第71話 B級モンスターを単独討伐
レベル上げは順調だった。
2日目を終えると、レベルは90に到達。
必要とされる経験値は増加するが、テイムしたモンスターを利用して、経験値取得効率が上がるため、1日目と同様に10レベル上げることが出来た。
そして3日目……。
「よし、勝てた!」
ブリザードホークを一人で斬り伏せた後に俺は額の汗を拭った。
今まではパーティ全員で連携をしてB級モンスターを倒せるぐらいだった。
しかしステータスが上がり、俺はB級モンスターを一人で討伐出来るようになっていた。
そしてレベルが上がり、95レベルになった。
「おお、やるね〜アレン」
「B級を単独で討伐できる冒険者なんて中々いませんよ! 凄いですアレンさん!」
「カッコよかった」
パチパチと拍手をしてくれる3人。
こうも素直に褒めてくれると照れるな。
「ありがとう。ナナちゃんの分析があってこそだけどな」
ナナちゃんはモンスターと何度も戦ううちにモンスターの癖、弱点を分析し、俺達に教えてくれた。
例えば、ブリザードホーク。
体長2mもある巨大な鳥。翼膜は氷で覆われていて頑丈。可動域も広く、風切羽を自在に動かし縦横無尽に空を駆け巡る。
氷のブレスを吐き、鋭い爪で上空から攻撃してくる厄介な敵だ。
パーティで倒すときもクラリスの一撃を避けられないように少しダメージを与えて、動きを鈍らせておく必要があった。
しかしナナちゃんはブリザードホークの弱点がブレスを吐いた瞬間であることを見抜いた。
氷のブレスを吐く瞬間、一度上空で停止する。それに加えて翼の防御力が下がるため、ピンチかと思えた攻撃も絶好のチャンスとなる。
だから理屈ではブレスを躱して、空中で静止したブリザードホークの翼を攻撃し、地面に叩き落とせば勝てるのだ。
俺はスキル【鷹の目】により、ブリザードホークの動作一つ一つを追えた。
ブレスのタイミング、狙っている位置、それを意識しておくことで身体は取るべき動作を行ってくれる。
「言うは易く行うは難しというものですよ。実行するには高い技術力が必要です」
「そう? 結構簡単そうに倒してるけど。シャルでも出来そうな気がしない?」
「分からない。それに私はアレンがカッコよく戦ってるのを見てる方がいい」
「確かに。私もアレンが頑張ってくれれば仕事が減るものね」
「いや、ちゃんと働けよ」
レナはサボりがちなところがあるからな。
ここぞという場面ではしっかりと動くのだが……。
「ちゃんと働いてますよー、だ。ねークラリス?」
「はい! レナさんのおかげで戦闘がかなり楽になってると思いますよ」
「ふふふ。クラリスは良い子ね。ちゃんと私を評価してくれているわ」
「俺が正当な評価を下してないみたいな言い方だな」
「そうに決まってるじゃない! 私が最近どれだけ身体を酷使してるか知ってるの!?」
後ろで隠れてクラリスの魔法を強化しているな。
一番楽な役割な気がするのだが……。
いや、レナはレナなりに頑張っているんだ。
ここは褒めてあげるべきなのではないか?
「そうだよな。お前は本当に頑張っているよ。えらいぞ」
「え? あ、やけに素直ね。ま、まぁそれだけ私は頑張っているもの」
レナは頬を赤らめていた。
照れてるのか?
意外だな。
「よし、レナを褒めてあげたところで日が暮れそうだな。そろそろ終わりにするか」
「今日のノルマも終わりましたもんね」
「ああ、順調だ。このまま行けば氷竜ぐらい簡単に倒せちゃうかもな」
「それは厳しいでしょう。氷竜はかなりの強さを誇ります。現状では勝てる確率は1%にも満たないでしょう」
「……マジかよ」
つい、ため息が出てしまう。
レベルを上げて結構強くなったと思ったら、目的の氷竜にはまだ遠い。
時間も限られているなかで、それは知りたいけど知りたくない情報だった。
「それに残された時間もわずかです。そろそろ街に氷竜が襲ってくるでしょう」
「どうしてだ?」
「人間の味をしめた氷竜は周期的に襲ってきます。満腹まで食べ、そして空腹になったらまた食べるために街を襲います」
「……ちなみにあと何日?」
「3日です」
……これ無理じゃね?
「ぎゃああああぁぁぁっ! そんなの絶対無理じゃない! 街のみんなを連れて逃げましょう!」
レナが顔を青ざめながら悲鳴をあげた。
気持ちは分かる。
俺もめちゃくちゃ逃げたい。
なんでこんな依頼受けちゃったんだろう? って思ったりもする。
だけど……。
「ちょっとレナさん、さすがにナナちゃんの前でそんなこと言うのは……」
「私もそれが最善だと思いますが、お父様を含め、街の人はみんな逃げようとはしません」
「ナナちゃん……」
ナナちゃんは何故逃げないのか、不思議に思っているようだった。
──アンドロイドは心を持たない。
ブルーノがそう言っていた。
合理的じゃない考え、感情論を含んだ決断をナナちゃんは疑問に思うのだ。
でも俺には逃げない理由が少し分かる。
「……みんな街が大切なんだな」
「大切?」
「きっとあの街は思い出が詰まった場所なんだよ。それこそ亡くなった人との思い出がね。そしてそれが街のみんなの誇りになっているんだ」
「誇りですか。しかし、それで死んでは元も子もありません」
「命があることだけが生きているってことじゃないさ。ナナちゃん、人間ってのはきっと最もめんどくさい生き物なんだよ」
「……よく分かりません」
「ってことは、そのことについて少し考えてみたってことだ。そうしていれば、いつか心ってのが何か分かるかもしれないな」
「それは厳しいでしょう。アンドロイドは心を持ちませんから」
「100%そうとは限らないだろう? 今だってアンドロイドってことは言われない限り人間っぽいよ」
「そうですか」
長いこと話してしまったな。
「説教くさいこと言ってたわね」
「でも良いこと言ってましたよ?」
「カッコよかった」
「ですよね。私もそう思います」
「そう? あれ絶対自分に酔ってたわよ」
「そんなことない」
「そうですよ! アレンさんは根っからの善人です!」
「あんたらどんだけアレンの味方なのよ!」
レナ、クラリス、シャルの三人が小声で喋ってるようだけど、内容が普通に聞こえてきた。
……めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。
これはもう、とっとと帰ろう。
「日が暮れそうだ! 今すぐ帰ろう!」
なんてことを言って、俺は会話をする暇を与えないようにみんなを走って帰らせた。