第57話 無能な元護衛
「なんでクビになってるの!?」
「お父様が決めた事ですので……」
クラリスは申し訳なさそうに顔を伏せた。
もしかすると、本意ではないのかもしれない。
「いえ、私が悪いのです。クラリス様は日頃から護衛を傍に置くのを嫌がっていました。そのため私は離れたところでクラリス様をお守りするはずだったのですが、なにぶん集中力が維持出来なくてですね……。つい、目を離してしまったのですよ。その間にクラリス様は消えていて私は焦りました。そんなときアレン様が周りを見渡しているのが不審に見え、咄嗟に攻撃してしまいましてね」
えーと、なんていうか。
「無能だな」
そう、それ。
俺が思ったことをガッドはストレートに言った。
「グサッ!」
元護衛は精神に大きなダメージを負ったみたいだ。
自分でグサッって言っちゃってるし。
ノリいいな。
……じゃなくて、本当に反省してんのか?
「それで元護衛さんは俺に謝りに来ただけですか? それならもう全然気にしてませんので」
「いえ、それだけではありません……」
頭をあげずに土下座したままでいる元護衛。
「他に何か用でもあるんですか?」
「はい──宜しければアレン様のパーティに入らせて頂きたいのであります!」
「ダメです」
間髪入れずに俺は答えた。
「ええ!?」
頭をあげ、ビックリするほど目を見開く元護衛。
「そりゃダメですよ」
俺も元々無能と言われてたから元護衛とは不思議と親近感がある。
しかし、この人の話を聞いていた限りなんていうか……ただ注意力が散漫でやる気を感じられなかった。
申し訳ないが、パーティに入れても百害あって一利なし、と判断した。
「お願いします! 私を働かせてください! クビになって働き先がありません!」
「いやいや、元護衛さん結構強かったし、それにクビになったとはいえ、護衛になれるぐらいの実力はあるんですよね?」
「それがですね……護衛になるためには学校を卒業する必要があるのですよ。つまり私は護衛になるため今までを捧げていた身。クビになり、信用がガタ落ちになった今、働き先が無いのです!!」
「凄い残念な奴だな」
話を聞いていたガッドは腕を組みながらそう言った。
うん、俺もそう思う。
言いたいことをバッサリと言ってくれるガッドがこの場にいてよかった。
胸のモヤが晴れる気分だよ。
「そうです! 私は残念な奴なのです! ですから──」
「キット、見苦しいですよ。お辞めなさい」
「ク、クラリス様……」
キットというのは元護衛の名前か。
「当初は謝るだけの予定だったはずですよ。勝手にパーティに入れて欲しいなどとよく言えたものですね。恥を知りなさい」
「も、申し訳ございません……」
クラリスの口調が普段より厳しいように感じた。
えっ……この元護衛のキットさんは少し頭がおかしい人なのでは?
絶対パーティに入れない方がいいな……。
「アレンさん、助けて頂いたのにこの様な真似をしてしまい申し訳ございません」
「大丈夫だけど、そのキットさんはパーティに入れられないかな」
「はい。勿論です」
キットは力なくうな垂れた。
落ち込んでいるみたいだが、この人本当に謝罪するつもりがあったのだろうか。
「キット、あなたはもう去りなさい。これ以上いてもアレンさんを不快な気分にさせるだけです」
「……はい。申し訳ございません」
そしてキットはトボトボと去っていった。
「アレンさんとガッドさん、不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」
「大丈夫。全然不快になんてなってないよ」
「そうだな。しかし、謝罪のあとすぐにあんな事を言って来られたら誠意は感じられないな」
ガッド、お前さっきから正しいことばっか言ってるな。
少し尊敬することにした。
「そうですね。その通りだと思います。やはりお父様の判断に間違いは無かったのですね」
「ああ、あれはクビにして正解だぜ。俺が言うのも何だが」
「ガッド、そこまで言うのは可哀想だぞ……。まぁ実際俺もそう思うけど」
「あまり悪く言わないであげてください。私にも悪いところがありますので……。これからはもっと身の振る舞い方を考えようと思います」
確かに狙われる立場にあるにも関わらず、護衛をそばに置きたくないというのは良くないな。
しかし、反省しているみたいなので言わないでも良さそうだ。
「……あの、アレンさん」
クラリスは顔を紅潮させ、伏し目がちになる。
なにか様子がおかしい。
「どうした?」
「お、お礼がしたいので私の屋敷に来て頂けませんか!」
先程より少しボリュームの大きな声を出しており、恥ずかしそうだった。
や、屋敷……。
スケールの違いに驚きを隠せないが、要は自分の家だよな?
家に呼ぶだけでそこまで恥ずかしがるだろうか。
「別にそこまで気を遣わなくてもいいけど、まぁせっかくだし行かせてもらおうかな」
「ほ、本当ですか!?」
パアッと笑顔になるクラリス。
「あぁ、本当だよ」
「では明日、お出迎えにあがりますね。それでは失礼します」
軽くお辞儀をして、クラリスは去って行った。
「何だったんだ……あれは」
さっきのクラリスは何か様子がおかしかった。
やっぱり何か体調が悪いのだろうか。
「おい、アレン。もしかするとクラリスさんお前に惚れてるかもしれねーぞ?」
「いやいやいや、そんなわけないだろ」
「ハァ〜、お前は女心ってものが分かってないな」
ガッドは大きなため息をついた。
「お前も分かってないだろ」と言いたかったが、ガッドは何故かモテてそうな気がして言うのを止めておいた。
「ま、そろそろ帰るわ。元気そうで良かったぜ」
「ああ、結構長く居たもんな。気をつけて帰れよ」
「おう。今度また道場に顔見せろよ」
「分かったよ。じゃあな」
ガッドは手を振り、去って行った。
それにしてもガッドが言っていた事が気になるな。
クラリスが俺に惚れてる?
……まさかな。
少し考えてみたけど、ありえないだろうと結論付けた。