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23 転生者の男二人

 プレニルにしばらく滞在する事になったメガネ達一行。

 エレオスが滞在中にと二つの部屋を貸してくれた。一つは女性達へ、もう一つは男性達へといった部屋割りだ。(エレオスがクデルに一緒に寝てもいいよと言ったことで一悶着があったりもした。)

 男性用の部屋で椅子に座って糸を操っているアンの元にルデルが近づいてきた。


「アン、メガネから俺の服を作ってくれるって聞いて来たんすけど」

「おう。とりあえず腕の長さ測らせてくれ」


 椅子から立ち上がったアンがルデルに近づく。メジャー代わりの幅が広いリボンを手に持っていたアンだったが、ルデルと隣に並んで眉を寄せた。動きを止めたアンに気づいてルデルは首を傾げる。


「どうした?測れないすか?」

「いや、測れはするんだが。犬の時もでかいとは思ってたが、人間でもでかいんだな」

「俺の身体の成長はルーの憎しみの強さに比例してるから、それだけルーの憎しみがやばかったてことっすね」


 ルデルが命を落としたのは10歳の時だ。あの時に死んでいなかったとしたら今は14歳なのだが、その身長は15歳のアンに比べたら差がありすぎる。普通より小柄なアンは年齢を若く見られるのだが、ルデルの場合はその逆で大人に見られそうだ。

 しばらく唸っているアンにルデルは口角を上げる。


「なんすか?高身長が羨ましいっすか?」

「違ぇわ。俺はこのぐらいの身長でちょうどいいんだよ。高身長はもう前世で堪能させてもらってる」

「そう言えば、アンの前世の話って聞いた事ないっすね」

「それを言ったら俺もルデルの前世に関しては聞いた事が無いぞ」


 しかも二人の間には必ずメガネがいたので、こうして二人だけで話す事も初めてであった。

 ルデルの腕と同じ長さに切ったリボンをまとめ、アンはルデルに椅子に座る事を勧める。ルデルは遠慮なく腰を下ろした。ルデルの正面に座ったアンは、リボンを一度端に寄せてから再び糸を操る。どうやら細い糸を上手く組み合わせて布地を作っているようだ。


「アンとメガネって仲が良さそうすけど、前世でも知り合いだったんすか?」

「違う。前世ではあんなタイプの人間と会った事が無いな」

「それなのにメガネを叩ける間柄すか」

「前世知っている奴にしかわからないネタをするあいつを止められるの何て俺ぐらいだっただろ。これからはルデルも止めてやってくれ」

「俺はアンほどメガネと仲良くできそうにないっすよ。あんな見た目っすけど、年上のように感じるし」


 年上。その言葉にアンは手を止めた。


「……ちなみに、ルデルの享年はいくつだ?」

「18歳っす」

「年下だったのか。俺は21歳」

「マジすか。成人してたんすか。もう少し年が近いと思ってたっす」

「嬉しいようで嬉しくないな。メガネは働いていたみたいな事を言ってたからもう少し年上だろうな」

「メガネの前世って気になるっすね。綺麗な大人の女性だったんすかね」

「……今の性格を見るとそんな前世とは思えないな」

「そういえばメガネは?」

「今ナティのところに戻ってる。報告で遅くなるかもとは言ってた」

「じゃあ、本人に聞くのは今度っすね」


 アンは少し考えてから首を振る。いくらあんなメガネだが、女性に年齢を聞くのは避けた方が良さそうだ。気にし無さそうには見えるが。


「ところでルデル。布ができたから服作りに入るが」

「糸だけで布作るとかすげえっす」

「細かく操れるから出来る芸当だ。で、どんな服が良いとか希望があるか?戦闘スタイルを意識して動きやすいのがいいとか」

「んー。俺最近まで犬の姿だったからなぁ。誰かから戦闘を習わない限りはわからないっす」

「それもそうか。その姿で噛みついて攻撃は出来ないもんな。前世で武術とか習ったりもしてないか」

「現代日本の高校生がそんな技術持ってるはずないっすよ」

「柔道とか剣道とか習ってないのか」

「俺は帰宅部でしたっすよ。放課後はバイト三昧っした」

「そうか……。じゃあ今は取り敢えず着物作るから、今後また新しいの作るってことで」


 そう言って傍にある小さなテーブルに置かれていたナイフを手に取る。型紙も無しに迷うことなく布を切っていく様子にルデルは目を輝かせた。


「慣れてるっすね。アンは前世では服作りしてたんすか?」

「いや、作ったのは数枚ぐらい。絵を描く上で服の仕組みを学びたくなって、それで独学で学んだくらいだ。だから着物以外も作ろうと思えば作れるぞ」

「まじっすか!そういやメガネの服も少しずつ装飾増えてた頃あったっすけど」

「俺がやらせてもらった。……あいつ黙ってれば見た目が良いから、可愛い服を着せるのに丁度よくて」

「わかるっす。黙ってれば可愛い女の子っすから」


 本人がいないからこそ楽しめる話を二人はしばらく話していた。メガネの愚痴や直してほしいところを離している内に、無事に着物は出来たらしく、アンはそれを抱えて立ち上がった。


「着物なら丈も調節できるからお前の身長より少し長いくらいで作ったが、試し着してもらっていいか?」

「いいっすよ。作ってもらってる身っすから、我儘は言わないっす」


 そう言って立ち上がったルデルは着物に袖を通し、アンは新たに作りだした太めの帯を使ってルデルの着付けをする。その様子を見ていたルデルだが、ふと眉を寄せた。


「アン、問題があるっす」

「なんだ?帯締めすぎたか?」

「いや、これ俺一人で着れる気がしないっす」


 その言葉にアンは手を止める。少し悩んでからルデルの顔を見上げた。


「覚えてくれとしか」

「見てる限りで無理っす。あの、ジンベエザメじゃ駄目っすかね」

「甚平な。なんで鮫の方が出て来たんだよ。……あれなら少し直すだけで大丈夫か。すぐ作り直す」


 そう言ってアンは着物をひとまとめにし、ルデルの胴体の長さ等を測ってから再びナイフを手に取る。彼が自分が創り出す糸を使って上手い事作っていく姿を見てルデルは目を細める。


「凄い便利そうなスキルで羨ましいっす」

「でもお前のスキルは、生命?だっけか。人の傷治せたりするんじゃないのか?」

「できないんすよ。自分の傷は治せるんすけどね。他の人にできるスキルは生命力を与える力ぐらいで」

「……?治療とは違うのか」

「違うっすね。いうなればバフを与えることっす」

「ば、ふ?」

「……アンはゲームはしてこなかったんでしたっけ」

「あぁ。知り合いはやっていたらしいんだが、俺は興味が無くて」

「じゃあ、体験した方が早いっすかね。ちょっと失礼」


 そう言ってルデルはアンに片手を向けた。手を止めたアンが首を傾げているのを見つつ、ルデルは口を開いた。


「スキル、生命の滴(エナジードリンク)


 その言葉を唱えた瞬間、アンの身体が仄かに発光した。だがその光はすぐに消え、見ている限りでは変化が見られない。だが、スキルを受けたアンは手を何度か握ったり開いたりを繰り返してから目を輝かせた。


「すげぇ。名前の通りにエナジードリンク飲んだみたいな感覚がある。これなら徹夜も余裕だな」

「俺はエナドリ経験ないっすけどおんなじ感じっすか!」

「よっしゃ。これでついでに色んな服を作ってやる。その中から好きなの選べよルデル」

「楽しみにしてるっスよ!」


 物凄い手さばきでどんどん色んな服を作っていくアン。その様子を目を輝かせて見守るルデル。

 そしてその姿を部屋の扉を数センチ開けて帰って来たメガネが見ていた。丁度廊下を歩いて来たクデルが、そんなメガネの姿を見つける。


「メガネ様、どうされたんですか?」

「いや、なんでもないよクデル。あっちで私とお茶でも飲もうか」


 静かに扉を閉め、メガネはクデルの背中を押して部屋から離れていった。

 その後、再び部屋に戻って来たメガネとクデルが見たのは、ファッションショーを楽しむ男二人の姿だった。

 

 このシリーズはメガネが視点で進んでいくので、他のキャラ達の会話というのがなかなか出せない事の方が多いので、転生した男達の会話を書いてみたくてこの話が出来上がりました。

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