第55話 ひとまず解決
不遇職テイマー1巻は8月30日に発売です!
もう予約とか出来るみたいなので、何卒よろしくお願いします!
……頭がクラクラする。
外傷は無いが、物凄い神経を擦り減らされた。
疲労感がとてつもない。
しかし、まだやらなければいけないことがある。
疲れて倒れ込んでしまった体を起こし、クラリスのもとへ向かう。
「……クラリス、大丈夫か?」
声を掛けると、クラリスは安心したのか目に涙を浮かべた。
怖かっただろうな……。
「今ほどいてやるからな」
縄をほどくと、クラリスは抱きついてきた。
「うっ、うぅ……ひっ……」
俺の胸に顔を埋めて、泣いている。
平常時の俺ならキョドっていただろう。
しかし、今は疲れてそんな元気が無いため冷静でいられた。
「もう大丈夫だ」
「……アレンさん、わたし……ほんとに怖かった……」
「ああ、敵は全員倒した。もう怖がらなくていいんだ」
「……はい」
クラリスは少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。
強い子だ。
一生のトラウマになってもおかしくないレベルの経験をしたというのに。
「──ククク、なに勝った気でいるのかねぇ」
声を聞いたとき、自分の耳を疑った。
振り返るとミザリエルが血まみれになりながらも立っていた。
「お前……もう戦える状態じゃないだろ」
実は俺もだった。
安心した途端に疲れが押し寄せてきて、もう戦う体力は残っていない。
「それはどうかなぁ。僕って結構タフだったりするんだよねぇ」
「そうか。なら相手してやるよ」
俺はクラリスに
「もう少し待っててくれ」
と言い、立ち上がる。
ああ、こんな事なら完全に息の根を止めてやるべきだったかもしれない。
甘い考えは捨てるべきなのだろうか。
人を殺したくないと考えるのは我儘なのかもしれない。
「そうこなくっちゃ──あがッ!!」
ミザリエルがぶっ飛んでいった。
倉庫の壁に激突し、完全に意識を失ったみたいだ。
「アレン、大丈夫?」
足を蹴り上げた姿勢のままシャルは話した。
ミザリエルをぶっ飛ばしたのは、どうやらシャルみたいだ。
「な、なんでシャルがここにいるんだ?」
「あの後、宿屋に戻ろうとしたけどアレンの表情を見て、何かが起こりそうな予感がした。だから私はアレンを追うことにした」
表情に出てたか……。
まぁ確かに出ていたかもしれない。
隠すなら隠し通さなきゃダメだな。
「私もいるからね」
シャルの後ろからレナが手を振る。
「お前もか。でも……助かった……」
あれ……。
視界が暗くなっていく。
まるで身体が眠ってしまうみたいだ。
俺は地面に倒れ込んだ。
起きようと思っても起き上がれない。
段々と意識が遠のいていく。
「アレンさん!」
「「アレン!」」
3人が俺の名前を呼ぶが、なにも応えれそうにない。
ただただ眠かった。
◆
頭が重い……。
クラクラする……。
それに若干吐き気もある。
これは二日酔いの症状か?
いや……でも俺酒飲むのとかあんまり好きじゃないし、違うよな。
寝る前に何していたか思い出せねぇ。
よし、とりあえず起きるか。
「アレン……よかった……」
起きると、いきなり涙目のシャルから抱きつかれた。
「ちょ、いきなりどうした!?」
どういうことだ? なんで俺シャルに抱きつかれてるの?
てか、なんか前にもこんなことあった気が……。
クラリスだったような……って、そうだ。思い出した。
俺、意識失っていた。
そりゃ、シャルも心配するわけだ。
「もうアレンが起きないんじゃないかと思った……」
泣いているシャルを見るのは初めてかもしれない。
可愛い。
……じゃなくて! ここは何か声をかけてあげるべきだろう。
「大丈夫。俺はあんなもんじゃ死なないよ」
「2日も目を覚まさないから凄く不安だった」
「へぇ──って2日!?」
……結構寝ていたんだな。
確かに連戦で疲れたけど、そこまで寝るような疲れだったかな。
初めて人を斬って、精神的にダメージを受けたのか?
いや、そうでもない……気がするけど、どうなんだろう。
気にしてないだけで実際はめちゃくちゃ気にしていたとか、そういうパターンかもしれない。
「アレン、もう少し遅かったら死ぬところだった」
……ん?
もう少しで死ぬところだった?
「一体どういうことだ?」
「気付いてないかもしれないけど、アレンは脚に掠り傷があった。そこから猛毒が体内に侵入していたみたい。レナが言ってた」
掠り傷……。ミザリエルのナイフか。
なるほど、ナイフに猛毒が塗られていたってわけだ。
「えーと、じゃあつまりレナが治してくれたってこと?」
「そう、あの場でレナが治してくれた。だけど、あの場で治せなかったら命に関わっていたかもしれない」
「えっ、じゃあシャルとレナが来てくれなかったら……」
「アレンは死んでた」
おいおい……俺めちゃくちゃ命拾いしてるじゃん。
「ハハハ……、今度から一人で無理しないことにします……」
「そうして欲しい」
「はい」
シャルに頭が上がらなかった。
これに関しては完全に俺が悪い。
シャル達に危険な目に合わせたくないから俺は一人で問題を背負い込んだ。
だけど、結果的にはシャル達も俺の後を追ってきている。
それじゃあ意味がない。
余計に危険な目に合う可能性だってあった。
ちゃんと反省しよう。
「それで、クラリスを誘拐した奴らはどうなったんだ?」
「騎士団に連行された。お手柄だって騎士の人達が言ってた。後日、少ないけど報奨金がもらえるらしい」
「……じゃあクラリスも無事なんだな」
「うん」
「それならよかった。……ところでシャルはいつまで抱きついているつもりだ?」
「嫌だった?」
「嫌じゃないけど……」
こういう平常時だとかなり意識しちゃうから辞めてもらいたい。
しかも……なんか興奮しちゃうし。
これ絶対に【精力絶倫】のせいだろ……。
面倒なスキルを吸収してしまったもんだ。
その後シャルに離れてもらい、俺は鋼の意思で自らの興奮を鎮めた。