第65話 10階層のボス《アイアンゴーレム》
10階層のボスへと続く扉を開いた。
広い空間。
中央には大きな岩の塊のようなものがある。
手足があり、今にも動き出しそうな予感がする。
遮蔽物は何もなく、平らな地面であることを確認した俺はクラリスの方を見る。
するとクラリスは無言で頷いた。
俺たちが足を踏み入れると岩の塊は目を赤く光らせて、少しずつ動き出した。
【鑑定】
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種族:魔法機械生物
名前:アイアンゴーレム
レベル:100
HP:80000
MP:10000
攻撃:85000
防御:90000
魔力:30000
敏捷:40000
《耐性》
【物理攻撃半減】【状態異常無効】
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種族が魔法機械生物?
見たことのない種族だ。
スキルは無いが、耐性、そしてステータス値が優れている。
物理攻撃半減があるから物理攻撃に対する防御のステータス値は180000になる。
魔法攻撃を軸に考えるしか無さそうだ。
アイアンゴーレムはゆっくりとした動きで立ち上がろうとしている。
この遅い動作では、すぐに攻撃に移れないだろう。
これなら先手が取れそうだ。
「土魔法《地面隆起》」
クラリスが魔法を唱えると、地面から土がもりあがって、いくつかの壁ができた。
身を隠すには丁度いい。
ボスと対峙した際に遮蔽物が何も無かった場合、作ってくれるように頼んでおいたのだが、さすがだな。手際がいい。
俺たちも動くとしよう。
先手を取らせてもらう。
「水魔法《水塊牢獄》」
水魔法を唱えた。
アーマークラブが所持していたレベル4の水魔法だ。
アイアンゴーレムを水塊が囲い、それは牢獄と化す。
しかし、アイアンゴーレムにはあまり効果がないようだ。
だが問題ない。
下手な小細工は通用しないことが分かったからな。
これは勝ち筋を増やすための確認の一手だ。
姿勢を整え、剣柄に手をやる。
「シールドブレイク」
ソルジャーホースの覚えていた攻撃スキルだ。
相手の防御力を20%下げる効果がある。
アイアンゴーレムの鉄に覆われた外装を斬る。
──が、少し削れたぐらいに終わった。
鑑定でステータスを確認すると、防御力が 90000→72000に下がっていた。
それでもまだ高い防御力を誇っている。
物理攻撃じゃダメージを与えられるわけがない。
「魔剣創造」
シャルの魔剣は物理攻撃にとらわれない。
魔法と物理の中間的性質を持つため、アイアンゴーレムにダメージを与えることが出来る。
つまりシャルがいるだけで十分にアイアンゴーレムの討伐は可能。
しかし、確実ではない。
B級相手だ。
それだけの策で挑むのは得策じゃない。
シャルで足りない勝因を補うためのレナ、そしてクラリス。
だから、あくまで俺とシャルの攻撃は陽動でしかない。
ダメージを意識せずに安全に立ち回る。
「かたい。あまりダメージを与えられない」
シャルは冷静に呟いた。
やはり防御を下げてもアイアンゴーレムの鉄壁は健在というわけか。
「だけどダメージは与えられている。このまま攻撃を続けよう」
「うん」
そのとき、アイアンゴーレムの身体から湯気が噴出された。
ここからが本番みたいだ。
ググっと身体に反動をつけて、俺に攻撃を仕掛けてきた。
「──ッ」
アイアンゴーレムは高速で移動し、パンチを繰り出した。
攻撃体勢に入っていると分かったため、なんとか交わしたが、食らっていたらひとたまりも無かったな。
俺は後ろに下がってゴーレムから距離を取り、反撃する。
「闇魔法《暗黒の矢》」
闇魔法のレベル5。
闇を纏った矢を放つ。
アイアンゴーレムに突き刺さるも変化はない。
なにも効いてないように見える。
「本当に機械みたいだな」
だからこそ対策は容易だ。
生物でないアイアンゴーレムには自らの危険を察知できるほどの直感が働かない。
それゆえにクラリスとレナが後ろで着々と準備を進めていることを気づけないのだ。
「アレンさん! 準備完了です!」
「一撃で仕留めるよ!」
土の壁から、クラリスとレナは姿を現した。
クラリスの身体からは魔力が溢れ出ている。
そう、これこそがレナの力なのだ。
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魔法スキル【マジックチャージ】
効果:3分間味方単体に力を与えることにより、対象者の魔力を2倍にし、次に放つ魔法の威力を1.5倍にする。
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3分間無防備になる代わりに、その効果はとてつもないものだ。
ハイリスク・ハイリターンのスキル。
最初にクラリスが壁をいくつか作成してもらったのは、この時間を稼ぐため。
そして俺とシャルが攻撃を仕掛けたのも、此方に注意を引くためだ。
「クラリス! ぶっ放してやれ!」
「はい!」
クラリスの魔力が一点に集中する。
魔力の密度が高く、眩く光る。
「光魔法 《ライトニングストリーム》」
放たれた閃光の一撃。
アイアンゴーレムに直撃すると、爆発音が周囲に響き、砂埃が舞った。
砂埃に影は映らず、アイアンゴーレムは粉々になっていた。
よし、完全勝利だ。