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第76話 進化

「氷竜の狙いはコイツだ。そして、そのとき動きが単調になる」



 ブルーノの読みは予想通りだった。

 氷竜は賢い。

 そのため、何が原因で弱体化しているか明確にしていた。

 だが、目標を一つに定めたとき、動きが単調になる代わりに死に物狂いでそれを狙ってくることにブルーノは思考が及んでいなかった。


「来る」


 氷竜は上空に飛び、ブルーノめがけて勢いよく降下してきた。


「おっと、それならNo.7、僕を運んで動き回れ」

「分かりました」


 No.7はブルーノを抱え、氷竜の突撃をかわした。


「よし、No.7。これを持って氷竜の周りを逃げ回れ」

「しかし、それではお父様が危険に晒されてしまいます」

「僕のことは気にするな。今は氷竜を倒すことだけを考えるんだ」

「はい、分かりました」


 そして、No.7は氷竜と一定の距離をとりながら逃げ回る。

 氷竜にとって、No.7は敵に値しない相手だ。

 だが、逃げ回るとなると、話は別だ。

 力のないものでも逃げ足だけは早い。

 氷竜はこの状況を煩わしく思っていた。

 それに加え、


「さっきより周りが見れていないのね」


 No.7ばかり狙うため、生まれる死角。

 それをシャルは見事に突いた。


「グオオオオオオオオオオォォォォォ!!」


 大きな咆哮を上げ、怒りをあらわにする氷竜。


「私達もいることを」

「忘れないでくださいね!」


 レナとクラリスの連携技。

 光魔法ライトニングストーム

 氷竜に隙が出来ていたからこそ、容易に力を溜めることが出来た。

 そして見事直撃。

 これには氷竜も多大なるダメージを受けた。

 しかし、さすがA級というべきかB級とは違い、これで倒すことが出来ない。

 

 それがあだとなったか。

 氷竜は冷静さを取り戻した。

 この状況を打開するには闇雲に標的を狙っていては意味がないことを悟る。

 そしてシャルの攻撃をいなしながら、No.7の動きを観察する。

 決まった動作で何通りかのパターンで自分の周りをグルグルと動きまわっていることを確認。

 いや、正確にそうであることを見抜いたのではない。

 何百年と生きている野生の勘が本質を見抜いたのだ。


 氷竜は大きく息を吸い込みだした。


「またブレスだ。気をつけろ!」


 ブルーノは叫んだ。

 またブレスが来ることはNo.7も分かり切っていた。

 だからこそ、このまま動き回っていれば避けれるだろうと認識した。

 機械ゆえに、場の空気。

 危機感。

 気配。

 それらを正確に読み取れないのだ。

 

「ナナちゃん、危ない!」


 しかし、シャルは気付いた。

 このブレスが無策に放たれるものではないことを。

 悪い予感がして、大声を出し、No.7に危険を伝えた。



 ──が、間に合わない。



 氷竜は、No.7が逃げる先に【氷輪吹雪】を吐き出した。



「「ナナちゃん!」」



 レナとクラリスの悲鳴が響く。

 シャルはNo.7に向かって、駆け出したが、間に合わない。


「──あ」


 だが、一人だけ。

 一人だけ間に合った。

 

 両手でNo.7を突き飛ばし、代わりに【氷輪吹雪】を受けた者。

 


「あ、あぁ……」



No.7は自分を突き飛ばした者を確認すると、表情を歪めた。

 


「お父様ァァァァァ!」


 

 絶望の表情でNo.7は叫んだ。

 No.7を突き飛ばしたのはブルーノだった。

 【氷輪吹雪】がまともに直撃したブルーノは全身凍り漬けになっていた。


 






「なんで私なんかを……」



 父の凍った姿を見て、後悔した。

 自分の犯したミスを。



「アンドロイドですよ……私は……」



 自分を助ける意味が分からない。

 代わりはいくらでもいるし、それに壊れたらまた作り直せばいい。

 


「心を持たないアンドロイドなんですよ……」


 

そう、なにせ私は心も持っていないのだから。

 ただの目的を達成するための道具でしかないのだから。

 それなのに自分の身を顧みず、私を助けた父の行動が理解できない。



 


 だが、No.7は涙を流した。


 ──心を持たないアンドロイドが涙を流したのだ。


 ブルーノもNo.7に心という概念を持つことはないと思っていた。

 持ってほしくないとすら思うほどだった。

 だが、人との交流のなかで、No.7の中に少しずつ自我が生まれかけていた。

 そして、最も大事な人を失ったこの状況で、皮肉にもそれは確かなものとなった。

 



『進化条件を満たしました。これより進化を開始します』




 No.7を眩い光が包む。

 そして、光の中でNo.7の身体は再構築されていく。


 アンドロイドだった彼女の存在は魔物にカテゴライズされる。

そんな彼女が心を、自我を得たことでトリガーとなり、進化が行われた。

 造られた身体。

 設定された能力。

 そんな機械の身体を脱ぎ捨て、彼女は考え、行動し、成長する、一つの生命体へと進化を遂げるのだった。

 

 再構築された姿は以前と大した変化はない。

 だが、瞳には生気が宿り、氷竜に対する怒りの気持ちが炎のように燃え上がっていた。



──────────────────────


 種族:魔法生物

 名前:No.7

 レベル:1

 HP:250000

 MP:250000

 攻撃:250000

 防御:250000

 魔力:250000

 敏捷:250000


 《スキル》

【女神の涙】


 ──────────────────────



 倍になったステータスに加え、彼女はスキルを手にした。

 【女神の涙】はあらゆる異常を正常に戻すスキルだ。

 進化の過程でブルーノの無事を強く願った彼女だからこそ手に入れることが出来たスキル。



「お父様……お願い。生きて」



 そして、ブルーノのそばに駆け寄り使用する。

 凍っていたブルーノの身体は溶けていく。



「なにが起こったの……?」

「分かりません……突然ナナちゃんが光に包まれて……」

「えっ、見て、ブルーノさんの身体が治ってる」

「私達の回復魔法では治せなかったので、あれはナナちゃんがしたのですね。凄いですね」



 ブルーノを治したNo.7氷竜を睨みつける。


「今なら街の皆が逃げなかった理由が少し分かる。だって、お父様を傷つけたお前を私は許せないから」




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