(9)〜クレアと、カイヤの願い。〜
「なあ、クレア。はじめて会った日から一度聞いてみたかったことがあるんだ。」
そうクレアに向かってそう言えば、彼女の表情はさっと真剣で暗いものに変わっていった。
「それは、最初に言ってた『話したいこと』のこと?」
「ああ。」
それはこの一年近く、カイヤがずっとクレアと関わってくるようになった理由だ。
クレアは先を促すようにじっとカイヤを見つめた。
そして、その視線におされるようにカイヤはゆっくりと口を開いた。
「君は『人を呪うことが嫌い』だろ?」
クレアはハッと息を飲みかけた。
しかし、それをグッと堪えて平然と問い返した。
「もし、もしそうだとしたら?」
あくまで平静を装って。
人と関わることを避け続けていた彼女には、この先が分からなかった。
否、分からないふりしか、出来なかった。
カイヤはクレアの返答を聞いて、一気に苦い思いが込み上げた。
こんなこと、問わずにいられるのなら問いたくなんか無かった。
彼女の心なんて、暴かずにいられるのなら暴きたくなんて無かった。
彼女が分からないふりをする理由なんて、突きつけずに済むなら突き付けたくなんてなかった。
そして、本当はこの先を言うことが怖かった。
反面、クレアはきっとはぐらかそうとするだろうと、予想はしていた。
この先の言葉はきっと彼女を、彼女の、『魔女としてのプライド』という名の心の盾を傷つける。
でも、だとしても言わなければならない、そう確信していた。
だって彼女の心は、盾のせいで内側からもうたくさん傷ついているのにそれに気づかないままにしようとしているから。
気づかないままに盾にしがみついて、傷だらけの体を奮い立たせて、誰にも頼らずにたった一人で立とうとしているから。
だから、真剣な表情でカイヤは言葉を容赦なく続けた。
もう、彼女が自分の傷を見て見ぬふりが出来ないように。
「だとしたら、クレアはもう人を呪うのをやめるべきだ。君は優しい人だ。だから人を呪った時、君は辛そうなんだ。俺は君にそんな顔をして欲しくない」
カイヤはそっと、しかし確固たる意志を持ってクレアにこう言った。
今の彼女は生きたいから生きているわけではない。
ただ死ぬ必要、死ぬ意味がないから惰性的に生きているわけに過ぎない。
だから、いくら傷ついて悲しくても、麻痺したまま感じ取らずに済んでいたただそれだけだ。
カイヤはクレアに生きることへの意味を、意思を、希望を、持って欲しかった。
カイヤは彼女に「生きて」欲しかった。