第61話 ダンジョン、再び
今日はクラリスの卒業試験が行われる日。
その日の内に結果が出るという事で俺たちは、以前訪れた喫茶店でクラリスと待ち合わせすることになっている。
クラリスが卒業試験に合格すれば、冒険者として俺たちと共に活動を始める。
不合格のときは……あれ、聞いてないな。
もしかして、クラリスは合格する気満々で不合格だったときの事なんて一切考えてないのでは?
カランカラン。
軽快なドアベルの音が店内に響き渡った。
「皆さん、無事合格しましたよ!」
顔の横に卒業証書を添えたクラリスが満面の笑みを浮かべて現れた。
それは貴族のお嬢様の笑顔というよりは、冒険者のそれだった。
「いえーい! おめでとう!」
「クラリス、おめでとう」
拍手で迎えるレナとシャル。
「やったな、クラリス」
俺も続いてクラリスを祝った。
俺たちのお祝いムードに店内にいた他のお客さんも微笑んでいた。
小さく拍手をしてくれて、「おめでとう」と言ってくれた。
「す、すみません! すみません!」
クラリスは恥ずかしそうに顔を赤くして、何度も頭を下げていた。
「……ふぅ、やってしまいました」
落ち着くと、クラリスは席に座った。
「あんな笑顔で入ってこられたら……ねぇ?」
「あんな笑顔ってど、どういう笑顔でしょうか!? 私、変でしたかね!?」
「大丈夫。全然変じゃなかったぞ。寧ろ微笑ましいものだった」
「えっ! 微笑ましいものって一体何ですか!?」
クラリスは今までにないほど慌ただしい。
試験に合格してテンションが上がっているみたいだ。
「それはクラリスの笑顔が……あ、言っちゃったらかわいそうかな」
口元に手を当て、いたずらっ子のような笑みを浮かべるレナ。
間違いなくクラリスをからかっているな。
「そ、その辺りは、お気になさらずにっ。言ってくれないと私も治せません!」
何やら真剣に考えているクラリス。
俺もクラリスの立場だったら怖くなるだろうな。
こういうときって中々客観的に見れないし、何より可能性が低くても自分が変だと思ってしまったら気になってしまうものだ。
「あはは冗談だよクラリス。全然変じゃなかったよ」
「……本当ですか?」
「嘘」
「ええええっ!」
「おいコラ」
レナの頭に軽くチョップした。
「いたっ! ……くないね」
「クラリス、全部レナがふざけているだけだ。安心しろ」
「あ、ですよね」
クラリスはホッと胸を撫で下ろした。
やっぱりある程度は分かっているみたいだった。
「いやー、クラリスちゃんはからかい甲斐があるものでして」
「ひ、ひどいです!」
「あはは、ごめんごめん」
「大丈夫。普段はレナがこんな感じ」
シャルはクラリスを慰めるように優しく微笑んだ。
普段はこんな感じって言うのも中々かわいそうじゃないですかね。
「ありがとうございますシャルさん。レナさんも結構苦労しているのですね」
どこか納得した様子でクラリスは言った。
「結局また私がかわいそうな感じになってるし!」
ごもっともです。
「それはさておき、みんなパーティ名考えてきたか?」
「さておくな!」
「私は良いパーティ名を思いつかなかった」
シャルは何も思いつかなかったようだ。
「結局こうなるのね」
「様式美だよな」
我ながら結構ひどいこと言ってるな。
「ハァ、まいっちゃうわ」
「レナは何か考えてきたのか?」
「んー色々と考えたんだけどね。どれもパッとしないなぁ」
「そうか。なら誰も考えてないことになるな」
「アレンはちゃんと考えて来なよ!」
「返す言葉がございません」
「あのー、まだ4人で何も活動していませんし、もう少し後でも遅くないのでは?」
クラリスが手を小さくあげて発言した。
「そうだな。確かにその通りだ」
「あの……それなら私、ダンジョンに行ってみたいです」
ダンジョンか。
トラップが問題で先に進めなくて、断念していたな。
「クラリスなら知ってると思うのだが、ダンジョンにはトラップがあってだな。探索スキルが無い俺たちには――」
ここまで言って俺は、ハッと気付いた。
「そうか! クラリスなら探索魔法を使うことが出来るのか!」
クラリスのスキルの一つに【魔法創造】があると父親のルドルフさんは言っていたな。
だったら、クラリスが探索魔法を創造すればダンジョンに行けるじゃないか。
「ふふふ、そういうことです」
クラリスは少し得意げに言った。
というわけで明日からダンジョン探索始まります。