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20 妹、復讐実行。

 孤児院で私達を育ててくれた人は私達に「養母さん(おかあさん)」と呼ぶように言っていたけれど、魔女である姿を見せてからは私に「先生」と呼ぶようにと言った。

 先生は蘇生魔法を研究している人だった。何故蘇生魔法を求めるのかと聞いたけれどはぐらかされてしまった。

 今まで私達を育ててくれた先生は穏やかに笑い、そしておっちょこちょいな一面もある優しい養母さんだったけれど、今の先生はふいに冷たい雰囲気を出すことが増えていた。先生が蘇生魔法を求める理由も、先生がふいに寂しそうに笑う理由も、先生から離れた今でもわからない。けれど、先生のおかげで私はプレニルに復讐する力を得ることが出来たのだ。


 亡くなったルデルの遺体はまだ残っていた魂と一緒に先生の特殊スキル氷で凍らされ、私達が2歳まで過ごしていた生家の地下に隠した。住んでいた時は地下室の存在は知らなかったけれど、初めて来たであろう先生が簡単に見つけ出していた。

 生家の周りに住んでいた人たちはもうこの辺には住んでいないようで、ほとんどの家が廃屋になっていた。皆がまだ生きているのか、それとも殺されたのか、それを知る術も無かった。

 先生は一先ず、と生家で暮らす事になった。出来るならば首都から離れた場所に移り住みたかったらしいけれど、私がスキルを使いこなせるまではルデルの傍で過ごす事を勧めたのだ。


 私の得意なスキルは水だと思っていた。しかし私の力と私からフェンテのことも聞いた先生は教えてくれた。

 私の本来持つスキルは特殊スキルであり、それは死を操るスキルなのだと。

 私がフェンテの身体から生まれてすぐに亡くなったクデルの身体に移ったのもそのスキルの影響らしい。このスキルを操れば蘇生も出来るかもしれない。そう先生は言っていた。

 そして、ルデルのスキルは私とは真逆で、生を操る特殊スキルの可能性が高いそうだ。だからこそ亡くなったルデルの魂が遺体の傍にまだ存在できているらしい。亡くなったはずのルデルの身体からはそのスキルの影響で生の力が溢れていて、亡くなったのに生きているのと近い状態にあるらしい。

 つまり、私とルデルの力を組み合わせればルデルがまた生き返る可能性があるらしい。それを聞いて泣きそうになってしまった。

 その為にも私は自分のスキルを極めなければならない。しかし特殊スキルというのは同じスキルの人がいることが無い為に、自分で考えて極めないといけない。そんな私が最初にやったのは枯れた草花を元に戻すことだった。それこそ私が一番に習得したいことだったけれど、先生に止められた。枯れたものを生き返らせるのではなく生きている草花を枯れさせてみなさいと言われやってみたところ、これはすぐにできた。

 死のイメージを草花に纏わせる。それができるようになったので、次はネズミなどの小動物でも試してみた。こちらは草花程簡単にはできなかったけれど、生き物をすぐに殺さないようにする等の調整が可能になった。死に対しては無意識にも人は怯えてしまうものだ。これは足止めに使えると学んだ。そしてこの生き物に纏うものをオーラと呼ぶようにした。このオーラは使う事に慣れていくごとに死期が近い人から放たれていると見る事が出来るようになった。試しに死期が近い人からオーラを遠ざけてみれば、その人はすぐに体調を良くしていた。これのおかげでルデルから死のオーラを完全に離すことができた。


 そんな日々が過ぎていく内に、私の身体は成長していった。でも、当たり前の事だけれどルデルの身体は成長できずにいた。

 10歳の姿のままでは生きていくのに大変かもしれない。特に、私が計画している復讐の後では特に。

 それを先生に相談すると、魂の移動をできるようにしたらどうかと言われた。


「クデルは自分の魂を生きてほしい娘に移動させた。だから、誰かと誰かの魂の移動はできるんじゃないかしら」

「できますかねぇ。あと、魂を移動したところで成長はできるんですか?」

「生命力と同等の強い力があれば身体も成長すると思うわ」

「そんなものですか」

「まぁ、試してみないとわからないでしょうね」


 先生もわからないから仕方がないとはいえ、ほとんどこちら任せだ。こういう時は子供の自由な発想力が羨ましい。

 一日考えた私は首都から出て小さなモンスターを探した。そうして出会ったのが犬の姿をしているモンスターだった。この子を連れて帰ると先生は驚いたのか目を丸くしていた。

 どのぐらいの時間が必要なのかわからないけれど、この子を大事に育てた。その間にもスキルの実験はいくつも試して、動かなければならなくなったのは私が13歳になった時だ。その日の朝、食糧を調達に行った先生が慌てて帰ってきた。


「クデル。地下室を隠しなさい」

「先生?」

「私達が潜んでいるのがばれたみたいです。ここから逃げますよ」

「……やることがあるので少し時間が欲しいです」

「構いませんよ」


 先生の許可に私は急いで犬を抱えて地下室に降りた。何もわかっていないように可愛い顔を見せる犬にいつものように笑顔を見せてやる。この子は大分私に懐いてくれた。これなら、上手くいくはずだ。

 犬に死のオーラを纏わせる。一瞬では殺さず、少しずつ、少しずつ。


「怨みなさい、私を」


 私だけを怨みなさい。私はあなたを利用する。あなたが私をずっと怨んでくれるなら、その怨みがルデルの成長エネルギーに変わる。

 動かなくなった犬をルデルの傍に置き、ルデルと犬に手を翳す。小さなモンスターを使っての魂の移動は上手くいっている。だから今回も上手くできる。そう信じて、私はスキルを使った。

 私がルデルにやれることはここまでだ。後は、ルデルに任せる事になる。だからこそ、私は魂の馴染みを確認するまでの間にルデルに宛てた手紙を書く。これをルデルが信じてくれるかもわからないけれど、ルデルが間違った道を進まない為にも、私の隠してきたことを知ってもらう為にも、必要だった。

 ルデルの身体と犬の魂はいい感じに馴染んだらしく、黒いオーラがすぐに生を示す白いオーラに変わった。ルデルの魂を移した犬はまだ目を覚ます様子はないけれど、拒絶はしていないように見える。犬を抱えて地下室から出ると先生がこちらを覗いていた。


「終わったのかしら?」

「はい。後は地下室をルデルにしか開けることができないようにします」


 ルデルにしか開けられない、というよりは死のスキルを無効化する生のスキルにしか開けられないようにする。そして私と先生はその家から逃げ出した。ここでプレニルの犬に捕まるわけにはいかないのだ。

 そうして私と先生は別れ、私は孤児院があった場所の近くで暮らした。その間にも犬は目を覚ます様子はなかった。

 その時間、私は復讐の計画を改めて考えた。

 復讐相手はプレニル教皇だ。殺したのはプレニルの犬だが、彼らの飼い主がいなければ優しい教皇様もお父さんも、リュフ君も死なずに済んだのだ。

 ただ殺しただけでは今後のプレニルがどうなるかわからない。教皇様とお父さんが良くしようとした国を簡単に滅亡させたくない。その為にもルーメン皇太子を探さなければならない。彼が王位を継げば安泰だろう。ただ、彼の生死が不明な所が不安だ。どこかで生死確認だけでもできればいいのだが。

 そして、ルデルにはその復讐を助けてもらうわけにはいかない。彼には幸せに過ごしてほしい。プレニル国外で静かに過ごせる場所を探さなければならないだろう。

 復讐の実行の為には私自身が外に出なければならない。復讐までどれだけかかるのか読めないのが怖いけれど、復讐をやめることは考えなかった。


 私が14歳になった時、魔女疑惑でプレニルの犬が近づいているという情報を貰った。逃げる準備をしている時に、犬が目を覚ました。


「ルデル!」


 声をかけると、犬は何が起きているのかわからない様子で、自分の前足を見ていた。


「大丈夫?しばらく眠っていたから身体動かしづらいかな」


 犬は私の方に視線を合わせて驚いたように身体を固まらせた。魂の交換が成功したのか失敗したのかわからない反応だ。確認したいところだが、今はゆっくりしている時間はない。


「ごめんねルデル。ゆっくりしている暇がないの」

「え。クデル、どういうことっすか」


 これは、成功している。

 ルデルの言葉の癖がそれを教えてくれた。


「逃げながら説明する。ごめんね」


 そして、私とルデルは家を飛び出して走り出した。

 犬はルデルの力のおかげか、大きな体格に成長していた。この犬を抱えて逃げるのは難しいと悩んでいたから、目を覚ましてくれたのは有り難かった。

 二人で走って、時には犬が背中に乗せてくれて、思っていたより速いスピードでプレニルから逃げる事が出来た。

 そして、いつのまにか私は気を失っていたらしい。目を覚ました時、そこは犬の背中ではなく、そして目の前には男性の顔があって思わず悲鳴を上げてしまった。慌てて謝る男性は、老けてしまっているがフォルモなのだとすぐにわかった。

 メガネと名乗る神様がくれた眼鏡というものは人のステータスを見せてくれた。恐らく、ここメガニアには敵はいないのだと知るために渡してくれた眼鏡なのだろうけれど、その眼鏡はアンさんがルーメン皇太子であるということを教えてくれた。


 プレニル元皇太子、メガニアというどちらの国とも違う国、フォルモ。ここならルデルを任せられる。そして、復讐をした後に私が死んでも問題はない。

 メガネ様とアンさんがプレニルに行くというのでついていく。お二人を巻き込むことになるのは申し訳ないけれど、復讐のためなのだ。

 私に優しくしてくれたセレナード様。プレニルの犬のせいで喉に傷を負ってしまった。死のオーラを離して、ノヴィルの巫女様に治療をお願いした。傍には生命スキルを持つルデルもいたのだ。絶対死ぬ事はなかったけれど、声を失ってしまうのは予想外だった。彼女の為にも復讐は果たさないといけない。

 巻き込んでしまったルーメン様、メガネ様、ごめんなさい。

 待っていてくれると言ってくれたフォルモ、ごめんなさい。

 一人残す事になるルデル、ごめんなさい。


 私は、目の前にいるこいつを殺す。

 死の気配に恐れる様子を見せない、この偽物の教皇を殺す。

 そして私は、短剣を握る手に力を込めた。

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