第73話 氷竜襲撃
こちらの最大火力はレナとクラリスによる連携技だということが判明し、それを主軸にして戦うことに決まった。
今までの戦い方とあまり変わることなくてホッとする一面もあるが、これで本当に大丈夫なのか? と不安になる。
衛兵部隊が氷竜を挑発し、出来るだけ街から離れる。
そして俺、シャル、ナナちゃんで氷竜の攻撃を防ぐ。
細かい作戦を立てると、それに意識が集中してしまい、個人のパフォーマンスが低下する恐れがある。
そのため、大枠だけ決めて後は臨機応変に行動するとのことだ。
隊長であるハロルドがどれだけ上手く部隊を指揮できるか、俺達がどれだけ氷竜に対抗できるか、そしてレナとクラリスの連携技が氷竜にダメージを与えられるか。
勝つための要素が足りていないことは俺も承知している。
だが、一つ異変に俺は気付いた。
シャルのステータスが見えなくなっていたのだ。
いつからだ……?
それをシャルに聞くと、
「話したくない」
「分かった。悪いな」
「ううん。私の方こそワガママ言ってごめんなさい」
真相は分からなかったが、この異変が良いことに傾いてくれることを祈るばかりだ。
作戦会議を終えた俺達は早速、レベル上げへと向かった。
最低でも100レベルは超えておきたい。
「モンスターを倒すペースも上がってきたな」
「アレンさんがB級モンスターたちを召喚できるおかげですね」
「アレン自身も強くなってるみたいだし、私は楽できてラッキーって感じかな」
「みんな強くなってる」
レナやシャルが言うように段々と強くなっているのは実感できる。
なにせもう98レベルだ。
今日中に100レベルに到達することが出来るだろう。
「──嫌な気配がしました」
調子が出始めた頃にナナちゃんが不気味なことを呟いた。
そして立ち止まり、目を閉じた。
「皆さん、これから街に戻ります」
目を開けて、ナナちゃんは呟いた。
「なにかあったのか……?」
「氷竜が動きだしました」
「はぁ!? 襲ってくるのはまだのはずじゃなかったのか?」
「竜族は賢い種族です。奇襲を仕掛けるつもりだったのでしょう。それにいち早くお父様が気付いたようです」
「クソッ、とにかく今は戻らなきゃ」
最悪だ。
こんなタイミングで氷竜が来るなんて。
◇
フリエルドに大急ぎで戻った俺達はすぐにブルーノのもとへ向かった。
研究室の扉を開け、中に入るとブルーノは何かを造っているようだった。
「氷竜が動き出したって本当ですか!?」
「ああ、本当だとも。それに氷竜以外にもおまけがついている」
「おまけ……?」
「氷竜はフリエルドを本気で潰しにかかってきた。そう……B級モンスターを引き連れてね」
「モンスターを引き連れてくる!? そんなことってあるんですか!」
「ああ。氷竜はこの周辺の支配者だ。それに賢い。モンスターを誘導するぐらい造作もないだろうさ」
ただでさえ氷竜だけで勝てるか分からないのに、B級モンスターまでも加わるのか……。
「B級モンスターは何体ぐらいいるんですか?」
「約100体だね」
「ひゃ、ひゃくうぅ!?」
レナが悲鳴をあげた。
「とんでもない数ですね……」
「いや、生息する魔物の数を考えれば少ないよ。大丈夫、このモンスター達は衛兵部隊に対処してもらうことになったから。アレン君たちは氷竜に集中してくれるかい?」
「分かりました。なんとかしてみます。ブルーノさんは?」
「ちょっと秘策をね。完成まで残り20分ぐらいだ。なんとか耐えてくれ」
「任せてください!」
「皆さん、急ぎましょう。氷竜の到着まで残り10分とないです」
ナナちゃんが冷静に状況を述べた。
「ああ、急ごう」
フリエルドの前には、衛兵部隊が集まっていた。
ハロルドさんにも既に連絡が伝わっているようだった。
衛兵達は俺達を目の敵のように睨んでいる。
今にも襲ってきそうな雰囲気だが、流石にそれは無かった。
「アレン君、話は聞いているかな?」
ハロルドさんが声をかけてきた。
「はい。そちらが氷竜以外のモンスターを対処してくれるってことですよね」
「ああ、そうだ。我々が氷竜に立ち向かえないのは非常に申し訳ないが、よろしく頼む」
「もちろんです。一緒に勝ちましょう」
「うむ」
一面に広がる雪景色。
そして、その先にモンスター達が姿を見せ始めた。
俺はみんな方を振り返り、
「……絶対に死ぬなよ」
と言うと、
「当たり前でしょ。絶対に死んでたまるもんですか」
「アレンさんに助けて頂いた命です。無駄にはしません!」
「私は死なないし、みんなは私が守る」
みんな笑顔でそう言った。
「ハハハ……心強いな」
俺は本当に良い仲間に恵まれた。
できる事なら誰も死なせたくない。
ブルーノやナナちゃんは勿論。
ハロルドやテオドア、そして衛兵部隊や街の人々。
誰一人、殺させはしない。
そのためには必ず氷竜を倒さなければいけない。
「よし、氷竜討伐といこうか」
絶対に負けられない戦いが幕を開けた。