第50話 憩いのひととき
第7回ネット小説大賞に受賞しました!
【書籍化決定!】
コーヒーと紅茶がテーブルの上に並べられる。
それぞれ器が違っていて、いわゆるコーヒーカップってやつと、ティーカップってやつだろう。
なんだかお洒落な感じがする。
そういう感じがするだけで、別にこれが良いとかまでは思わなかった。
カップに注がれているコーヒーからは、今まで嗅いだことのない独特な香りがした。
店の匂いとマッチしていて、飲んだことないけど凄く美味しそうに思えた。
実際のところ店の雰囲気がお洒落……とかよりコーヒーの味の方に興味があった。
「シャル、これお洒落だと思うか?」
「分からない。あまりそういう事は気にしない」
「俺も同意見だな。貧乏人にはよく分からない世界だ」
まぁ最近は収入も増えてきているので、貧乏では無くなって来ているのだけども。
「私は結構良いと思うけど、アレンやシャルと一緒でそこまで気にしないよね。やっぱり、慣れ親しんでないからかな?」
アハハと笑いながらレナは言った。
さすが貧乏仲間のレナだ。
気が合うじゃないか。
「そこまで気にする事ないと思いますよ」
そう言った後に、口に手を当て、上品に笑うクラリス。
貴族のみの学園に通っているだけあって、笑い方がレナとは違って優雅だった。
「そういう事らしいぞレナ。貧乏人にも優しい世界らしい」
「うん、良かった――って、貧乏人と言ったのはアレンでしょ」
「よし、冷めないうちにコーヒーを飲もうか」
「こらー!無視するなー!」
道場に通い始めてから思ったことがある。
レナはイジると面白い。
どちらにしろ冷めないうちにコーヒーを飲んでみたかったので、カップの取っ手を掴み口に運ぶ。
コーヒーの香りが鼻孔をくすぐった。
カップを傾けて、コーヒーを一口飲んでみる。
「あっつ!」
想像していたよりコーヒーが熱くて、口に少量しか入れず、すぐに飲み込んだ。
「大丈夫?」
シャルが心配そうな顔をして、こちらを向いた。
「あぁ、大丈夫。思ってたより熱かったんだ」
「そう……なら良かった」
安心したのか、シャルは頰を緩めた。
可愛い。
いや、こういう事をあまり考えるのはやめておこう。
シャルに悪い気がする。
そう思い、俺は逃げるようにコーヒーを飲もうと試みるが、やはり熱くて途中で断念する。
それでも先程よりは味が分かった。
ちょっと苦い気がした。
まぁ特に舌が肥えてる訳でもない俺が味について語ったところで何の意味もないだろう。
「これそんなに熱いかな?普通に飲めるし、美味しいよ」
平気そうな顔でレナは紅茶を飲んでいる。
「うーん、きっとアレンさんは猫舌なんでしょうね。冷めるのを待った方がいいと思います」
「そ、そうだったのか……俺って猫舌だったのか……」
コーヒーを飲んだ舌がヒリヒリする。
どう考えても残念ながら俺は猫舌のようだ。
「プププ。落ち込んでるー。最近、私の扱いが酷いから罰があたったんだよー」
レナが反撃と言わんばかりに馬鹿にしてきた。
人差し指を俺に向けて、笑っている。
「へいへい」
あるかは分からないけど【熱耐性】みたいな耐性スキルがあったら、手に入れておきたいところだ。
きっと、手に入ったら猫舌が治るはず……たぶん。
「……苦い」
隣でコーヒーを飲んだシャルが眉間にしわを寄せて、いかにも苦そうな顔をしていた。
そういえば、最近シャルの表情が段々と豊かになってきた気がする。
口数はあまり変わらないけど。
「ちょっとシャル。何その顔ー!可愛いんだけど!」
レナがそう言って、立ち上がった。
何で立ち上がったんだお前は。
「ふふふ。シャルさんはコーヒーが苦手のようですね」
「……苦手かもしれない」
「それならコーヒーの代わりに私の紅茶を飲んでみますか?」
「分かった。そうさせてもらう」
「ではどうぞ」
クラリスから渡されたティーカップを受け取り、シャルは紅茶を飲んだ。
「……美味しい」
ハッとしたような顔をして、一言感想を述べた。
「良かったです。では、コーヒーは私が頂きますね」
「うん、ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
そして、しばらく他愛もない雑談をしていると飲み物が無くなった。
第7回ネット小説大賞に受賞しました!
なので、この作品は双葉社様より書籍化します!
皆さまの応援のおかげで念願の書籍化を達成する事が出来ました!
本当にありがとうございます!
初めての書籍化ということで、分からない事だらけですが、面白いと思える作品に出来るように精一杯頑張りますので、応援よろしくお願いします!