お世話係の役目
僕は今、道なき道を王女様と共に野生の山羊を追いかけて走っている。岩に足をとられ転びそうになる。
岩から岩へジャンプし山羊を追い詰める。10歳の少女の俊敏な動きに目を見張る。走りながら弓に矢をつがえた。矢がヒュッと音をたてた次の瞬間、山羊がどっと倒れた。流れるように無駄のない動きに見とれてしまう。
「ウィル、急げ。王宮へ帰るぞ」
「はっ、はい、でも山羊はどうやって持ち帰るのですか?」
「お前が担ぐのさ、世話係の役目だ」
「むっ、無理ですう」
アリエノールは大人の腕ほどもある木を伐り、山羊の足をくくりつけた。
「半分持て、時間が無い早くしろ」
馬の居る場所まで山羊をかついで疾走する。不思議だ、思ったより軽い。こんな大きな山羊を二人で運べるなんて。僕は首をかしげた。
王宮に着いたのは獲物を仕留めてからぎりぎり1時間以内だった。すぐにレトとラトが走り寄ってくる。アリエノール王女に2匹がじゃれつき、押し倒して、顔をベロベロなめる。
「やめろよぉ、顔が痛い」
ひとしきり王女をなめた後、山羊の臭いを嗅ぎ喉に食らいついた。
「オオカミに食べられたかと思ったよ」
「その通り、食べられていたんだよ。むしゃむしゃとね」
王女様は愉快そうに笑った。
しばらくしてわかったこと。僕が王女様のお世話係になれたのは誰もやれる人がいなかっただけというのが真実らしい。なぜなら輝く兄と姉に比べ、アリエノールは何もかも規格外の王女だったからだ。