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第56話 訪問者たち

 さて、俺は2日も眠っていたわけだ。

 つまり武術祭の予選はもう終わってしまった。

 それに出られなかった俺は、もちろん棄権になった。

 勝ち上がれたらラッキーぐらいの感じで臨むつもりだったこともあり、後悔はしていない。

 結局はただの力試しだ。

 今日からでも次の目標に向けて、行動を開始したいところだが、そうはいかないみたいだ。

 レナが言うには、あと1日安静にしておいた方がいい、とのことなので宿屋のベッドで横になっていた。

 昼になると、シャルやレナは外に出かけに行ったので、現在部屋にいるのは俺一人。

 少し退屈だ。


 コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。

 誰だろう。

 シャル、レナはついさっき出かけたばかりだから違うだろうし……。

 宿屋のおかみさんとかかな? しかし、今まで一度もこんなことないしなぁ。

 ……もしかして、なんか悪いことでもしちゃったか?


「どうぞ」


 居留守を使おうかと思ったが辞めておいた。

 わ、悪いことしてないはずだし……。


「おっす、アレン。見舞いに来たぜ」


 やってきたのはガッドだった。

 なんだ、おかみさんじゃないのか。

 ホッ、と一息つく。


「わざわざすまないな」

「いいって、いいって。ただ話にきただけだよ」

「それはありがたいな。今、シャルとレナは出掛けていて、退屈していたんだ」

「道場に来てたから知ってるよ。アレンが目を覚ましたって、さっき教えてもらって来たわけよ」

「そういうことか。ところで武術祭の予選はどうだったんだ?」


 部屋にある椅子にガッドは座った。

 立ったままで話すのも疲れるだろうからな、


「余裕で通過したぜ。3分間、50人で乱闘を行って、残ったやつが予選通過っていうルールだったな。観客も結構多くて盛り上がってたぞ」

「おー、やったな。おめでとう」

「サンキュー、それと残念だったな。あれだけ特訓してたのに」


 ガッドは申し訳なさそうな顔をした。

 こいつは気遣いが出来る良い奴なんだろうな。

 だから、自分だけ喜んでいることが出来ない。

 気にしてないってことをちゃんと伝えてやらなきゃな。


「残念じゃないと言えばウソになるけど、結果を残すことに固執はしてなかったから後悔はしてないな」

「そうだったのか。……てっきりガチガチに狙ってるのかと」

「ないな。ただの力試しだ」

「俺が言うのもなんだけどさ、アレンは結構強い部類に入ると思うぞ」

「そんなことは無いと思うが……」


 確かにステータスは上がってきて、弱くはないと思うようにはなったが、強いなんて一向に思えない。

 俺よりステータスが低いシャルの方が強いわけだし。

 ステータス以外の才能や技術っていうのは強さに大きく影響するだろうな。


「ま、少しは自信持てよ。誘拐された女の子を助けたんだろ?」

「いや……シャル達が来てくれなかったら俺は死んでいたかもしれないんだ。実力が不足している証拠だ」

「んー、考えすぎなんじゃねーかな。もっと気楽にいこうぜ」


 考えすぎなのかな。

 自分だとそう思ったことは一度も無かったが、第三者からそう見えるのならもしかするとそうなのかもしれない。


「気楽に、か……。そうだな。あんまり考えすぎても気が滅入るだけだよな」

「そうそう。適当でいいんだよ」

「ガッドは少し適当すぎるところがあるけどな」

「おい!」

「ハハハ、半分冗談だよ」

「もう半分はなんだよ」

「ただの本音だよ」

「てめぇ……覚えてろよ」

「こええよ」


 ガッドは良い友人だ。

 ここまで気楽に話せる友人が出来たのは初めてかもしれない。


 コンコン。

 また扉を叩く音が聞こえた。

 今日は来客が多いな。


「どうぞ」


 扉が開いた先に居たのはクラリスだった。

 そして、もう一人。

 あれはクラリスが誘拐されたときに襲ってきた護衛っぽい人だ。

 俺はてっきり彼も誘拐に加担しているのかと思っていたのだが……。


「こんにちは、アレンさん。お身体の調子はいかがですか?」

「ああ、もうすっかり元気だよ。クラリスの方こそ大丈夫か?」

「アレンさんに早く助けて頂いたので、元気そのものです」


 クラリスはニコニコとした顔で話していた。

 うん、元気そうでよかった。


「おい、アレン。あの子がお前の助けた子か?」


 ガッドは俺の耳の前に手を置いて、小さな声で話しかけてきた。

 俺もそれに倣い、返事をする。


「そうだけど、どうかしたか?」

「……お前の周り可愛い子多すぎだろ。可愛いから助けたとかじゃないだろうな?」


 ガッドは、とんでもない事を言ってきた。


「バカ、そんなわけないだろ! それを言うならお前のとこの門下生に可愛い子が何人もいるだろ」

「門下生は別だろ」

「でもお前、スズナとか仲いいじゃん」

「あれは幼馴染だからな」

「どうかしましたか?」


 コソコソと話していると、クラリスは不思議そうな顔をして話しかけてきた。


「いや、アレンに状況を聞いてたんすよ! クラリスさんでしたっけ? 俺、アレンの友達のガッドって言います」


 直立し、背筋を伸ばしながらガッドはハキハキと話した。


「ご丁寧にありがとうございます。クラリスです」


 クラリスは、両手でスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げた。

 気品の良さが溢れ出ていた。


「えーっと、それとそちらの方は?」


 クラリスの後ろに立っている護衛っぽい人が何も話さないので、俺は話を振ることにした。


「この方はですね──」

「アレン様、申し訳ございませんでした!」


 クラリスを遮って、護衛っぽい人は土下座をした。

 やばい、めちゃくちゃ綺麗な土下座だ。


「お!? どうした!」


 いきなり土下座しだしたのを見て、ガッドは驚きを隠せていなかった。

 まぁ誰だってそうなるだろうけど。


「あの、顔をあげてください。別に気にしてないですから」


 一応、事情はそれなりに察せたので、顔を上げるように言ってみる。


「いえ! それでは私の気が済みません! 本当に申し訳ございません!」

「済んでください。クラリスの護衛の方ですよね? それなら、ああなっても仕方ないですから!」

「あ、違いますよ」


 クラリスは彼が護衛であることを否定した。

 え、違うの?

 じゃあこの人は一体……。


「彼はクビになりました」


 えぇ……。

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