプレニルに行くルートを選んだ方のシナリオ中かもしれない」


 まあ、そのゲームのシナリオも大分壊したとは思う。アンちゃんは結局は敵討ちなんてしていないし、そもそも私の存在はゲームのシナリオにはいない。フォルモさんとセレナードちゃんの代わりにルデルとクデルがいる。

 これでナハティガル君が傷つく様な事態からは離されたはずだ。ナハティガル君に怪我を負わせたプレニルとは仲良くできたし、他に危険が襲ってこようが仲間が増えたこちらが有利なはずだ。度々私だけ眼鏡を通して帰っていたけれどやっとナハティガル君とずっと過ごせる時が来る。それを思うだけで早く帰りたくて仕方が無くなる。


 そうして私達は行きより速いスピードでメガニアに向かう。でもメガニアに着いたところで別の仕事が待っている事をその時の私は知る由も無かったのだ。

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