第78話 氷竜討伐
駆けてみると予想以上に速かった。
それも当たり前だ。
10倍以上、力が跳ね上がっているのだから。
でも今は何だか調子が良い。
モンスターとの連戦で集中力が研ぎ澄まされた結果なのかは分からないが、身体をどう動かせばいいのかよく分かる。
「アレンさん! 気を付けてください! 私は今、操られています!」
ナナちゃんがこちらに突撃してきて、顔面に向かってパンチを繰り出した。
首を傾けてかわす。
「どういうことだ?」
「え、あの、アレンさん……」
「ん?」
「どうして私の攻撃を簡単に避けているんですか?」
「強くなったから」
連続で繰り出されるパンチとキック。
心なしか以前よりナナちゃんが強くなっている気もするが、今の俺はそれを簡単にかわすことが出来た。
「……圧倒的な強さですね。それなら早く氷竜を倒してください。シャルさんは今、一人で氷竜の相手をしています」
「分かった。……なんか怒ってる?」
「怒ってないです! 早く私の攻撃をかわしながら氷竜を倒してください」
「ああ、言われなくてもそうするさ」
どこかナナちゃんが怒っている気もしたが勘違いだろう。
「くッ!」
「ゴアアアァァ!」
シャルは苦しそうな表情で氷竜からの攻撃を防いでいた。
「あっ──」
氷竜の爪がシャルの魔剣を弾き飛ばした。
まずい。
あれでは次の攻撃を防げない。
氷竜は既に攻撃の態勢に入っている。
させるか!
その僅かな時間に俺はシャルと氷竜の間に駆け、襲い掛かる鋭い爪を剣で防いだ。
「危ない。ギリギリ間に合ったな」
「やっぱり助けてくれた」
──私が負けそうになったとき、アレンなら絶対に助けてくれるから。
氷竜に立ち向かうとき、シャルが言っていた言葉だ。
「だからって無茶していいわけじゃないぞ」
「うん、ありがとう」
「それはは氷竜を倒したあとに言うべきじゃないか?」
「倒せるでしょ?」
「どうだろうな。見ていてくれ」
「分かった」
俺の作戦は単純だ。
氷竜の頭を斬り落とす。
目標を定め、地面を蹴り、ジャンプをする。
「アレンさん!」
それを狙ってきたかのようにナナちゃんが攻撃を入れてくる。
空中では左右に動けない。
つまり、直撃は免れない。
「ナナちゃん、ごめんな。少し踏み台にさせてもらうよ」
だから避けなくていい。
ナナちゃんの攻撃を受け止め、反動が来る前に背中を蹴って、上へ飛ぶ。
幸い地面は雪。
ナナちゃんが壊れることはないだろう。
「ハアアアアァァァァ!」
先ほどより勢いを増して、俺は氷竜の頭へと近づいていく。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアア!」
氷竜は【氷輪吹雪】を使用してきた。
先ほどは溜めていたのに、今度はノータイムで放ってきた。
溜めていたのは、ピンチのときに使うための布石だったか……!
だけどな、俺はテイマーだ。
氷属性の耐性を持つモンスターを吸収してるんだよ!
【氷輪吹雪】は俺に効かない!
強固な鱗の上に氷の鎧。
それを斬るのは容易ではない。
だが、ゲブランに造ってもらったこの剣と今のステータスで斬れない訳がない。
あとは絶対に斬るという強い気持ちだけだ。
「氷竜! これで最後だ!」
一閃。
太く、厚い首だったが、まるで柔らかいものを斬っているのかと錯覚した。
着地すると同時に氷竜の首も地面に落ちる。
そして、首と胴体が次第に粒子となる。
今までフリエルドを恐怖に陥れていた悪魔は、雪のように空へ消えていった。
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」
雪のなかだと言うのに勝利の歓声が街からも雪原からも聞こえてきた。
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