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(6)〜魔女の彼女を呼ぶ名前〜




「私の名前はホントの名前(もの)じゃ、ないんだもの」







 彼女はそういうと固く口を閉ざした。


「そっか……じゃ、俺がつけてもいい?」

「えっ?」


 カイヤの反応は彼女にとって予想外のものだった、きっとカイヤが事情を聞こうとすると思っていたんだろうね。

 一方のカイヤはあっけらかんとして言葉を続けた。


「ほらだって、ずっと『魔女さん』って呼ぶのも変な感じだろ?ここの外じゃ呼べないし……。でも、呼ぶ名前がないんじゃ、不便だしさ。それとも、仮でもまずいのか?」

「仮なら別に、まずくはないのだけど……」

「じゃあ決まりだ!何にしようかな……」

「ちょっと待って?あなたが決めるの?」

「えっ?だめ?」

「いや、ダメってこと…ではないけど……。ああもう!わかった、いいわよ!でもその代わり、変な名前にしたら呪うから!はげる呪いかけてやるから!!」


「うわっ、それはまじめに考えないとな」

 カイヤは頭を悩ませて、時折彼女に借りた紙にペンで何かを書いたりしてた。

 彼女は時折、カイヤの様子をそっとうかがったりしながら部屋の窓から外を眺めていた。


 二人が言葉を交わさない部屋は静かだった。

 しかし、それはただ静まり返る静寂ではなく、どこか温かい誰かの気配の音がする心地の良い静けさだった。


 ふとカイヤが顔を上げて、彼女を見やった。

 彼女は無言のまま、窓の外の移ろって流れていく夕暮れの空を眺めていた。


 その時、窓からすうっと一筋、夕陽が彼女に降り注いだ。

 ひらひらと漂うベールのような光をまとい、わずかに目の細められた彼女の姿はどこかの絵画の一幕のようで。



「クレア……」



 その光景を見た瞬間、カイヤの口から自然とその名が零れ落ちた。


「そう…そうだ!『クレア』、うんいい。君は、君の名は『クレア』だ!」

「『クレア』……ね。ずいぶん私とかけ離れてる気がするけれど……まあ、おかしくはないかな?」

「よし!じゃあ、改めてこれからよろしくな、クレア!」


 勢いよく椅子から立ち上がったカイヤはニッと笑ってクレアの手を取って握った。

「えっ、ちょ」


 突然カイヤに手を取られ、クレアが戸惑っていると、時計台の暮れの鐘が鳴った。


「っと、もうこんな時間か……それじゃ今日は帰るよ。またね、クレア」


 そう言うとカイヤはさっと身をひるがえすと帰っていった。


「結局、何しに来たのよ……というか、アイツまた来る気なの?」


 一人に戻った部屋の中、あっけに取られながらクレアがぽつりと呟いた。




 ###




 その翌日から、カイヤは自身のギルドの仕事やクレアの来客ない日は、ほぼ毎日クレアの家にやってくるようになったんだ。


 クレアの方も、はじめの頃こそ。

 毎日やってきては『聞きたいこと』について話さないままに返っていくカイヤに呆れ顔だった。




 けれど、月日が経つうちにいつの間にか。


「やあ、こんにちは、クレア。」

 扉の前に立って声を掛けるカイヤに。



「いらっしゃい」



 と、そう返すようになっていた。


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