(プロローグ)〜時計台でお話を~
真っ青な空に軽やかな花火が弾ける。
『悪しきもの』の影響で開催の遅れた、春の祭りも佳境を迎えていた。
町は浮かれ、祭りを心待ちにしていた人々でごった返す。
そんな中、「あなた」は町のシンボルである時計台の鐘楼を登っていた。
時計台の中にある長い長い階段を登った先。
誰もいないはずの鐘楼に、先客がいた。
ショートカットにされた灰茶色の髪に、ふわりと揺れるアイボリーの風合いの不思議な雰囲気を漂わせる衣服を纏ったその人は、鐘楼の欄干に両足を外に出して座り、眼下に広がる町やその向こうの景色を眺めており、不意に登ってきた「あなた」の方に振り向くと……優しく笑った。
「あなた」はその人が笑った事に目を丸くした。
「やあ、こんにちは。君、せっかくのお祭りの日にこんな所にいていいのかい?」
少しまごつきながら、「あなた」はコクリと頷いた。
「そっか、ならここまで登ってきたご褒美だ。一つ、『お話』を聞かせてあげようじゃないか」
不思議ないい方をするその人に、首を傾げる。
いったい何を話し出すのだろうか
「そう身構えずとも構わないさ。さあ、僕の隣にお座り?」
そういうと、その人はこちらの方に右手を差し出して手招く。
差し出された右手に嵌められた金色の腕輪が、どこからか光を受けながらゆらゆらと揺れる。
招かれた手に大人しく従って、「あなた」がその人の隣に座ると、その人はゆっくりと話を始めた。
「これはね?ある魔女のお話……『光を知った魔女』のお話……」