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第4話 テイマーは自問自答する

「何だったんだ……あいつら」


 男を引きずりながら逃げていく二人を見ながら呟く。

 こんな朝っぱらから人の家に押しかけるなど、どうかしている。俺をサンドバックにでもして仕事の憂さ晴らしでもしようという魂胆だったのか?

 ――それにしても。


(坑夫として働いているときは、こうも簡単に撃退出来なかっただろうな……)


 と思い、初めて人を殴った自分の右拳を見つめる。

 ……確実に俺は強くなっているんだ。

 そう、実感出来て少し嬉しくなった。



 ◇



 今日もギルドで粗悪な剣をレンタルし、ゴブリンの森にやってきた。

 今日はゴブを使った作戦は抜きで行こうと思う。

 理由は二つ。


 1つ目は、ゴブリンのステータスに対して俺のステータスは約10倍。言ってしまえば、格下相手なのだ。森の中を走り回って、ゴブリンを見つけ次第討伐していった方が効率がいい。


 2つ目は、実戦経験を積むためだ。

 俺の実戦経験など今のところゼロに等しい。ゴブを倒した時だって隙を見つけて一撃で仕留めただけだし、その後もゴブにゴブリンを誘導させて一撃で仕留めていった。

 俺はズル賢くモンスターを倒してきただけで、真剣に戦ったことなど一度もないのだ。


「よし、今日も頑張るぞ」


 両手で顔をパチパチ、と軽く叩いてやる気を出す。

 気合いを入れたい時とかやる気を出したい時によくやってる行為で、俺のルーティン……になるのかな。

 レンタルしてきた粗悪な剣を鞘から抜き出し、俺は森の中に足を踏み入れていく。


(……走るか)


 走りながらゴブリンを探すことにした。

 そろそろここら辺の魔物を吸収するより、違う街に行って、強い魔物を吸収した方がいいな、と思っていた頃だ。

 今日と明日でゴブリンを狩って、少し経験を積んだら別の街に行く。

 だから、なるべくたくさんのゴブリンを倒したい。


 ――身体強化。


 《強化スキル》の【身体強化:レベル1】を使用してステータスをあげる。レベル1では、ステータスが1.1倍になるようだ。

 ……うん、確かにステータスは上昇したようだ。吸収でステータスが劇的に上がりまくってる俺は、何となくだがステータスの変化を感じ取れるようになっていた。


 森の中を走っていると、ゴブリンを見つけた。

 ゴブリンは、足音に気づき俺の存在を認識すると、戦闘態勢に入った。


 初の戦闘だ。

 剣を握る手に自然と力が入る。

 ゴクリと生唾を飲み込み、覚悟を決める。



(ステータスは10倍以上差があるんだ……負けるはずがない!)



 走っている勢いを剣に乗せて、ゴブリンに斬撃を叩き込む。

 それをゴブリンは辛うじて自身の剣で防ぐ。


 ガキィン。


 俺の剣はゴブリンの剣を叩き落とした。


 ――もう一回!


 腰を右にひねり、右肘を曲げてから腕を引いて、手に持った剣をゴブリンに――突き刺す。


「グガアアアアアアア」



 ゴブリンは叫び声を森に響かせながら、粒子となって消えていった。

 よし、いい感じだ。


 《ゴブリンが仲間になりたいようです。仲間にしますか?》


 昨日に続き、今日も一発目からゴブリンを仲間に出来た。

 もちろん仲間にする。


 《ゴブリンが仲間になりました》



『いやー、主人(あるじ)つええなぁー。あのハーフエルフの女の子を助けに来たんか?』


 仲間になったゴブリンは、不可解な事を言い出した。


『ハーフエルフの女の子?』

『知らなかったんか。さっきな、他のゴブリン達がハーフエルフの女の子を捕まえて、住処に連れてきたんや』

『へー……』


 ハーフエルフの女の子……か。

 そういえばゴブは言ってたな――。


『たまにやって来る冒険者が女冒険者なら住処に連れて帰って、皆んなで輪姦(まわ)してるッス』


 ……その子も犯されるのだろうか。


『なぁ、その子って犯されるのかな』

『そうやろなぁ。住処に連れ帰って、犯さん理由がないわな』

『だよな。住処ってゴブリンの数は多いのか?』

『多いで。やっぱ主人は助けに行くんか?』

『いや――』


 ステータスの差があるとは言え、多勢のゴブリンを相手は流石に危険……。

 その子は運が悪かったんだ。仕方ない。



 ――それでいいのか?



 見捨ててはいけない、そんな感情が自分の中で蠢く。

 そして、続けて自問する。



 ――運が悪かった。それで済まして良いのか?



 この世は弱肉強食だ。仕方ないさ。



 ――本当にそれでいいのか?



 弱い奴は強い奴に喰われる運命にある。自然の摂理だ。



 ――理不尽な世の中を変えたいんじゃなかったのか?



 ああ、その為に今は自分の命を、安全を、優先するんだ。死んでしまっては何も成し遂げられない。









 ――じゃあ、何故俺は……理不尽を嘆いた?











 ……ああ、こんな事を考えなくたって、言い訳を探そうとしなくたって、答えは最初から決まってたんじゃないか。






 俺は――そのハーフエルフを助ける。







『住処の場所を教えてくれ』

『おっ、やっぱり助けに行くんやな。それなら案内するで』

『悪いな。頼む』



 ゴブリンは、『ついてこい』と言って走り出す。

 背が俺の腰ぐらいしか無いというのに、吸収を手に入れる前の俺より足が速い。

 黙って後をついていく。


 そして森の奥に進んでいくと、洞穴が見えた。


『ここが住処やで。たぶんハーフエルフは奥におるはずや』

『分かった、ありがとう……吸収するが……良いか?』

『ええよ。主人!がんばやで!』


 グッ。と親指を立てる。

 テイムしたモンスターは皆従順で良い奴ばかりだ。

 ゴブリンを吸収する。


 ――よし、行くか。



 洞穴の中は壁に松明が掛けてあり、薄暗いが思っていたより明るい。

 足音を立てずに進んでいく。

 すると、前方から松明の灯りがやってきた。松明を手に持ったゴブリンだ。

 L字になっている壁に身体を寄せて、姿を隠す。


「〜〜〜〜」

「〜〜、〜〜〜〜」


 訳の分からないゴブリン語を話しているゴブリン達が前を通り過ぎていく。

 始末しておこうか……悩んだ末に始末しておくことにした。

 理由は簡単、洞窟内で正面と後方から挟み撃ちにされるのが一番最悪だと考えたからだ。


 ゴブリン達が背を見せた瞬間に――剣を縦に一振り。

 一匹のゴブリンを仕留める。

 そして、俺に気づいたもう一匹に向けて――剣を横に一振り。


「「グギャアアアアア」」


 バタッ、バタッ。


 2匹のゴブリンの絶叫が洞窟内に響く。

 音が洞窟内を反響し、残響。


(これで、俺の存在はバレただろうな)


 もう相手は警戒態勢だ。

 コソコソ行く必要もない。

 手遅れになる前に走ろう。


 洞窟内を駆ける。足音が響く。これじゃあ俺は常に自分の居場所を教えながら動いてるようなものだ。


 ゴブリンが現れる。

 何匹も。


 走りながら俺は斬り伏せる。


 ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ。


 《ゴブリンが仲間になりたいようです。仲間にしますか?》


 仲間にする。

 吸収。


 少しでも自分のステータスを上げておく。


 そして、広い場所に出た。

 天井が高い。

 ここには、藁のテントが数個程度設置されている。

 ゴブリンが作ったのだろう。

 そして、テントの一つに人影を発見した。


「よかっ――ッチ」


 横からの攻撃。

 大きな太い棍棒が俺に向かって振り落とされる。

 それを横に飛び、交わす。


 ドスンッ。


 棍棒が振り下ろされた地面には、棍棒の跡がくっきりと残った。


(なんて威力だ。アレを喰らったら一溜りもない)


 棍棒を振り下ろした張本人を視界に捉える。

 大きなゴブリン。背丈は俺よりデカく、普通のゴブリンより筋肉が発達した身体。

 ――何だコイツは!



 職業スキルの鑑定を使用する。



 種族:ゴブリン族

 名前:ホブゴブリン

 レベル:30

 HP:1600

 MP:200

 攻撃:1300

 防御:1000

 魔力:150

 敏捷:700


 《攻撃スキル》

【ショルダータックル:レベル3】

【武者砕き:レベル2】


 《強化スキル》

【身体強化:レベル2】


 《通常スキル》

【棒術:レベル2】



 何だコイツ……。

 俺より強いじゃねーかよ……。

 ハッキリ言って、絶望している。

 自分よりステータスの高い敵が出てくるなんて思いもしなかった。

 戦闘経験がほとんどない俺に自分よりステータスの高いモンスターを倒せる訳……。



 いや、弱気になるな。

 臆すれば負ける。

 恐れるな。

 ――戦え。



 俺は負けない。

 まず、戦略を立てるために自分のステータスを確認する。




 種族:人間

 名前:アレン=ラングフォード

 性別:男

 年齢:16歳

 職業:テイマー

 レベル:16

 HP:1238

 MP:492

 攻撃:1021

 防御:892

 魔力:487

 敏捷:915


 《恩恵》

【獲得経験値上昇(小)】


 《耐性》

【痛覚耐性(小)】

【物理攻撃軽減】

【魔法攻撃軽減】

【状態異常軽減】


 《職業スキル》

【テイム:レベル2】

【鑑定(ステータス限定):レベル1】


 《攻撃スキル》

【ショルダータックル:レベル2】


 《強化スキル》

【身体強化:レベル1】


 《通常スキル》

【棒術:レベル1】

【剣術:レベル1】

【斧術:レベル1】

【槍術:レベル1】


 《ユニークスキル》

【吸収:レベル1(MAX)】

【自己再生:レベル1(MAX)】

【意識共有:レベル1(MAX)】




 やはり、ステータスは負けている。

 だが……MP、魔力を抜き敏捷だけは俺が勝っている。

 スピードで翻弄すれば何とかなるか……?

 ――いや、そうじゃないだろ。

 身体強化の倍率の差でその有利はなくなる。しかもこの程度の敏捷の差で翻弄なんてできる訳がない。

 考えろ……。


 相手も黙って俺に考える時間をくれる訳もなく、ホブゴブリンは地を蹴った。

 凄い勢いで俺に近づいてくる。


 ――十分速えじゃねえかよ!畜生!


 そして、ホブゴブリンは棍棒を大きく振りかぶって……叩き落とした。



 ――《攻撃スキル》【武者砕き:レベル2】



 ズドォーン。


 辛うじて、後ろに下がりかわした。

 ……が、地面が揺れてまともに身動きが出来ない。


(しまった!)



 そして、それは大きな隙となる。

 それをホブゴブリンは見逃さなかった。



 ――《攻撃スキル》【ショルダータックル:レベル3】



 2mもある巨体からの突進攻撃。

 揺れが止まり。動けるようになったが、かわせそうにない。

 相殺できる訳ないが、威力を軽減するために俺も【ショルダータックル:レベル2】を発動する。


 ぶつかり合った俺とホブゴブリン。

 案の定、俺が力負けし後方に飛ばされる。



「ぐああああぁぁぁ」



 ドスン、バタン。



 壁にぶつかり、地面に倒れる。

 《耐性》に【物理攻撃軽減】があって、これかよ……。

 頭がクラクラする。

 軽い脳震盪を起こしているようだった。


(やべえ、死ぬかも……)

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