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第72話 裏切り者

 今日を含め、氷竜が襲ってくるまで残り3日。

 この日は、ブルーノが街を守る衛兵部隊に俺達のことを伝えておいた方がいいと言うので、会いに行くことになった。


 煉瓦で造られた建物。

 一部が損壊しているところを見ると、氷竜との戦いの跡が見て取れた。


 建物の扉を開けると、衛兵達が素振りや模擬戦をしており、氷竜の襲撃に備えて訓練しているようだった。

 衛兵たちは俺達の姿を捉えると、手を止めて一斉に注目がこちらに集まった。


「お前……! 何の用だ」


 ブルーノと同じぐらい歳をした衛兵が眉間にしわを寄せながら、威嚇するような口調で言った。


「皆さん訓練を続けてくれて構わない。隊長とテオドアさんに会いに来たんだ。通してもらえるかな?」

「なんでお前を通さなきゃいけないんだ? 裏切り者のお前を」


 裏切り者?

 ブルーノさんが?


「ちょっと、ブルーノさんが裏切り者ってどういうことですか?」

「ッハ、お前ら何も知らないでコイツの協力をしていたのか? お笑いものだな」

「そんな言い方……! あんまりです!」


 クラリスが言った。

 ブルーノは良い人だ。

 馬鹿にされるのは嫌な気分になる。


「だったら教えてやるよ。こいつはな、氷竜に街を襲わせた張本人なんだぜ」


 衝撃の事実。

 俺達は驚きを隠せなかった。

 ブルーノを見ると、少し顔を伏せているようだった。


「しょ、証拠はあるんですか!」

「証拠はそいつがやっていることだよ。奇妙な道具を作りやがって。街の皆は気味悪がって、反対してたんだ。そして、そいつは辞めなかった。だから街に災いが降り注いだんだ」

「そんなの言いがかりです! ブルーノさんは今だって街のためを思って──」

「クラリスくん。いいんだ」


 ブルーノが反論するクラリスの前に手を伸ばし、言葉をさえぎった。


「僕が悪いことは確かだ。罪滅ぼしは後でいくらでもやるさ。でも今は目先の問題に集中すべきじゃないか?」

「嫌だね。裏切り者のお前と協力してもまた裏切られるのがオチだ。だったら話し合うだけ時間の無駄だな」

「セオ、そのぐらいにしておけ」


 奥の階段から現れたのは鎧を身にまとった初老の男性だった。


「隊長ッ! し、しかしコイツは──」

「話は聞かせてもらった。ブルーノ、二階に来てくれ」

「ありがとうございます」


 ブルーノは一礼して、俺達に「行こうか」と笑顔で言った。


「お前また裏切ったらタダじゃおかないからな」


 二階に行く途中、セオと呼ばれた衛兵がブルーノを睨みつけた。


「分かってる」


 ブルーノは短く、そう答えて隊長の待つ二階に向かって行った。




 ◇




 二階に上がると、そこには長い机が部屋の中央にあり、椅子が何個も置かれていた。

 机の奥に座っていたのは、白い髭を生やした老人だった。

 この人がブルーノが言っていたテオドアという人だろうか。


「ブルーノ、すまない。あんな役割をお前に任せてしまって」


 隊長が申し訳なさそうに言った。


「大丈夫ですよ。もう慣れましたから」

「あと、その子は……」

「すみません。僕の我儘です。軽蔑せずに大目に見てくれませんか?」

「喜びはしても軽蔑などするわけがないだろう」

「ハロルドさんにそう言ってもらえると、少し救われます」


 先ほど隊長と呼んでいたけど、今はハロルドと呼んでいる。

 何かみんなに隠していることがあるのかもしれない。

 いや、この意味深な会話を聞いていると、そうとしか思えないな。

 これ俺達、場違いなところに来てないか? と不安になったものの依頼を請けると言った以上、そうも言っていられないよな……。


「ブルーノ、よく来てくれたのぉ」

「テオドアさん。お久しぶりです」

「そちらの方々が協力してくれる者達かの?」

「はい。信頼できる者達です」

「ほぉ。名前は何と言うのかの? すまんが、一人ずつ名前を言ってくれんか?」

「アレンです」

「シャルです」


 シャルは俺を見て、真似るように言っていた。


「私はレナです。回復しかできないので、基本的に戦ったりできません!」


 レナは身の危険を感じたのか、自分が戦えない存在だということを主張した。


「クラリスと申します。精一杯頑張らせて頂きます!」


 レナとは対称にクラリスは良い人オーラが凄まじかった。


「うむうむ。皆さん良い人そうで何よりじゃ。さすがはブルーノじゃな」


 本当か?

 この老人、ボケてるんじゃないか?

 なんて失礼なことを思ってしまった。


「あの、お二人はブルーノさんの事を悪く言わないのですね」


 クラリスが質問した。


「ああ。俺達だけが真実を知っているからな。ブルーノはこの街の英雄なんだ」

「大袈裟ですよ。僕は否定せず、都合よく解釈してもらっているだけです」

「それでもだ。そのおかげで多くの人が救われている。感謝してもしきれない」

「一体、なにがあったんですか?」

「人は絶望の中で生きていくには何かを拠り所にしなければいけないんだ。この街の住人にとって、ブルーノが氷竜を呼びよせたと思うことによる憎しみが生きる糧となっているのさ」


 ハロルドが暗く、悲しい顔で答えた。

 おかしいと思った原因はこれだった。

 先ほどブルーノが難癖つけられていたとき、証拠となるものは一つも無かった。

 だけど、あれだけ執拗にブルーノを憎んでいたのはこんな理由があったのか……。


「そんなのって……ブルーノさんが余計つらいだけじゃないですか……」

「そうでもないよ。僕はあまり人との関わりが無いからね。こういう役は適任だよ」

「大丈夫。ブルーノには私達がついてる」


 シャルが答えた。

 芯のある目で真っ直ぐにブルーノを見つめていた。

 そして、シャルは言葉を続ける。


「氷竜は私達が絶対に倒す」

「そうですよ! 私達は絶対に負けません! ですよね、レナさん!」

「えっ! も、もちろんよね」


 鋭いキラーパスがレナを襲った。


「……ありがとう……君たちに頼んで正解だったよ」

「ほっほっほっ、役者は整ったのう。では氷竜を倒すための作戦会議を始めるぞい」

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