第75話 アレンの予感
「手が治らない……!?」
まずい。
ここでシャルの手が凍り付いて治らなければ、一気に劣勢になってしまう。
氷竜が姿を変えたことによって、強くなったことも考えられる。
なんとかしなきゃ……!
この状況、俺が氷竜を倒さなければいけない。
でも、どうやって……?
覚醒……。
そうだ。
シャルは覚醒して、氷竜と対等に渡り合えるようになった。
俺も覚醒さえすれば、もしかすると勝てるかもしれない。
だが、覚醒の条件が分からない。
なにを満たせばいいんだ。
シャルはどうやって覚醒したんだ……。
「ナナちゃん、どうやったら覚醒出来るんだ?」
「人によって条件が違います。今、覚醒する方法を探すのは無謀です」
「そうかもしれない。だが、氷竜に勝つには強さが必要だ」
策を練って勝てる相手なら、フリエルドの衛兵部隊が既に討伐している。
ここまできて、こんな考えに至るのはバカにも程があるけど、希望を捨てるよりはマシだ。
それに、一つだけ心当たりがある。
「ナナちゃん、少し時間を稼いでいてくれないか?」
「分かりました。いつも通りですね」
「アレン、私もまだ十分に戦える」
「シャル! その凍った手でどうやって……」
「大丈夫。剣は振れる」
「──みんな、待たせたね」
後ろから声がした。
この声は……ブルーノだ。
振り向くと、ブルーノが四角い形状をしたものを手に持っている。
「氷竜を倒すための秘策を用意してきたよ。これさえあれば、氷竜を弱体化できる」
そう言って、ブルーノがアイテムを使用するとキーンと高い音が周囲に響き渡った。
「グオォ、グオオオオオオオォォォ」
氷竜は嫌そうに声をあげ、巨躯を揺らした。
どうやら効いているみたいだ。
それにしてもあのアイテムは何故、氷竜に効果があるのだろうか。
すると、あのアイテムからは音だけでなく、魔力が出ていることに気付いた。
魔力が波形のように周期を持って、放出されている。
これが氷竜に衝突すると、魔力の波形が消えている。
「いつまでも支配者でいられると思うなよ? 氷竜はこのアイテムを、そして私を狙ってくる。みんなは私を守ってほしい。だが、アレン君。君は何かやりたいことがあるのだろう?」
「はい……だから、時間を稼いで欲しいんです」
「勝算は?」
「分かりません。根拠もありません。──それでも僕を信じてください」
「勿論だとも。だが時間はどれだけ稼げるか分からない。早急に頼むよ」
「はい! みんな、任せた!」
そう言って、俺は衛兵部隊のもとへ向かって行く。
目的はモンスターだ。
今ここでレベルを100まで上げる。
それで覚醒するかは分からない。
でも何故だろう……。
不安な気持ちは一切ない。
「出来るだけモンスターを囲め! モンスター共が身動きを取れないように考えて動け!」
部隊の指揮をとっているハロルドさんのもとへ向かう。
「ハロルドさん、無理を承知で言いますが、僕の援護をしてください!」
「む。アレン君、一体どうしたんだ?」
氷竜と戦っているはずの俺がこんなところに来て、ハロルドさんは状況を上手く理解できていないだろう。
「今からB級モンスターを倒して、2レベル上げます。それの手伝いをしてください」
だが、全てを説明している暇はない。
今すべきことだけを俺は述べる。
「……何か考えがあるんだな?」
「はい。出来るだけ僕とモンスターが1対1になるように部隊を指揮して頂けませんか」
「1対1……ああ、任せなさい」
「ありがとうございます!」
そう言って礼をした後、俺はモンスターのもとへ駆けていく。
「皆の者聞けー! 今、加勢に来たアレン君を我々は全力でサポートしていくぞ!」
「「「おー!!!!!」」」
ハロルドさんの声は雪の中だというのによく響く。
周りの衛兵達は俺を視界に捉えると、襲いくる魔物を止め、俺が動きやすいようにしてくれた。
「ッチ、てめぇを助けてやるのは癪にさわるが、この際そんなこと言ってらんねぇ。さっさとモンスター共を倒せ」
モンスターを止めながら、そう言ったのはテオという男。
ブルーノさんを裏切り者呼ばわりし、俺達が戦いに参加することに肯定的でなかった奴だ。
だが、それでも俺に協力してくれている。
氷竜を倒すという目的は一緒だ。
だからこそ俺達は思いを一つに出来ている。
俺は今、色々な人の期待、そして思いを背負っているんだ──。
「ありがとうございます!」
自然と感謝の言葉が出た。
目の前にいるアイスベアー。
弱点を知っている俺にとって、討伐することは容易い。
ナナちゃんのおかげだ。
勢いを殺さずに、アイスベアーを仕留める。
流れに乗って、このモンスター達を倒すんだ。
反射神経を研ぎ澄ませ。
モンスターの攻撃にすぐさま反応し、攻撃する。
相手がB級だろうが関係ない。
いち早く倒して、氷竜を倒しに行くんだ。