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姫とキラ星さんシリーズ

彦星さんとキラ星さん

作者: 日下部良介

 幼少期を過ごした街に久しぶりにやって来た。もしかしたらあの人に会えるかもしれないから。


 コンサートのチケットを2枚とった。1枚はあの人に送った。

「行けるかどうかは分からないよ」

 素っ気なくあの人は言った。答えは最初から分かっていた。あの人はきっと来ない。


 わずかな期待を胸にその街に行った。

 会えないのが怖くてコンサート会場には行けず、懐かしい風景を見ながら懐かしい街をぶらついた。

 レモンが一つ、道端に落ちていた。見上げると垣根からはみ出すようにレモンの木が枝を伸ばしていた。私はそのレモンを拾った。いい香り。ふと思いついて手のひらに収めたレモンの写真を撮った。撮った写真を彼に送った。

『レモンも君の手も美味しそう』

 彼らしいコメントが返って来た。

『子供の頃に住んでいた街に来ています。今日は七夕。彦星さんに会えるかな』

『逢えたらいいね』

 その時、彼には初めて彦星さんの存在を話した。それでも彼は温かい言葉を掛けてくれる。

 なかなか踏ん切りがつかなかったけれど、行ってみることにした。


 私が到着したとき、会場はちょうど前半が終わって休憩に差し掛かったところだった。ロビーに出てきた人の中にあの人の姿を見つけた。

「お久しぶりです。来てたんですね」

 会えてうれしかった。けれど、あの人は素っ気ない態度。それでも久しぶりに話が出来て嬉しかった。


 帰りは二人で同じ電車に乗った。途中の駅であの人は降りて行った。

「さようなら」

「うん」

 あの人は電車を降りると振り返ることもなくホームを歩いて行った。私も見送るのをやめてスマートフォンを手に取った。

『彦星さんに会えました』

『よかったですね。僕には七夕はなかったけれど、姫を見つけたよ』

『見つけたんですか?』

『君』

『あら、私を姫にしてくれてありがとう。でも、私は彦星さんのことを嫌いになれないです。だからあなたは私を導いてくれるキラ星で居てください』

『はい。姫のことをずっと見守っていてあげる』

 ふふふ。思わず笑みが漏れる。


 今度はいつ会えるか分からない彦星さんと、そばでずっと見守ってくれるキラ星さん。比べることは出来ないけれど、どちらも大切な人。

 私は幸せなんだろうな…。




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