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第8話 テイマーは鍛治職人の町を目指す

 明日にこの町を出ることを決めた俺は鍛冶屋に来ていた。

 町を出て、他の町に向かう道中、間違いなくモンスターに遭遇する。そのときに武器がないとあっけなく死んでしまうだろう。

 今までは冒険者ギルドからレンタルしていたからいいものの、町を出るとなるとレンタルすることは出来ない。



 そこで、武器を調達すべくこの町で唯一武器を売っている鍛冶屋に来たわけだ。

 金属を叩く高い音が聞こえてくる。裏方で鍛冶職人達が切磋琢磨と武器を作っているのだろう。

 ざっと店内を見回したところ、飾られている武器は高価なものばかりで、銀貨50枚はないと買うことが出来ない。

 何とか安物でも買えないかなーと店の人に聞いてみた。



「あぁ、新人冒険者達用に粗悪品をまとめて入れている木樽があるんだ。ほら、あそこ。あの中の武器は、1つにつき銀貨1枚だから新人冒険者でも何とか買えるんじゃないかな」

「銀貨1枚なら確かに購入できますね。ありがとうございます!」



 ペコリと頭を下げて、感謝する。

 店の人は、「いいよ、いいよ」と笑いながら手を左右に振ってくれた。

 ……なんだ、世の中って結構良い人がいるもんだな。吸収を手にするまでの俺がいた世界が狭かっただけなのかもしれない。



 店の人が言っていた木樽は、店の隅にあった。2つの樽が置いてあって、その中は武器で満たされている。

 入ってる武器の種類や数は結構豊富で、何を選ぶか、重要になってくるだろう。


「シャルは、どの武器を買うの?」

「ん。剣」

「あ、そっか。魔剣士だったもんな」



 そう言うと、シャルは「えっ」と驚いた顔をした。



「……私、自分の職業の事言った?」



 しまった。

 鑑定でステータスを見て、職業を知っていただけだった。シャルからしてみれば、俺が職業を知っている事を疑問に思うだろう。



「あ、えーっと。俺のスキルにさ、鑑定っていうスキルがあるんだ。それでシャルのステータスを見させてもらったんだ」

「へー、そんなスキルがあるんだ。納得」

「うん。じゃあ武器を選ぼう。俺も無難に剣にしとこうかなーって思ってるんだ」

「うん」



 ……。

 少し思っていたけど、もしかしたらシャルは会話するのが苦手なのかもしれない。俺も人の事言えないけど。

 樽の中から剣を1本とってみる。

 片手で持って、重さや握りやすさを確認する。

 軽くて結構良いかも。



「その剣、たぶんアレンに合わない。こっちがいい」



 そう言って、シャルが渡してきたのは俺が手に取った剣より一回り大きくて重い剣。

 手に持ってた剣を樽に入れて、シャルが渡してきた持ってみると、片手で持つのは少し厳しいと感じた。

 両手で持ってみると丁度よかった。



「どうして、これの方がいいんだ?」

「言葉にして説明するのは難しい。でも、そっちの方がいい。アレンが選んだ剣は私が使う」



 そう言って、俺が戻した剣を取るシャル。

 俺は、ここでふとホブゴブリンを倒していたシャルを思い出した。

 あの剣捌きは、素人の動きじゃないというのは一目瞭然だった。

 もしかすると、シャルは剣に精通しているのかもしれない。



「凄いな、そうやって選べるの。シャルは剣のこと詳しかったりするの?」

「全然。昨日、初めて握った」

「へぇ~、初めてか~……って、えっ!初めて握った!?」

「うん」



 コクリと頷くシャル。



「ちょっと……ちょっと待って。え、初めて剣を握って、初めて剣を振って、初めて戦った相手がホブゴブリン?」

「うん」




 待て待て待て。

 じゃあ、「剣を貸して」って自信満々そうに言ってたのは一体何だったんですか!?

 え、初めて剣を振る人がそんな事言ってたの?

 俺の頭の中は「?」でいっぱいだった。



「えっと……じゃあ、何で初めて剣を握るのに俺に、剣を貸して、って言ったのか?」

「そう。勝てると思ったから」

「……あ、はい」



 分かった。シャルは天才なのだ。俺みたいな凡才には理解出来ない境地にいるのだ。思考の順序がぶっ飛んでて、感覚で物事をこなしている。

 剣を選んだときだってそうだ。

 俺に合う剣を選んでくれたときだって、何となく、という風な感じではなく確信に迫るものがあった。

 そう思う理由を言葉に出来ないだけで、シャルの脳内ではこの剣が良いという理由が完結しているのだろう。

 ……やはり、世の中は理不尽だ。





 ◇






 結局、あれから色々と剣を見たりしたが、シャルが選んだ2本を買うことにした。

 夕食は、適当に済ませて今日も眠れない夜を過ごすのかと思っていたが、俺の眠気がピークに達していて、ぐっすりと眠ることが出来た。


 そして、翌朝。

 家の外に出ると、雲一つ無い快晴だった。

 横に建てた母さんの墓の前に座って、目を瞑り、手を合わせる。



「……母さん、しばらく俺はここを離れるよ。次にここに会いに来るときは、もっと立派になって会いに来るよ」



 そう言って俺は立ち上がり、歩き出す。

 また涙が出るのかな、と客観的に思っている自分がいた。

 だが、涙は出なかった。

 やっと現実と向き合えたのかもしれない。それとも覚悟が出来たのか。

 理由は分からないけど、妙に清々しい気持ちで旅立てそうだ。



「アレン、もう良いの?それ、お母さんのお墓なんでしょ」

「ああ、もう挨拶は生前に済ませたからさ」

「……そっか」



 このときのシャルの顔は、少し儚げで……何か悲しそうな目をしていたのを覚えている。

 地面に顔を向けていて、何か……落ち込んでいるような、そんな風に見えた。

 そんなときだからこそ、俺は元気に振舞ってあげなきゃな、って思ったんだ。



「シャル、行こうぜ」



 そう言って、俺はシャルの前に手を差し出した。

 シャルは、なんだろう、といった感じで困惑の表情を浮かべていた。



「シャル、手を握るんだよ」

「分かった」



 手を握った。

 シャルの手は、ほっそりとしていて、なめらかで、

 女の子の手だった。



「じゃあ、行こうか。馬車乗り場でフォルトリア行の馬車に乗ろう」

「うん」



 そう言って手を繋いだまま、俺たちは歩き出した。




 ――鍛冶職人の町、フォルトリア。




 鍛冶職人の町と言われているのは、そこがドワーフ族の町だからだ。

 今でこそ、多種多様な種族の人たちが住んでいるが、昔はドワーフだけで構成されている町だったそうだ。

 他種族を受け入れた理由は……確か災害が起こって食糧危機に陥ったのが原因だったかな。それで徐々に他の町や商人から食料や物資を購入するようになって、今のフォルトリアがあるようだ。

 もちろん、そこの名物と言えばドワーフ達によって作られた一級品の武器だ。

 昔、読んだ本で冒険者として成功している者はフォルトリアで武器をオーダーメイドしている、と書いてあった。

 まだ資金は少なく、到底自分に合った武器をオーダーメイドが出来る訳ないが、どういうものかだけ見ておくのも有りだと思う。

 当分は昨日買った剣に頑張ってもらう予定だ。




 周辺に住む魔物は、E~Cランクの魔物が多く、付近に生息しているモンスターの強さが今の俺達の強さに丁度良い。







 馬車乗り場に行くと、もうすぐでフォルトリア行の馬車が出発するところだった。

 ナイスタイミングだ。

 馬の手綱を持ったまま、馬車に座っている人に声をかける。



「あの、フォルトリア行の馬車ですよね?乗りたいです!」

「ああ、そうだよ。そちらの彼女も一緒かな?」

「はい、そうです」

「じゃあ1人につき銅貨50枚で、2人で銀貨1枚だ」



 麻袋から銀貨を1枚取り出して、それを渡す。



「後ろの荷台に乗ってくれ。人はあまりいないから、割と快適だよ」

「分かりましたー」



 馬車の荷台に乗り込む。

 ドワーフが1人に冒険者が2人。

 確かに人は少ないな。


 適当なところにシャルと座り、馬車は出発した。


 ――ガタッ、ガタガタ。


 馬車が走り出して、しばらく時間が経ったとき、シャルは震え出した。

 真っ青な顔をしていて、白い肌がいつにもまして白く見えた。



「シャル、大丈夫か?」

「……え?」

「震えてるから心配になってさ」

「……ああ、うん。大丈夫」



 そう言ってシャルは、ニッコリと笑顔を作った。

 大丈夫そう……かな?

 馬車が揺れているから、シャルが震えているように見えただけなのかもしれない。

 今、こうしてみるとシャルは別に震えてなどいなく、いつものように平然としていた。



「そうだな、悪い。気のせいだった」

「うん」



 この町からフォルトリアまで約1日かかる。

 朝に出発したため、夜になるまでには着くだろう。

 馬車の中を見回すと、ドワーフの男はグーグーといびきをかきながら眠っている。

 2人の冒険者の男女は何やら雑談をしていて、武器の話をしているから、俺達と大体同じ目的でフォルトリアに向かうのだろう。


 暇だな……。

 こういう時間のあるときに俺の職業の事やユニークスキルの【吸収】の事を話しておくべきなんだろうけど、人がいるからな……。

 あまり人がいるところで話していいような事でもないだろう。

 そういう訳で、フォルトリアに着くまでは大人しくのんびりとしていようかな。

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