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平民である俺が王女のお世話係になったのは  作者: レモンチャンネル
8/17

デスネーク

馬に乗りウィルと共に山道を行く。木々の間から星がまたたく。

(お母様の胸元を飾るネックレスみたいだな)

アリエノールは目を閉じた。暗い森に入ると五感が研ぎ澄まされる。


しばらくして、静かすぎることに気付いた。

(おかしいな、生き物の気配をまるで感じない。なんだ…息を潜めているのか?)


ウィルもいつもと違う静けさを感じていた。普段、夜の森は夜行生物が徘徊する音や虫の音がうるさいくらいなのに。

その時、二人は同時に奇妙な音に気付いた。


ズッズッズルッ ズッズッズルッ ズッズッズルッ

ズッズッズルッ ズッズッズルッ ズッズッズルッ

ズッズッズルッ ズッズッズルッ ズッズッズルッ

馬を止める。 

アリエノールは目を細めた。だんだん音が近づいてくる。

(何だこれは。左か、いや右、違う上)


「ウィル、私たちは囲まれているかもしれない」

「え、誰に」

「走るぞ、つかまってろ」

嫌な予感がして馬の手綱を引き急旋回させた。腹を蹴り走り出す。

心臓が早鐘を打つ。まるで胃の中をざらついた手で撫でられているようだ。

ヒュッ 後ろから何かが飛んできて頬をかすめた。とっさにウィルは頭を下げる。

ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ それは近くの木に当たった。

「ウィル、手綱を握ってろ」

アリエノールは上に矢を放った。

手応えがあった。

何か巨大な物が太い木の枝をへし折りながら落ちてくる。

「バキバキッ ドォォォォォォン」地響きをたてて落ちてきたそれは激しくのたうった。

次に右を狙って矢を放つ。

「ぎゃあああ」すさまじい悲鳴が聞こえ、何かが転げ落ちる音がする。

ウィルは手綱を握っているだけで精一杯だ。

まだ追いかけてくる。次の矢を放つ。それはただ空を切っただけだった。

2本の矢を一度に左に放つ。当たらない。


ヒュッ、それはアリエノールの頭を右から貫きかけたがそれた。

アリエノールは暗闇に目をこらす。

“見えた” 矢をつがえ放つ。

「うぁぁぁぁ」

悲鳴が聞こえた。やはり人が何かに乗って追いかけてくる。


ズッズッズルッズッズッズルッズッズッズルッズッズッズルッ

その音はもはや周り中から聞こえていた。


湖に出たとたん追ってきたものの正体がわかった。

最大20メートルにもなる大型の蛇“デスネーク”だ。ムーア山脈の高地の岩場や洞窟に住む。それが何匹もいる。

デスネークの頭には剣のようにするどい突起物があり、それに鎖をつけて騎乗しているのは人間だった。

デスネークは鎌首をもたげ、ゆらゆらと揺れながら体を高く高く持ち上げた。その頭に熊の毛皮やヒョウの毛皮をかぶった人間が立ち上がっている様は不気味としかいいようがなかった。全員が弓矢で二人を狙っている。

後方は湖、三方をデスネークに囲まれ絶体絶命の状態だった。

そこへひときわ巨大なデスネークが頭を降ろしアリエノールに顔を近づけてくる。それにはヒョウの毛皮をかぶった人物が騎乗していた。

「お前は誰だ、名乗れ」

すごく低い声だ。ウィルは震え上がった。

「いきなり襲っておきながら無礼な。まずは自分から名乗るがいい、見たところ山の民ガルー族だな」

「ほう威勢がいいな。私はガルー族の頭領 シグレイドだ」

「私はアル、これはウィルだ」

「貴族の子弟か? 夜に森で何をしていた」

「見ればわかるだろう、狩りだ」

「こんな夜中にか? おかしいな普通狩りは昼間に行うだろう」

「いつ狩りをしようと私の勝手だ」

(かしら)、こいつらデスネーク1頭と仲間を2人()りやがった」

「さっさと殺っちまいやしょうぜ」

「はっ、ばかをいうな、仕掛けてきたのはそちらが先だ。私は身を守ったまで。それにこの地はアイルハランド領土内だ。お前達ガルー族の領地はもっと北のはず」

「止めろ」シグレイドが制止しようとしたが間に合わない。ガルー族の1人が矢を放った。

矢は一直線にアリエノールの心臓に向かっている。

ウィルはその時、矢が奇妙に歪み、それていくのを見た。矢は湖に落ちた。

「なぜ当たらない、お前いったい何者だ」シグレイドは驚いたように言った。

アリエノールは金褐色の目を光らせながらシグレイドをじっと見ている。

「私はただのアルだ。お前達に聞く、高地に住むデスネークを手なずけ、武装しアイルハランド領土内を侵犯(しんぱん)した目的は何だ」

シグレイドは燃えるような眼光でアリエノールの顔をにらみつけた。普通の10歳ならそれだけで縮み上がっただろう。

ただ馬の上のアリエノールは冷静だった。じっとシグレイドがどうでるか待っているようだ。


「答える気がないのか。これに関係したことか」アリエノールは“小さな小瓶”を取り出した。


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