第69話 ナナちゃん
雪が降り積もる街フリエルド。
俺達は、防寒着を装備し、研究室の外へ出た。
しんしんと雪が降る街。
道路には雪が積もっていて、足跡が見える。
人通りは王都に比べると少ない。
煙突から煙が出ている家が多いのは、暖を取っているからだろう。
街は、静かで、白くて、綺麗だった。
俺は今日、初めて雪を見た。
「綺麗」
シャルが呟いた。
「うん。綺麗だよね。私、雪なんて初めて見た」
「こんな綺麗な街並みを見ると、少し憧れちゃいますよね」
「あー、そういうことはあまり言わない方がいい」
ブルーノが手を横に振りながら言った。
「え? どうしてですか?」
「ここの住民が憧れるような立場じゃないからさ。だから憧れの言葉は住民達に重くのしかかる。悪気が無かったとしてもね」
「そうだったのですか……ごめんなさい」
「アハハ、僕は大丈夫だから。好きなこの街を綺麗と言ってくれて嬉しいよ」
ブルーノにも色々と事情がありそうだ。
……頑張って氷竜を倒さないとな。
街の中を軽くブルーノに案内してもらったが、どうも他の人達から避けられているような気がした。
「……」
よそ者とかは受け入れにくい感じなのだろうか。
まぁ仕方ないかな?
あまり気にしないことにした。
◇
「ここからは私が皆様を案内します」
「よろしくお願いしますね! ナナちゃん!」
クラリスは雪も溶けるぐらいの満面の笑みをNo.7に向けた。
ウキウキとしている感じが見て取れる。
「……ナナちゃん?」
No.7は首を傾げた。
「はい! No.7なので、ナナちゃんです!」
「了解しました。登録しておきます」
「わー、機械的ですねー」
「機械ですから」
「なんなの、この会話……」
レナがやれやれ、といった感じで両手を水平に少し上げて首を横に振った
「ユニークでいいと思う」
「まぁ仲が良いようで何よりだ」
「そうですよ! ナナちゃん、仲良くしましょうねー」
「分かりました」
No.7は首を縦に振った。
No.7に案内されたのは、雪と氷が広がる森林だった。
ポケットから端末を取り出す。
これはブルーノが開発した魔物の居場所が分かる魔導具だ。
液晶には、この端末を中心に半径2km圏内にいる魔物の居場所が『●』で示されている。
「お、魔物がいるな」
表示されている『●』の数は2つ。
「戦闘の際は十分に気をつけてくださいとお父様が申しておりました」
「ああ、任せてくれ。安全に戦う方法はもう考えてある」
「さすがお父様に気に入られるだけはありますね」
「簡単な作戦だよ。誰でも思いつくさ。それより、No.7案内ありがとうな。一人で帰れるか?」
「その心配には及びません。お父様よりアレン様達のレベリングのサポートをするように指示されていますので」
「え、No.7まで手伝ってくれるのか?」
「はい。何なりとお申し付けください」
「嬉しい〜! ナナちゃん、一緒にレベリングができるね!」
「はい」
「クラリス、ナナちゃんのこと本当に好きだね」
「クラリスとナナちゃん、姉妹みたい」
……あれ、パーティでNo.7って言ってるの俺だけになってないか?
ピピピピピ!
「おわっ!?」
端末から高音が鳴り響いている。
すると、『●』が段々とこちらに近づいているのが分かった。
「魔物が接近してきている音です。戦闘態勢になってください」
「やっぱりそうだよな。まったく、便利な魔導具だ」
「アレンさん、作戦は前回のアイアンゴーレムのときと同じで良いんですよね?」
そう。
俺は考えていたのはアイアンゴーレム戦のときのような一撃必殺を中心とした戦い方だ。
この端末で魔物の居場所が分かるため、奇襲することも可能であれば、力を溜め終わったあとにおびき出すことも容易。
かなり相性が良いと考えている。
しかし、このような急に魔物が襲ってくる場面では、クラリスが壁を張り、力を溜めていることを隠す必要がある。
だが、その必要は無くなった。
「壁は作らなくて良い。俺たちにはナナちゃんがいるからな。三人で時間を稼ぐ」
ステータス10万は伊達じゃない。
俺とシャルとナナちゃんがいれば、確実に足止めが出来る。
「分かりました!」
「よーし、レナちゃん頑張っちゃいますよー!」
「グオアアアアアァァァァ」
「ひぃっ、やっぱり頑張れないかも……」
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種族:ベアー族
名前:アイスベアー
レベル:110
HP:100000
MP:19000
攻撃:100000
防御:40000
魔力:10000
敏捷:70000
《耐性》
【氷属性攻撃軽減】
《スキル》
【フローズファング:レベル6】
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アイスベアーは腕の部分に凍っているものが見えた。
それは鋭く尖った武器のようなものだ。
さすがB級、強いな。
「アレン様は足止めがしたいのですか?」
「え、ああ。そうだけど」
「分かりました。お任せください」
ナナちゃんはアイスベアーに向かって行き、取っ組み合いになった。
押し切ることは出来ないが、決して押し切られることはない。
「ナナちゃんカッコいいですね!」
「こら、クラリス集中しなさいよ!」
「……ごめんなさい」
その姿は、後ろで力を溜めている二人の集中を欠くほどだった。
少女のような見た目からは本当に想像できないほどの力がある。
それを改めて実感させられた。
そして、ナナちゃんは簡単に3分の時間稼ぎをしてみせた。
「ナナちゃん! そこをどいてください!」
「分かりました」
ナナちゃんは軽快なジャンプでアイスベアーから離れた。
「光魔法 《ライトニングストリーム》」
アイスベアーは、なす術なくクラリスの魔法で倒された。
これは……ナナちゃんのおかげで俺とシャルは暇になるかもしれない。