第59話 褒美は不要
「さて、君たちを今日呼んだのは他でもない。クラリスを無事助けてくれたお礼がしたくてね」
「お礼、ですか」
「僕はね、感謝は言葉でなく態度で示すものだと思っている。出来る限りの望みは叶えよう。それに見合うだけの事を君たちはしてくれたのだからね」
望みか。
クラリスが言っていたお礼がしたいとはこの事か。
ルドルフの態度を見るに褒美はかなり期待出来るだろう。
しかし、ここで褒美を受け取ってしまえばクラリスを助けた理由が褒美のためになってしまう。
そんなの友達って言えるのか?
見返りを求めるのが果たして友達なのか?
違うだろ。
相手が貴族だからこそ、クラリスとこれからも友達でいたいからこそ、俺はここでノーと言わなきゃいけない。
「何も要りません」
俺がそう言うと、レナは一度をこちらを向いて戻ると、またこちらを見た。
コイツ、なに二度見しているんだ。
「なんでそんなこと言うの!?」
と、レナから目線で訴えられているような気がした。
シャルは何も動じておらず、ジッと前を向いていた。
「多額の報酬、冒険者としてある程度の地位、貴重な装備、僕が叶えてあげられる望みの範囲は自分で言うのもなんだが広いよ。本当に何も要らないのかい?」
「先程も言いましたけど、困っている友達を助けるのは当たり前の事です。助けたことで見返りを求めるような関係を俺は友達だとは思いません。だから何も要りません」
レナが呆れた顔をし、その後に微笑んだ。
納得してくれたみたいだ。
惜しいことをしているのは理解している。
だけど、俺はそんな見返りの為に何かをするような関係にはなりたくない。
……やはり俺はどこまでも甘いのかもしれない。
だが、この甘さは捨てるべきじゃないだろうなとも思う。
「クラリスは良い友達を持ったな。分かった、ならこうしよう。我がブラッドベリー家はアレン君、君達パーティの後ろ盾となろう」
一瞬、時が止まったような錯覚を覚えた。
そして、時は動き出す。
「「ええええええええええええ!?」」
驚いて俺とレナは大きな声を出していた。
またシンクロしてしまったことが恥ずかしい。
シャルも結構驚いたみたいで口をポカーンと開けている。
「お、お父様!? そんな事を言ってしまって大丈夫なのですか?」
「うん、平気だよ。なにせクラリスの大切な友達だからね。少し援助してあげるぐらい罰は当たらないさ」
「そうですね。確かに大丈夫な気がします」
なんか凄いあっさりしてる……。
「困ったときはお互い様ってわけさ。もし君達の身に何かあったら僕が助けよう。それで構わないね?」
「……分かりました。そのときはよろしくお願いします」
これには折れるしかないみたいだ。
……まぁ貴族の後ろ盾があるのは願ってもない事なのだが。
「次にクラリスの秘密を君達に教えよう。構わないね? クラリス」
「はい」
真剣な面持ちで頷くクラリス。
話がテンポよく進んでいく。
それにしてもなぜ俺たちにクラリスの秘密を打ち明けるのだろうか。
信用に足る人物だと判断してくれたとか?
いや、クラリスの友達とは言えどすぐに信用できるか?
……うーん、分からない。
「クラリスはね、とてつもない才能の持ち主なんだ」
ルドルフは淡々と話し出した。
「それはスキルとか職業とかって事ですか?」
「うん。詳細は話せないが、例として一つスキルを挙げるなら【魔法創造】はとんでもないね。これさえあれば、どんな大魔法だって再現出来る」
これは……とんでもない秘密を明かされたものだ。
真偽を確かめるためクラリスに【鑑定】を使用する。
《ステータスの閲覧不可》
案の定と言うべきか見ることが出来なかった。
しかも今までと違って、見えない理由が無い。
ルドルフの言っていることが本当なら、何があろうとステータスを閲覧させない魔法がかかっているのかもしれない。
「職業は大賢者。魔法職の中でも最強格と言っていいほどの職業だ」
「それならクラリス一人でも誘拐犯から逃げ出せたのでは?」
「あのときは急に襲われたもので反応出来なく、縛られた縄も魔力を通さない特殊な加工がされており、どうしようもありませんでした……」
その口振りからクラリスは結構な実力者であることが伺えた。
なるほど。
これで色々と納得できた。
元護衛の人が無能なのはクラリスに護衛が必要ないからだ。
そして、学園で友達が居ないというのも優秀すぎるからであろう。
貴族は優秀で家柄も良いクラリスに擦り寄ってくるはずだが、クラリスの性格上そういう輩は嫌っていそうだ。
だから図書館で見ず知らずの俺に声をかけた。
もしくは、優秀すぎるクラリスに周りが嫉妬していたり、畏れ多くてまともな返事が出来ないとか。
まぁそんなところだろう。
あくまで推察に過ぎないが。
「先日の誘拐は、大賢者のクラリスが目当てで行われたものなのですか?」
「いや違う。これは信頼できる人物しか知らない情報だ。先日の誘拐はブラッドベリー家の三女だからこそ狙われたものだと思う。身代金目当てだろうね」
「なるほど……」
「ここからが本題だ。ここまでの話を聞いた上でアレン君に頼みたいことがある」
改めて話を切り出すルドルフ。
その言葉からは重みが感じられた。
「クラリス、ここからは君が話しなさい」
「……はい」
神妙な面持ちでクラリスは静かに立ち上がった。
クラリスは口を何度か小さく開けて、閉じての繰り返しを行ったあとに深呼吸をした。
「ふぅー……。アレンさん、シャルさん、レナさん、私をパーティに入れてください!」