14 犬、懐きそう。
拝啓、我が主様。私シバは残念ながら生きております。
平等を壊そうとする者に牙を向け噛みつきに成功はしたのですが、思ったより島の者は賢かったようで私を捕らえやがりました。トイが恐らく事実とは歪めて報告しているでしょうが。
本当に、トイの行動は前から頭を悩ませます。トイは見た目は愛くるしい姿だというのに中身は真黒な犬なのです。主様の目には忠犬にしか見えないでしょうが、トイは普段から酷いのです。プレニルの犬ではない兵は使い捨ての様に扱い、自分の攻撃範囲に入ったとしても気にせずに武器を振るのです。きっとトイは私が自分の身を犠牲にしてトイだけを逃がしたとか報告されているでしょうが、私が捕まっているのはほぼトイのせいです。ウェコはわかってくれないでしょうが、ジャンシェであればわかってくれるでしょう。
とにかく私は無事です。今は武器を奪われ、神に祈る事も命を捧ぐこともできませんが、必ずやこの命、主様のお手に煩わせないよう始末致します。主様の未来に栄光がありますよう。敬具。
なんて手紙も送れる状態ではないのがとても心苦しい。メガニアとか自称する国の地下牢に入れられどれくらいが経ったのだろう。外の様子もわからず暇な時間を過ごすばかりだ。せめて紙とインクでも用意してくれれば主様に向けた手紙を書けるというのに。ついでに裂いた紙で十字を作りそれを武器にして命を終わらせれるのに。
プレニルの犬だけが使える魔法だが、私達は十字架を自分が得意な武器に変える事ができる。それらは十字架に近い形をしていなければならないが、こちらの解釈次第で無理やりにでも十字架だと主張が出来る。私の弓矢なんてぎりぎり十字架になるねと押し通してある。
さて、今の私の状況を伝えますと、メガニアと自称する島の地下牢に入れられ、そして胴を布でぐるぐる巻きにされています。どうやらトイの攻撃で私の骨が壊れてしまったようでかなりの痛みを私を襲っていたのです。敵に弱った姿を見せたくなかったので何とか堪えていたのですが堪えきれなくなりました。そんな私を最初はベッドにぐるぐる巻きにして拘束していたのですが、最近は胴を縛られております。そのおかげかわかりませんが痛みは少し良くなりました。
最初よりは動きやすくなったのでこれからどうしようかと悩んでいる次第にあります。逃走しようにも十字架を作れそうなものも無ければ自害できるものもない。どうしても、というのなら壁に頭を何度も叩きつけたり舌を噛みきったりと考えようは有りますが。
……何故できるのにしないのかと言いますと、なんとなくです。特に意味はないですよ。
「おい、今日の朝食だ」
やってきた男が柵の間から朝食を置いていく。たまにあのちっちゃい子供が来るときもあるが、今日は違うようで有り難い。あの子供、純真無垢な娘に見えるのだが最初話した時にやけに威圧を感じた。子供相手に恐れを感じるとは思わなかった。おかげでずっと隠してた痛みも表に出てくることになってしまったのだ。
さて、ここに来てからは毎回顔を合わせるこいつ。最初にあった時は真っ白でつややかなそれにかなり警戒していた。いや、プレニルではいつも硬いパンを食べていたんだ。茶色じゃなくて白だぞ?白いものなんて食べた事あるはずがない。酷く警戒しつつ、こいつを喉に詰まらせて自害できそうだなと思いながらそれを口の中に招き入れた。驚いた。こんなに柔らかいのかと。そして噛むほどに甘味が口の中に広がり、なのにしょっぱさが刺激してくる。しょっぱい、だと?しょっぱさなんて自分の汗とかその辺でしか体験できないぞ。これはもしや塩か。噂に聞いていた塩というものか。
そんな初対面を迎えてから私が気に入ったのに気づかれてしまったのかわからないが、おにぎりと呼ばれる食べ物は一つから二つに増えていた。しかも中に色んな具を入れるし外側に黒いシートを巻いている。黒いシートは最初は食べられなかったが、一口食べてみればこれもおにぎりに合う。今日のおにぎりにも何が入っているのか楽しみだ。魚も美味かった。黄色いたまごやきと呼ばれるものもなかなかだった。
……別に食事が楽しみで自害を躊躇っているわけではない。これも敵国の情報を知る為の大切な事だ。
「フォルモさん、今日はシバに何のおにぎりあげたんですか?」
「昨日漬けあがった梅干しを入れてみた。最初は辛いだろうが、あいつの様子を見るに気に入りそうだなと思ってな」
「これで胃袋掴んで、こっちに懐いてくれたらいいけどね」
「いやいや、流石にそんな簡単にはいかないだろ」
「フォルモ隊長、捕虜の皿を回収してきたのですが」
「おぉ、どうだった?」
「梅干しに文句を言いつつ、もっとおにぎりに入れろと言ってきました」
「……本当に懐柔できそうだな」
「半分冗談だったのに」
かなり短かったですが、シバの話でした。他のプレニルの犬達は今後登場していきます。
番外編はここまで。次から本編に戻りますよ。




