第7話 テイマーはEランクに昇格する
夕食を食べて、あとは寝るだけ。
もちろんシャルとは、同じ部屋に寝る事になる訳なのだが……。
――寝れねぇ……。
原因は横でスヤスヤと規則的なリズムで寝息を立てているシャルだ。
部屋は狭く、布団を二つ敷くのが精一杯なため……距離が近いのだ。
寝相で少しでも動こうものならすぐにでも密着するような距離。
だったら、俺が別の場所で寝ればいいって思うだろ?
ああ、そうさ。俺もシャルにそう提案したさ。
しかし……。
「この家には、この部屋以外に布団を敷けるスペースはなさそうですよ」
「布団で寝なくても、横になって寝れるスペースぐらいはある」
「やめておいた方がいい。身体をゆっくり休められないから。あなたも疲労が溜まってるだろうし、布団で寝た方がいい」
と、主張するシャルのごもっともな意見に俺は負けたのだ。
それを聞いた結果がこの有様。
このままでは間違いなく寝れないだろう。
無駄に緊張しすぎてる。
俺は立ち上がり、そーっと足を動かして部屋を出て行こうとした。
「――どこに行くの?」
シャルの声がした。
完全に寝てたと思ってた。いや、もしかしたら起こしてしまったのかもしれない。
「寝れないから、別のところで寝ようかな……と」
「――行かないで」
そう言うシャルの声は少し儚げだった。
シャルの方に振り返る。反対側を向いていて表情が見えない。
だけど。俺はここで寝る事にした。
どんな理由で俺にいてほしいのかは分からない。
だが、女の子に行かないで、と言われたら行く訳には行かないだろう。
「分かった」
そう一言述べて、俺は自分の布団に戻る。
「ありがとう」
シャルは感謝の言葉を述べてしばらくすると、また規則に正しい寝息が聞こえてきた。
俺も寝ようと、目を瞑る。
しかし、そう易々と眠れる訳がなく、結局一睡も出来ずに朝になるのだった。
◇
「ふわぁ〜、ねみぃ」
欠伸をしながら冒険者ギルドに向かう。その横をシャルが歩いている。服は母さんが着てたものを来ている。その理由は、シャルの着ていた服が少し破れていたからだ。そんな服を着せておくのは、悪目立ちするため母さんの服を着させることにした。
「ごめんなさい」
「あー大丈夫。ジョークです。全然眠くないから」
ここ最近ずっと酷い扱いを受けてたから、謝られる事に慣れていない。
てか。そもそもシャルが謝る必要など無いだろう。
寝れなかったのは俺が悪いんだし。
今、冒険者ギルドに向かっているのはシャルを冒険者登録するためだ。
人間以外の種族――いわゆる亜人も冒険者登録する事が出来る。
そして冒険者登録を済ませた後は、俺とパーティを組ませる。
パーティは4人まで冒険者が一つのグループとしてギルドに登録出来るシステムだ。どういうメリットがあるかと言うと、一つ目は経験値が分散される。
俺はレベルアップしても対して意味は無いのだが、シャルは違う。
普通の戦闘職はレベルが上がると格段に強くなっていくため、レベル上げが大切なのだ。
二つ目は、報酬金が分配されるということ。シャルは俺の奴隷となっているが、普通の人と変わらない生活を送ってもらいたい。自分で稼いだお金は自分のために使って欲しいし、俺についてくるだけでなく、好きなところや自分のしたい事をして欲しい。
それの一環として、この報酬金を分配するシステムは良いなと思った。
冒険者ギルドに着くと、早速窓口に向かう。
「この子の冒険者登録とパーティ登録をしにきました」
今日の受付嬢は、昨日俺の対応していた受付嬢だった。
「あ、アレンさん!ちょうど良かったです。昨日の事についてこの後お話出来ますか?」
「出来ますよ。でも、登録を終えてからもいいですか?」
「全然大丈夫ですよ!えーっと……では、こちらの紙を記入して頂けますか?」
そう言って、受付嬢はシャルに紙とペンを渡す。
シャルはそれを受け取り、黙々と記入欄を埋めていった。
「承りました!では、ギルドカードを発行しますね……はい、発行できました。どうぞ。初回は無料で発行出来ますが、失くした場合、再発行にはお金がかかりますので、注意してください」
「分かりました」
ギルドカードを受け取るシャル。
へー、といった顔でギルドカードを眺めている。
「後。シャルとパーティを組みたいのですけど」
「あ、そうでしたね。では、ギルドカードをお預かりしてもよろしいですか?」
俺とシャルはギルドカードを渡す。
シャルに関しては二度手間だな。渡す必要あったか……?
たぶん、パーティ登録すること忘れてたんだろうな。
「はい、パーティ登録完了しました!それではギルド長がお待ちなので………………こちらの部屋にお入りください」
窓口から出てきた受付嬢は、俺たちの先頭を歩きギルド長が待つ部屋に案内した。
仕事を終えた受付嬢はペコリと頭を下げて、窓口に戻っていく。
シャルも同席して大丈夫か悩んだが、ホブゴブリン倒したのはシャルだから逆に同席するべきだなと思った。
ドアを開け、中に入る。
中には、ヒゲの生えた中年の男が高そうな椅子に座っていた。
「こんにちは。君がアレン君かい?だとしたら、そちらは?」
ギルド長は、立ち上がって挨拶をし、シャルの方に手のひらを向ける。
「彼女は僕のパーティメンバーのシャルです」
「よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げてお辞儀するシャル。
「こちらこそ、よろしく」
ギルド長もそれに応えてお辞儀をする。
「では、今回アレン君を呼んだ一番の理由はホブゴブリンを討伐した事についてだ。君は現在Fランクの冒険者だが、ホブゴブリンを倒した実績を考えてEランクに昇格させよう。あのホブゴブリンは長い間倒されてなくてね。通常より強くなってきた頃だろうから討伐してほしい対象だったんだ」
なんと冒険者ランクが昇格することになった。
だが、ホブゴブリンを倒したのは俺じゃない。シャルだ。ここで言わないのは、自分の中で納得出来ない物として残りそうだ。だから、自分のためにそれを言う事にした。
「いえ、昇格は遠慮しておきます。実はホブゴブリンを倒したのはシャルなんです」
「……ほう。シャル君が冒険者登録をしたのはさっきだったかな。……なるほどなるほど」
「何か分かったんですか?」
「ホブゴブリンは、君が倒したことになってたんだったな。それはギルドカードの不具合で、ギルドカードを持っていない人がモンスターを倒すと、近くの冒険者のギルドカードに加算されてしまうんだ」
なるほど、俺のギルドカードの討伐モンスターにホブゴブリンがいたのは、そういう理由だったのか。
「じゃあ、二人ともEランクにしておこう」
「え、いいんですか?そんなことして」
「所詮Eランクだから一人増えようが、二人増えようが変わらないよ」
「そういうものなんですね……」
適当だな、と思ったが口には出さない。シャルもEランクにしてもらう方が得なのは明白だ。
それをとやかく言う必要はないだろう。
「ああ、そういえばもう一つ伝えておく事があったな。アレン君に無礼な態度を取っていた受付嬢は解雇しておいた。今後、不遇職だからといって、そういう無礼な態度を取った受付嬢は報告するといいさ」
「分かりました」
あの受付嬢、解雇されたのか。
少し可哀想に思うが、自業自得だな。
「では、これで話し合いを終了する。アレン君、今後の活躍を期待しているよ。不遇職だから厳しいかもしれんがな」
「……はい、ありがとうございます」
そう言って、俺とシャルは部屋を出た。
不遇職だから厳しい……か。そう言われるのも仕方ないな。普通のテイマーではEランクが限界だろうから。
もう1日、この町にいようと思っていたが、明日には次の町に向かう事にした。
理由は、ギルド長の最後の言葉だ。あんな事言われたら、とっとと強くなるしかない。
実は俺、負けず嫌いなんだ。