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15 メガネ、旅立つ。

 やあやあ、どうしたんだい?涼しいお店から蒸し暑い外に出た瞬間に眼鏡が曇ったみたいな顔をして。

 私だよ、メガネだよ!


 今私はルデルとアンちゃんと共に地下牢にいるシバの元に来ています。檻の中で正座しているシバを見てアンちゃんは眉を寄せながら私を見た。


「……こいつ、太ってないか?」

「気のせいじゃない?」


 なんかふっくらしたなぁとは思わないでもないが、気のせいという事にしてしまおう。

 私は手に持っていた丸められた紙を見る。とてもとても待ち望んでいたプレニルからの手紙だ。こちらからは何度も手紙を送っていた。内容としては「シバがうちの歌姫に矢を射やがったのでこちらで預かっている。それに関して話したいので手紙くれませんかねぇ?」というものだ。伝書鳩のように鳥の形のモンスターに括りつけて送ったのだが、あちらから返事はなかった。上手く届いていないのかと考えて何回も何回も送っていたのだが、やっと初めての返事が来たのだ。やっと来たかとナハティガル君とアンちゃんと先程読んだわけだが、ちょっと意味がわからず、こうしてシバの元にやって来たのだ。


「シバ、今回やっとプレニルから手紙が来たんだけど」

「そうでしたか。教皇様方も慎重に考えていらしていたみたいですね」

「……あまり内容を見せるのは駄目かもしれないんだけど」


 そう言ってからシバに紙を広げて見せる。


「どういう意味かわかる?」


 そこに書いてあったのは「よければその犬差し上げます」だった。

 シバはじっとその手紙を見つめ、首を傾げたりして色んな方向から観察していた。そして考え込むように腕組みをしてからこちらに目を向けた。


「他の手紙は」

「これだけです」

「これだけの内容のはずがありません。まさか私を簡単に捨てるような内容は」

「これだけなんです」


 悲しそうな、怒っているような、喜んでいるような、何とも表現しがたい表情を見せている。アンちゃんは改めて手紙を読んでから確かめるように言う。


「これ、内容通りに読んでいいのか?お前の事はプレニル側はいらないってことで」

「……」

「お前プレニルでは行き場所無くなったと?」

「アンちゃん、それ以上はシバが可哀想だから」


 アンちゃんの言葉を受けてシバが抱えていた頭がどんどん下がっていく。もう少しで土下座になるだろう。この反応は流石に演技ではないと思っておこう。

 私は懐に隠していた笹の葉に包まれたおにぎりを取り出す。本来の目的はこちらだ。


「さて、シバには色々聞きたい事があるんだけど」

「なんですか。いくら捨てられたとはいえ簡単に話すわけにはいきません。おにぎりごときで私が口を開くと思わないでください」

「今日のおにぎりの中身は甘じょっぱい厚焼き玉子です」

「何を聞きたいんです?」


 姿勢を正しこちらに輝く目を向けるシバ。まさに待てを受けている犬のようだ。これだけちょろくなったのもプレニルからの手紙がなかなか来なかったせいだ。


「他のプレニルの犬の情報が知りたい。教えてくれたらおにぎりをあげるよ」

「プレニルの犬は私を含めると4匹存在します。私と共にいたトイはあれでも年上で、槌を使うのが得意です。逃げる間際に来たのはウェコという槍使いの男。最後の一人はリーダー的存在であるジャンシェ。彼は剣を扱うのが得意です。実力的にはジャンシェが一番強いですね。それに彼は一番忠誠心があります」

「ルデル」

「間違った情報は無いぜ」

「わかった。おにぎりをあげよう」


 檻の隙間からおにぎりを差し出せばシバは喜んで受け取っておにぎりを一つ頬張る。間違った情報だと困るからルデルも一緒に来てもらったわけだけどその必要はなかったかもしれない。まさかご飯だけでこんなに簡単に情報を引き出せるなんて思っていなかった。

 おにぎり一つ食べ終わるまで待ってから他にも知りたい情報を聞き出す。


「じゃあ、教皇について教えて」

「教皇様ですか?うーん……」


 口元についているご飯粒に気づかず、シバは首を傾げる。


「何?教皇様の情報は言わないの?なら焼きおにぎりはお預けだね」

「違うんです。教皇様の事、知らない事の方が多いんです」

「教皇様なのに?」

「えぇ。名前はエレオス様。プレニルの女神に愛され、女神の加護を持って育った人。あの方が5歳の時には神子様に選ばれており、教皇様のご両親に関しては知りません。前教皇の隠し子という噂もあれば、女神様が偶然見つけたどこか辺鄙な村の子供という噂もあります」

「へぇ。得意スキルとかはわからないの?」

「使っているところを見た事が無いんです。教皇様が使う機会もありませんが」


 それもそうかと頷いた。王様本人が戦うなんて漫画でもゲームでも見た事は無い。基本は周りの部下が戦うものだ。ナハティガル君もいずれはそうなっていくのだろう。

 教皇に関しての情報はほとんど手に入らないようで後は何を聞こうかと悩む。教皇の情報を沢山聞こうと食べ物は用意していたけれど他に聞くことに関しては考えていなかった。

 私が悩んでいるのがわかったのかアンちゃんが代わりにシバに問う。


「プレニルでの平等の基準はなんです?」

「神子が基準になると聞いています。なので今は教皇様が基準となりますね」

「……親無しが普通?」

「いえ、教皇様の考えが基準です。大人は必ず結婚し子供を沢山作る事。子供は必ず両親を持ち、両親の仕事を引き継ぐこと。 今の仕事を放棄する事は禁止、等ですかね。見た目に関しては肌の色だけですし、まぁ、なかなか目を向けられない場所を見ればその基準は無視になることもあります」

「そんな感じか。前教皇から変わった時も特別な変化はなかったのか?」

「かなり厳しくなったぐらいでしょうか。子供に関しては特に気にしなくてもよかったですし、平等に関してしっかりするようになりましたね」

「そうか。よし、メガネ」

「はーい」


 次は焼きおにぎりを渡す。それにしてもアンちゃん、シバ相手に口調変える事が無くなったなぁ。それだけアンちゃんも様子見に来ていたんだろう。それはルデルも、私も同じだ。

 最初の内は敵同士のようにお互いに睨みあうのだが、世間話をしている内に近隣の人と同じような感覚になっている。後は彼がこの手紙を気にメガニアの住人になってくれれば酷いことをせずには住むだろう。まぁ、ナハティガル君とセレナードの承諾は取らなければならないだろう。


「それじゃあシバ、また何か聞きたいときは来るね」

「いい加減出すなり武器を渡すなりしてほしい所ですね」

「次は最近作り始めた甘い物を持ってくるようにするね」

「お待ちしてます」


 シバに手を振って、私達は地下室から出る。窓から差し込む日光に少し安堵を覚え、身体を伸ばす。閉じ込められているわけではないが、地下室にいるのは少し気分が落ち込むので苦手だ。シバの為にも早くあそこから出してあげたいところだ。

 ナハティガル君の住む屋敷は三階建てだ。二階にアンちゃん達が住んでいて、三階にナハティガル君が住んでいる。今この屋敷に住んでいるのは4人(と1匹)いるわけだが、それでも部屋は余っている。使っていない部屋は昔は橋を渡りに来た旅人に貸したりしていたらしいが、今は教皇様が住む屋敷なのでそんな使い方は出来ない。部屋を掃除する人は誰も雇っていなかったらしく、今まではナハティガル君が自ら掃除していたらしいけれど、忙しくなった彼の代わりにセレナードとクデルが掃除をしてくれている。私達が三階に向かう階段を上がっていると掃除をしているクデルに会った。


「メガネ様とアン様。お疲れ様です」

「クデルもお疲れ様。ナハティガル君は部屋にいる?」

「執務室にいるのを見ました。少し疲れている様子でしたよ」


 いつもの真顔のままクデルは肩をすくめる。メガニアが建国してからナハティガル君の仕事が増えている。休憩させてあげたいのだけれど、それを許さないぐらい仕事があるのだ。


「アンちゃん、ナハティガル君の仕事なんとかならないかな。ってかどんな仕事があるの?」

「メガニアの住人情報の確認と、古い情報も多いから更新の承諾だろ。他国との交流の為にメガニアの特産物とかの量の確認だったり、金銭だったり、必要な物資の確認と他国から輸入する際に何を輸出するかとか、法律の見直しとか」

「多すぎない?簡単にできそうなものもありそうじゃん」

「もう少し人員増やすしかないが、信用ある若者が足りないからな。メガニアの平均年齢が50歳だ。老人たちにはのんびり過ごさせたいってナティが希望してるし、戻って来た若者も書類仕事したい奴はいまんとこいないし」

「あー、皆他国の兵だったってことで警備だけは人足りてるもんね」

「お……私も手伝いたいですが、今後の事を考えますと」


 クデルがいることを忘れていたのか、いつもの口調を慌てて直す。流石にちょっと遅いし違和感しか覚えない。クデルにはステータスが見える私の眼鏡を渡しているから性別ぐらいはばれていると思うが、面白いから黙っていよう。

 クデルも混ざってナハティガル君がいるという執務室に向かう。扉をノックして入れば、紙が沢山置かれている書斎机にナハティガル君が向かっていた。もう少し増えればナハティガル君の姿が見えなくなりそうだ。


「あぁ、メガネ様。散らかっている状況ですみません」

「いやいや。大変そうだね」

「半分は既に終わっているものですので大丈夫ですよ。今は皆の意見をまとめておりまして」


 皆の意見とはなんだろうかと首を傾げると隣にいるアンちゃんが説明してくれる。


「目安箱を置いてみたんだ。良くしたい事とかこれが嬉しいとか、そんな意見を集めて今後をちょっと考えれるように」

「目安箱。懐かしいなぁ」


 いつ習ったかなと前世の記憶を懐かしむ。私が別の事に思い果てていればアンちゃんがナハティガル君に近づいていた。


「シバに手紙の事聞いて見たが、あいつもわからないみたいでした。むしろあれだけでショックを受けてた」

「まぁ、そうでしょう。捨てられたような物でしたし。隠している様子はなかったと」

「演技が上手いとかでなければですかね。どうしましょうか」


 アンちゃんが積まれている紙を手に取り中身を確認する。クデルは途中で取りに行っていた水をナハティガル君に差しだした。ナハティガル君は礼を言って受け取り、一気に水を喉に流し込んで竹で出来たコップをクデルに返した。一気飲みするナハティガル君もいい。


「避けたいところではありましたが、直接行くのが一番のようですね。こちらの望む答えが来ませんですし」

「まぁ、そうなりますよね」

「申し訳ありませんが、アンに任せてもいいですか?」

「構いません」

「あ、私も行きますね」


 プレニルの様子は見てみたかったから挙手してみると、ナハティガル君が目を見開いて凄い速さで私に近づいた。その時起きた風で紙の山が崩れていた。


「何故メガネ様が!?」

「あっちの上の人に会うなら巫女がいた方がいいかなって」

「それは危険です!」

「大丈夫だよ。私のスペアを用意してるし、いつでもナハティガル君のところにも帰れるから」

「しかし!」

「ナティ、そんなに過保護にしなくてもメガネなら大丈夫だって」


 崩れた紙の山を直しながらアンちゃんが言う。そちらに目を向ければクデルとルデルも一緒に紙の山を整理していた。ナハティガル君は何か言いたげにしばらく百面相していたけれど、諦めたのか息を吐き出した。


「わかりました。その代わり定期的に連絡をください」

「うん。大丈夫だよ、ルデルとクデルも連れて行くし」


 名前を出されて驚いたのはルデルだった。器用に紙を銜えていたルデルはその紙を離す。


「いいのか?」

「案内役と、クデルがお兄さんを迎えに行きたいって言ってたからね。それとも嫌?」

「嫌じゃないが」


 ルデルはクデルに顔を向ける。その目は不安の色に包まれていた。クデルは安心させようとしてかルデルの頭を撫でる。


「大丈夫。私達はプレニルの中心地じゃなくて端の村に住んでいた時に追われたから。あちらに着いたら別行動でも大丈夫ですか?」

「うん。プレニルの犬に会うのは避けた方がいいよね。お兄さんはどこにいるの?」

「プレニルの中心地なのでそこまでの案内は出来ます」

「じゃあ問題ないね。いいかな、ナハティガル君」

「勿論構いません。……心配ではありますが」


 ナハティガル君にこんなに心配されるのは少し嬉しい。しばらく離れるのは寂しいけれどこれもナハティガル君を守る為だ。プレニルとの関係を微妙な状態にはしたくない。何時ナハティガル君に刃を向けるか恐ろしくて仕方がないのだから。


 再びプレニルに向かって手紙を括りつけた鳥型のモンスターを放ち、三日が経っても何も返事が無いのを確認して私達3人と1匹はプレニルに向かう準備が出来た。見送りに来てくれたメガニアの民のお爺ちゃんやお婆ちゃんたちにはものすごく心配され、私はそんなに荷物が無くてもいいのにいろんなものを渡してくれた。流石に生のジャガイモは持っていけないのでフォルモさんに渡す。


「帰って来たらこのジャガイモで作った料理を振る舞ってやるよ」

「楽しみにしてますね!料理も増やしてくれると嬉しいです!」

「メガネ、料理ばっかりだな」


 太りそうと呟いたアンちゃんの腹に肘を入れてやる。このメガニアには体重計がないから何を食べてもゼロカロリーだ。大丈夫大丈夫。

 フォルモさんは私達の隣にいたクデルの頭を撫でる。


「気をつけて行って来い。待ってるからな」

「……ありがとう、伯父さん」


 おや、いつのまにか仲良くなっていたのか。道中にでも仲良くなった経緯でも聞いて見ようかな。

 フォルモさんの隣にいるナハティガル君は不安と寂しさを含んだ視線を向けている。そんな顔をさせてしまうのは凄く心苦しい。私の作った眼鏡にならいつでも意思を移せるからいつでもナハティガル君のところに帰ってこれるはずだけど、私もこの世界に来てからナハティガル君と長く離れるのは初めてだから不安が大きい。こんなこと、アンちゃん達に任せて私はナハティガル君の傍に痛いけれど、私は誰よりもこの世界を知らないのだ。できるなら、この世界を知る機会があるなら知りたいのだ。


「ナハティガル君、お願いがあるんだけど」

「なんでしょう?」

「皆で帰って来たらぎゅっと抱きしめてくれないかな?」


 そんなことされたらレンズが勝手にぱりーんっと割れてしまいそうな程嬉しくて興奮してしまうだろうけれど、ナハティガル君の元にちゃんと帰ってこれたんだという実感が欲しい。

 ナハティガル君は少し驚いたような表情を見せたけれど、苦笑して頷いた。


「抱きしめるぐらい、何度でもやりますよ」

「えへへ、ありがとう」


 そうして、皆の声に背中を押され、私達はプレニルに向かって足を踏み出した。

 その後帰ってきた時に人数が変わってしまうなんて、この時は誰も思いもしていなかっただろう。

●皆の年齢


 メガネ 見た目7~10歳

 ナハティガル 28歳

 アンブラ 15歳

 セレナード 20歳

 フォルモ 37歳

 ルデル 不明

 クデル 14歳


●身長 (↑高 低↓)

 フォルモ

 ナハティガル

 ルデル(全長)

 セレナード

 クデル

 アンブラ

 メガネ


メガネ「……え、アンちゃんってクデルより低いの?」

アン「数センチの違いだ」

クデル「歳一つ違いだったんですね。……結構低いからメガネ様のほうが歳近いのかと」

ルデル「だからそういう服着ても違和感ないんだろうな。身体つきも細いし」

アン「この身体が気に入ってるからいいんだよ!!」(←できればもう少し身長が欲しい)

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