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29 犬、似た者同士

 僕はトイ。子供と間違われるぐらいに背が低いんだけど、これでも一応成人男性だ。

 元々普通の両親の間に生まれたんだけど、僕は周りの皆と比べて明らかに成長速度が遅くて、家の手伝いも満足に一人ではできなかった。そして僕とは一つしか違わない弟が僕と違って皆と同じように成長して仕事も一人でこなせるようになった頃、僕は捨てられた。

 平等を謳うプレニルで子供が捨てられるというのはとても珍しい事だった。というか、本来許される事ではない。どんな子であれ平等に愛せと女神様は言っているのだから。

 だから僕は捨てられたといっても、適当な場所に置いていかれたというわけでもなく、親を亡くした孤児達と一緒に孤児院にいるわけでもなく、プレニル教皇猊下の元で戦力となる騎士を育てる為の騎士団教習所という場所に連れていかれた。

 猊下のお力になることだから誉れだと両親からは言われたけれど、教習所に入れられたならもう家に帰る事はできない。もし騎士になれなかったとしたら役立たずということで殺されたかも知れない。周りよりも小さい僕は剣を振る事も難しくて、とにかく必死に動いていた。ここの場所を失ったら、僕はもう居場所が無いんだ。

 皆と同じ剣を振れなかった僕は少し小さい剣を探してそれで戦う術を見に着けた。皆よりも鍛錬を必死にしていたから剣術は皆よりも上になっていた。そんな努力のおかげで僕はいつのまにか変わっていた新しい猊下の専属騎士であるプレニルの犬の一匹に選ばれたのだ。

 その時に猊下に新しい名前として「トイ」という名前を貰った。そして神様の奇跡で僕でも使いやすい武器をも頂いた。僕は見に着けた武術を神と猊下に逆らう人間に振るうのが使命だった。これが僕の新しい居場所だった。


 だったのに、クデルとかいう女が猊下に刃を向けたあの時から猊下は変わってしまった。


 いつも猊下の考えではなく女神様の託宣ばかりを聞いているのはわかっていた。猊下は僕達を意識してる様子がない事はわかっていた。何を思っているのか分からない人だったけれど、たまに僕の名前を呼んでくれるだけでよかったのに。なのに。


「もうむやみやたらに制裁はするなって言うし、それをジャンシェに愚痴ってもジャンシェは良い方向に変わってるからって言うし、ウェコも気にしてないし。絶対全部あの女のせいなんだから!」


 僕の叫びはお城の中庭に響き渡る。誰かに聞かれただろうけれど僕は別に気にしない。むしろ同胞が現れてくれないかと思うぐらいだ。

 日向ぼっこをしていた犬を捕まえて僕の愚痴をただただ聞いてもらっていた。こいつ犬の癖に人の言葉が喋れるみたいだし、愚痴るにはちょうどいい相手だと思っていた。犬は横たえていた身体を起こし、僕の目の前に座る。


「あのさあ、言いたい事はいっぱいあんだけど」

「何?」

「人が寝ているのに勝手に愚痴を言うのやめろよな。あと、お前はクデルが気に入らないって言いたいんだろ?俺はクデルの犬なんだぞ。そんな奴に愚痴るもんじゃないだろ」

「だって君、あの女とそんなに仲よさそうに見えないんだもん。君もあの女が嫌いなんじゃない?」


 僕の言葉に犬は黙り込んだ。やっぱりそうなんじゃないか。

 犬はしばらく黙ってから口を開いた。


「好きか嫌いかで聞かれたら嫌いだ」

「やっぱり。あいつに何かされたんだろ」

「詳しくは言えないけど、裏切られた」

「やっぱりそういう女なんだ」

「でも、クデルがそんなことした理由はルデルに聞いてるんだ。それでも俺はクデルが憎いし、できるなら殺してやるって思ってた」

「じゃあ僕達丁度いいじゃん。僕もクデルを殺したいし、君も一緒なら二人で協力してクデル殺そうよ」

「できないよ」


 僕の提案に悩むことなく犬は答える。あまりの判断の速さに僕は頬を膨らませた。


「なんでさ。僕が弱くてできないとでもいうの?」

「違う。俺がクデルに危害を加える事ができないようにルデルにされてるし、それに」

「それに?」

「……お前の大切なエレオス猊下に嫌われるけどお前はいいの?」


 犬の言葉は確かにあり得る事だ。猊下はやけにあのクデルに懐いてる。洗脳されているんじゃないかってぐらい。でも、クデルを殺して解ける洗脳じゃないってことくらい、わかっている。

 それに猊下に嫌われるのは僕は嫌だ。


「……嫌だ。僕の居場所がまた無くなるのは嫌だ」

「人間のお前なら他のところで生きる事もできるんじゃないの?」

「できないよ。他のところで生きる方法を僕は知らないもん。暴力に頼ってばっかりじゃ外では駄目だって昔言われたし、それにプレニルの犬になるまで頑張った事が全部無駄になるもん。それは嫌だもん」

「めんどくさいな人間って」

「君はどうなの」

「無理。俺はもうルデルかクデルのどちらかから離れて生きれない。そうなってる」

「ふーん?よくわからないけど、君も大変なんだね」


 僕は立ち上がって身体を伸ばす。色々喋ったおかげで少しはすっきりした。適当に戦ってる方が気分良くなるんだけど、それは猊下に止められているから我慢しなくちゃいけない。そういえばジャンシェがルデルとかいう奴に戦い方教えてやってるって聞いた事があるから、鍛錬してやるって理由でボコボコにしてもいいかもしれない。今度行ってみよう。


「喋るだけ喋って帰るのかよ」


 不機嫌そうな犬の声が聞こえてくるけれど、僕にはどうでもいい。犬の事を気にするつもりは全くない。

 でも一応愚痴を聞いてくれたお礼としても簡単に言葉をかけておこう。


「うん。一応お礼言っておくね。またイラつくことがあったら愚痴るから」

「そん時は食い物でも持ってこいよ。聞くだけ聞かせてそれで終わるな」

「え、犬にそんなことしなくちゃいけないの」

「あと、俺の名前はルーだ。犬言うな」


 犬の名前なんて僕にはどうでもいいけれど、今は少し気分がいいから覚えておいてやろう。


「わかったよ。僕はトイ。誇り高きエレオス猊下に仕えるプレニルの犬だよ。覚えておいてね」


〇補足のようなもの

『ファタリテート プレニル』という女性向けゲームの攻略キャラがプレニルの犬達です。(エレオスは隠し攻略キャラ)

 プレニルの犬達は騎士候補生達の中から有能な者を選び、エレオス猊下直属の騎士の存在になりました。プレニルの犬になる前には別の名前で過ごしていたのですが、エレオスがこの世界に来る前に愛読していた犬の絵本から、犬の種類名をもじった名前をつけられました。プレニルの犬と呼ばれるのもエレオスが犬好きだからです。

 攻略難易度順だと トイ、ジャンシェ、ウェコ、シバの順で難易度が上がります。シバが一番難易度が高いですが、プレニルに豊富な食文化が根付いていれば一番簡単に攻略できるキャラになっていたでしょう。


 簡単にプレニルの犬達のプロフィールを乗せて、番外編終了にします。次回から本編に戻ります。


〇トイ (名前となった犬種:トイプードル)

 年齢26歳 誕生日9月26日 一人称 僕 

 見た目:小柄で天パの可愛い少年のような見た目。目はまん丸なこげ茶色

〇ジャンシェ (名前となった犬種:ジャーマンシェパード)

 年齢23歳 誕生日3月19日 一人称 自分

 見た目:高身長で鍛えられたムキムキな身体。黒髪を後ろに流し、切れ長な青色の瞳

〇ウェコ (名前となった犬種:ウェルシュコーギー)

 年齢19歳 誕生日5月20日 一人称 俺

 見た目:ジャンシェ程ではないが高身長。だが人より胴長。橙色の長髪を首より下で結ぶ。黄色の垂れ目

〇シバ (名前となった犬種:柴犬)

 年齢:17歳 誕生日4月8日 一人称 僕

 見た目:プレニルの平均身長。痩せ型。黒と茶色が混じったさらさらの短髪で、目はぱっちりした緑色

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