第63話 トラップ見えるじゃん
5階層は今までの階層とは違って暗い場所だった。これじゃあ何があるのか、どんな環境なのか、何も分からない。
明かりが必要だ。
たいまつを使おうと、バッグに手を突っ込む。
お、あった。
取り出そうとしたそのとき、
「光魔法《灯光》」
クラリスが魔法を唱えた。
すると、ゆらゆらと揺らめきながら宙に浮かぶ光の玉が現れた。
「わー、これで周りが見えるじゃん!」
「綺麗」
レナとシャルが光の玉を見て思い思いの感想を述べた。
「これも【魔法創造】のスキルか?」
「んー、そうとも言えたり言えなかったりって感じです」
「なるほどな」
「うぅ……曖昧な解答ですみません……」
申し訳なさそうにクラリスが頭を下げた。
「気にするなよ。俺たちはもうパーティなんだ。あまり気を使いすぎてると疲れるぞ?」
「そうだよ。クラリスもアレンみたいな無神経さを身につけるべきだよ」
「えぇっと……」
クラリスは困惑したように苦笑いをした。
「む、無神経じゃないが……」
そう思いたい一心で俺は反論した。
「いやいや、どうかなぁ? 正直どう思いますよ皆さん」
「アレンは少しだけそういうところがある」
「ま、まじか……」
シャルからの衝撃の一言に俺は手と膝を地面につけ、頭を下げた。orz ←こんな感じのやつ。
「で、でもさっき私に気を遣いすぎない方がいい、と言ってくれましたよ」
「そう。アレンは中途半端なのよ。気が利く場面もあるけど、コイツ何も分かってないな、ってなる場面もあるの。いやータチが悪いよね」
そろそろ俺のライフがゼロになりそうだ。
まぁ残機は多いので次の俺が頑張ってくれるかもしれないが、今はこの話を切り上げることが先決。
レナのネガティブキャンペーン、略してネガキャンに負けてはならない。
「今回は石造りの迷路みたいになっていそうだな。ザ・ダンジョンって感じ」
宙に浮かぶ光の玉が光源となり、辺りを照らしているため、辺りがよく見えた。
石造りの壁に囲まれた暗い場所。
先が分かれ道となっており、迷路であることを彷彿とさせる。
「あ、露骨に話題を変えてきた」
レナが痛いところをついてきた。
何も触れられなければ、何事もなく話題が変わっていたというのに。
「そ、そろそろ探索を再開させないとまずいだろ?」
「はぁ、もう仕方ないなぁ〜。この辺で勘弁してあげるよ」
くっ、いつもと立場が逆転してしまった。
悔しい。
だが、それで良い。
「あ、そういえば5階層からはトラップが仕掛けられているんでしたよね?」
クラリスが言った。
「その通りだ。クラリスにはトラップの対策をしてもらいたい」
5階層からはダンジョンにトラップが仕掛けられている。
今まではこれが不安因子となっており、ダンジョンに行くのは避けていた。
だが今回はクラリスの【魔法創造】があるおかげでトラップの存在が分かるようになる、はず。
「分かりました。んー、そうですねぇ……では初めにトラップの可視化をしてみましょうか」
「そんなことが出来るのか。でもMPの消費が激しいんじゃないか?」
「ある程度控えめなものになっています。無効化にすると少し無視出来ない消費量になってしまいますが……」
本来ならば探索スキルに長けた者が感覚を研ぎ澄ませ、一つ一つトラップの存在を察知していく(実際には見たことないが)。
俺たちでも見えるようにしてくれる、というのはかなり便利だ。
見える罠に引っかかる馬鹿は、いないだろう。
「十分すぎるほど便利な魔法だ。ぜひ使ってくれ」
クラリスは分かりました、と言い、
「探索魔法《策略可視化》」
ぽわ〜ん、とした半透明な白色の光がクラリスから放たれ、階層全体に広がっていった。
すると、この前の道の右端に白く光る地面が1箇所現れた。
光っていると、暗い場所では目立って見えた。
「あれがトラップ?」
シャルが首を傾げた。
「そうですね。白く光っている部分がトラップだと思います」
「なるほど。これなら分かりやすくていいな。だが周りが明るいときは白色光だと分かりにくい時もありそうだ。色は変えたり出来るのか?」
「はい、出来ますよ」
クラリス、万能すぎる。
「クラリス、凄い」
シャルがパチパチと拍手をしながら、クラリスを褒めた。
クラリスは嬉しそうに頬を緩め、
「あ、ありがとうございます。お役に立てて嬉しいです!」
と言った。
さすがお嬢様、受け答えがバッチリだ。
育ちが良いな。
『なんか此処が光り出したッスね』
ゴブの声が聞こえてきた。
光り出した?
それ、もしかしてトラップなんじゃ……。
そう思い、道の先に目をやると、ゴブが興味津々に近づいていた。
『おい、俺たちの話をちゃんと聞いてろ! それはトラップだ!』
『トラップ? ──あがががががががっ!』
トラップを踏んだゴブの身体は突如として、小刻みに震え出した。
【意識共有】で苦しむゴブの声が聞こえてきた。
『だ、大丈夫か?』
『……痺れて動けないッス。……踏んだらビリビリとしたものが全身を駆け巡ったッス……』
『ゴ、ゴブウウゥゥ!』
ゴブは、そう告げるとガクリと頭を落とした。
なるほど、トラップを踏むと電気が流れるのか……。