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11 メガネ、思う。

今回から数話程番外編な話が続きます。

 やあやあ、どうしたんだい?

 すごくかっこいいサングラスを見つけてかけたいんだけど普段から眼鏡だからかける機会が無いみたいな顔をして。

 私だよ、メガネだよ!


 さて、私はいつものように人の姿を取って踊っています。

 何故踊っているか?その理由に関しては簡単だ。ナハティガル君が私に踊ってほしいと言ったからだ。ナハティガル君がお願いするならやるしかないでしょうよ。私は踊るよ!

 ……えっと、詳しく話せばメガニアは普段からこの時期に豊作祈願のお祭りをやるそうだ。メガニアになる前は藁を燃やし、空に向かって祈願する雨乞いをしていたそうだが、今回はメガニアになった最初のお祭りとなるのでもう少し豪勢にできないかとナハティガル君とフォルモさんが提案したのだ。セレナードが歌えれば歌を贈り、何かしらの料理を披露する事を考えていたのだが、セレナードが歌えなくなった事により料理以外のことも何か取り入れたいとなったのだ。そこでアンちゃんが「奉納演舞」を提案し、巫女さんが躍るべきだろうと決まり、神である事を隠して巫女となっている私が選ばれてしまったのだ。ダンスなんて、学生の体育の時間にちょろっと踊ったぐらいの経験しかないのに。

 何か踊れないかと聞かれ、悩みに悩んでラジオ体操をやってみせたらアンちゃんに笑いながらぶん殴られた。いや、冗談のつもりで本気で奉納演舞にラジオ体操をやるつもりはなかったけれど。ちなみにその後アンちゃんはナハティガル君に怒られていた。怒るナハティガル君もかっこよかったです。まる。

 そうして悩みに悩んで踊りが出来る人がいないかと聞いて回ったところ、クデルが選ばれたのだ。


「メガネ様、そこ逆です。右足ではなく左」

「あ、え、ば、バランス難しくない?」

「上手くバランスとれるところをみつけてください。右のままだとその後が動けなくなります」

「あ、なるほど」


 という事でこんな風にクデルに教わっている。一度クデルの踊りを見せてもらったが、確かに綺麗で動きもしなやかで、奉納演舞には良いものだった。とてもかっこよかったので私もそれを踊る事を強く願ったはいいが、思ったより難しい。そもそも大体がつま先立ちだしよく動く。それでも出来る限り元いた位置からはずれないように。バレエにも似ているかと思うけれどクデルの姿を見た限りでは優雅というより力強い動きだ。


「結構難しいね。クデルはどれくらいで覚えたの?」

「そうですねぇ。私は母から教わったので数……年くらいですかね?」

「やっぱりそれなりにかかるのか」


 いつも雨乞いをしていた日まで後一か月も無い。それまでになんとか覚えなければ。この身体なら筋肉痛で動けなくなるってことはないと信じたい。

 そうやって大体のフリは覚えてきた辺りでフォルモさんが近づいてきたのが見えた。その手にはお椀が二つある。あの中身はみそ汁かな。


「フォルモさん、お疲れ様です!」

「嬢ちゃんもお疲れ。一休みにこれ食わないか?」

「なんですか?新しい料理ですか?」

「色んな野菜とモンスターの肉を一緒に煮込んだものだ」

「いただきます」


 フォルモさんに駆け寄ってお椀を受け取る。中身はどう見ても豚汁だ。豚汁も最高です。早速とお箸を突っ込んでいるとクデルも駆け寄って来た。


「メガネ様ったら。急に駆けだすのだから驚きましたよ。あんなに動いた後なのに」

「ふっふっふ。美味しいご飯の為なら最後の力を使うのですよ」

「食いしん坊ですか。あぁ、こぼしてますよ」


 口に含んだお肉から零れた汁が口元についていたらしい。クデルが自分のハンカチで私の口元を拭いてくれた。お世話されてしまっているけれど、まぁ悪くはない。

 

「今後はちゃんと手を洗ってから食べてくださいね。それに食べる時は座りましょう。お行儀が悪いですよ」


 あ、これ母親に怒られてるのとおんなじだ。クデルは結構世話焼きだなぁ。


「えっと、クデル、だったな?その踊りはどこで覚えたんだ?」


 フォルモさんが少し躊躇いがちにクデルに聞いた。そう言えばこの二人が話しているところは見た事が無かったな。私一人だけ座っているのでクデルの顔を覗きこむのは簡単だ。クデルはフォルモさんからお椀を受け取りながら答える。


「母からです。……母の家では短剣を使った武術を受け継いでいて、その武術が踊りの様に見えるということで子供達には踊りとして伝えているそうです」

「……母親の名前を聞いていいだろうか」


 フォルモさんの知り合いに思い当たる人でもいるのだろうか。フォルモさんの顔を見上げると真剣な物であった。クデルは何故聞かれたのか不思議に思ったのだろうか、少し間を置いてから口を開いた。


「フェンテです」

「ち、父親は」

「リュフ、です」


 知り合いだったのだろうか。フォルモさんは目を見開き、それから何度か頷いてから目を細めクデルの頭を撫でた。


「そうか、あいつらの娘なのか」

「……知っているのですか?」

「あぁ。また今度教えてやる。食べ終わった頃にまた来る」


 そう言って優しくクデルの頭を撫でてからフォルモさんは私達に背を向け、来た道を戻っていった。何と言えばいいのだろうかとクデルの顔を見上げる。クデルはフォルモさんの背中をじっと見続けていた。その瞳が、少し悲しげに見える。

 そう言えば、クデルはいつも自分からフォルモさんに近づかないようにしているように見えた。フォルモさんのことが怖いのだろうかと思っていたけれど、その目がそうではないのだと教えてくれる。だが、何故そんな目をしているのかまでは私にはわからない。


「……確か、クデルは孤児だったんだよね?」

「そうです。幼い頃に両親を亡くしていて」

「病気、とかですか」


 クデルはフォルモさんを見送るのをやめ、私の横に座った。


「母は私が生まれた時に亡くなりました。父はプレニルの犬に殺されました」

「殺された?」

「プレニル国では片親という者を良しとしないんです。村の人に協力してもらって私を育てていたのですが、プレニルの犬が視察に来て、バレて、子供を殺そうとした奴らから守る為父が死んだんです。孤児になれば孤児院で生きていけますから」

「片親ってだけで駄目なの?」

「片親だと子供の世話があり、新たな出会いを求められないから、だそうです。プレニルの民を増やす為にも夫婦を作っていないといけないという法律がありまして」

「……いやな法律だね」

「まぁ、表向きの理由だと思います」


 クデルは一口野菜を口に含んで飲み込んだ。


「父はプレニル国の政治を担う人の一人だったのです。教皇が代わった際に、今までとは違う法律に異議を唱えていました」

「……つまり教皇の敵を減らす為に殺されたと?」

「違うかもしれないですが、その理由も考えられると思ってます」

「そっか。……にしても詳しいねクデル。その時って大分幼いんじゃ」


 私の言葉に声が返ってこなかった。不思議に思って隣のクデルに目を向けると、クデルは目を泳がせていた。


「クデル?」

「その、私記憶力がいいのか、ちっちゃい頃の事も覚えているんですよ」

「へぇ、それは凄い」

「そう言うと大体嘘だろうって言われてしまうんですけどね。私の言葉もどうせ妄想だろうって」

「んー、でもそこで嘘をつく必要はなさそうだし、私は信じるよ」


 汁を吸って美味しくなった大根を食べながらそう言って見せる。クデルに少しは安心を覚えさせられたと思ったけれど、クデルの表情は硬いままだった。


「メガネ様、口に物を入れながらしゃべるのはどうかと」

「あぶ、ご、ごめん」

「いえ、次からは気を付けてくださいね。それとありがとうございます」


 少しクデルの表情が柔らかくなった。それでも笑ってはくれなかった。もう少し好感度を上げないといけないか、クデルの攻略は難しいようだな。

 そう考えながら、残りわずかだった豚汁を流し込んだ。


「メガネ様、私が器持っていきます」

「いいの?」

「はい。その間に練習していてください」


 これ以上の休憩は許してくれないようだ。息を詰まらせた私にクデルは肩をすくめて見せ、そして二つの器を持ってフォルモさんが向かって行った方向に歩いていく。

 仕方ない。腹ごなしに練習しよう。

 立ち上がって身体を上に伸ばす。今いる場所はナハティガル君の屋敷のすぐ近くの場所だ。伸ばした身体のまま何気なく屋敷に目を向ければ二階部分の窓にナハティガル君の姿を見つけた。確か丁度執務室の場所だろうか。ナハティガル君もこちらに気づいて手を振ってくれたので、こちらは両手で大きく手を振って見せる。気分はコンサートで大好きなアイドルに自分の存在アピールの為に手を振っているようなものだ。ナハティガル君の為にも頑張って綺麗に踊れるようにならないと。その気持ちを大きく、私は身体を動かし始めた。


○  ○


 俺の名前はアンブラ。一応暗殺術を覚えたまだノヴィルの兵士かもしれない。

 ここまで曖昧なのはどうかとは思うが、実際のところノヴィルでは俺が行方を眩ませたのを気づいているかもわからない。自分ではノヴィルの兵を抜けたと思っているから違うという事でいいのかもしれない。

 うん。俺はアンブラ。ただのアンブラだ。可愛い物が好きな男子。愛称はアン。こんな自己紹介で十分だろう。

 さて、俺は今ナティの執務室で執務の手伝いに追われている。メガニアが建国されてから決めたりまとめたりすることが多い。俺は関係ないと逃げ出したいところだが、メガニア建国を提案した張本人だからとメガネとナティに捕まって、こうして教皇補助役を務めている。……宰相、と言ってもいいのかもしれない。

 ナティはずっと椅子と机と仲良ししていたが、朝から昼までずっと座りっぱなしだったからと立ち上がって休憩している。窓の外を見ていたナティが小さく手を振っている。きっと相手は俺が考える相手だろう。


「メガネでもいたか?」

「あぁ。演舞の練習をしているようです」

「クデルから教わってるんだっけ?」


 行おうと決めた祭り用の奉納演舞だったか。神へ捧げる演舞だというのに神本人が踊らされるというのはどうかと思ったが、その本人が否定しなかったからそれでいいのだろう。最初ラジオ体操を始めようとした時は予想外過ぎて一人大笑いしてしまった。メガネの前世はお笑いが好きだったりしたのだろうか。たまに会話してると古いネタを混ぜ込んだり笑わせるような行動をしてくる。

 そういえばメガネはナティの事を推しとか言ってたが、ナティはどうなのだろう。


「なぁナティ。お前はメガネのことどう思ってる?あんなに好意を向けられてるわけだけど」


 俺がメガネに対し悪い扱いをすると怒るから悪くは思ってないはずだ。とはいえ、どう思っているかは一度聞いてみたかった。ナティは窓から視線を外し、こちらを見て何か苦い物でも食べたかのように顔をしかめていた。


「あんなに好意を向けられて嫌な気分ではないです。むしろ有り難いとは思うのですが」

「ですが?」

「……メガネ様が言うナハティガルは私とは違う気がしてしまいます。それが少し寂しいですね」


 あー、と俺の口から声が漏れる。その気持ちは物凄くわかる。この世界であるゲームを知っているメガネだからこそ、あいつの中ではもうナハティガルもアンブラもどういう人物かわかっているのだろう。だから今の俺達をあいつは原作と比べられる。確かに俺の正体を知った時、あいつの知ってるアンブラと違うとショックを受けているようにも見えていた。


「確かに俺に対しても違うアンブラを見てるんじゃないかと思ったけどさ、今は違うだろ?」

「……そうですね。今ではアンをアンちゃんと呼んでますし」

「それとおんなじだろ。最初は違いに驚いてたけど今の俺をアンブラらしくしろとか言ってない。どんなにあいつの思うアンブラと違ってもそういうものだって受け入れてくれてる。ナティのことだってそうだろうよ」

「そうでしょうか」

「そう。今お前がどんな行動しようともメガネならそれを受け入れると思うぜ。比べられてはいないだろうから安心しろよ」


 俺の言葉に少し安心したのか、いつもの笑みをこちらに向けている。それにしても結構な美形だな。後で肖像画でも書かせてもらおうか。いや、そんなことしたらメガネにその肖像画が狙われる。やるならばれないようにこっそりやっておこう。

 ナティの休憩は終わったのか再び椅子に座り机の上の仕事に手を伸ばす。俺も大人しく仕事を進める為に手を伸ばした。

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