第47話 テイマーVS剣豪 ②
「行くぜ」
そう呟き、ガッドは俺に斬りかかる。
「くっ――やるな」
木刀で防ぐが、ステータスが跳ね上がった事で一撃一撃が先程より重い。
技術はガッドの方が上で、攻めようにも攻める事が出来ない。
防戦一方になってしまう。
「どうした? 守ってるだけじゃ勝てないぜ!」
ガッドは言葉を発する余裕があるようだ。
攻撃の手を緩めず、俺を煽ってくる。
だが、ガッドの言う通り守ってるだけでは勝てない。
……待てよ。
ガッドのステータスが上がったのはスキルを使用したからだ。
あいつのスキルの詳細を調べれば、弱点が見えてくるんじゃないのか?
よし、試しにやってみるか。
――鑑定
―――――――――――――――――――――――――――
種族:人間
名前:ガッド=レイヴァース
性別:男
年齢:17歳
職業:剣豪
レベル:51
HP:44800
MP:0
攻撃:56000
防御:43200
魔力:0
敏捷:48000
《職業スキル》
【闘気:レベル6】
《攻撃スキル》
【抜刀斬:レベル5】
《防御スキル》
【流水円舞:レベル3】
《通常スキル》
【閃空:レベル4】
―――――――――――――――――――――――――――
この中で一番ステータスを上げる可能性があるのは、《職業スキル》の【闘気】だろう。
【闘気】の詳細を見てみる。
《自分のHPを毎秒を0.1%消費し、ステータスをx倍上昇させる事が出来る。
xの値:スキルレベル1/2/3/4/5/6/7/8/9/10
=1.1/1.2/1.3/1.4/1.5/1.6/1.7/1.8/1.9/2.0》
やはり、このスキルだった。
《強化スキル》の【身体強化】は上限レベルが5なので、最大倍率は1.5倍………………あ。
最近使ってなかったからさ、忘れてたんだけど俺も【身体強化】持ってるじゃん……。
これ俺も【身体強化】使えば良いだけじゃん……。
と、頭をよぎったが使わない事にした。
俺の目的は対人戦の経験を積むことだ。
今の状態でも俺の方がステータスは上だと言うのに、それを更に引き離したら俺が勝つのは当然だ。
あくまでこれは練習。
ならば、出来るだけ相手が同じ強さの方が都合がいい。
だが、【闘気】の弱点は分かった。
【闘気】のデメリットは毎秒HPの0.1%を消費するという点だ。
つまり、ガッドが望むのは短期決戦。
長引けば長引くほどガッドは不利になっていく。
だからガッドは俺を煽り、挑発したのだ。
なるほど……ガッドは意外と賢いんだな。
「ガッド、お前の弱点は分かってるんだぜ。その飛躍的に上昇した身体能力は長時間継続する事が出来ない。つまり、俺は守ってるだけでも勝てるって事さ!」
と言っても、ガッドの攻撃は鋭さを増していくばかりで一向に衰えている気がしないがな。
「へぇー、いい読みだな。お前の言ってることは正解だ。だが、守ってるだけじゃ勝てない。何故ならお前は俺の剣撃を防げる術がないからだ」
「それはどうかな」
ハッタリだ。
そう思っていた。
ガッドは後ろに下がり、木刀を鞘に差し込むかのように腰に置く。
――『通常スキル》【閃空】
そして、一瞬のうちにこの距離を詰めてきた。
「なにッ!?」
【鷹の目】を発動していたのにガッドの動きが全く見えなかった。
まずい。
攻撃に対応出来ない。
そう判断した俺は【ウッドシールド】を発動した。
――《攻撃スキル》【抜刀斬】
……が、ガッドの攻撃は【ウッドシールド】の防御を上回る速さだった。
ガシッ。
ガッドの木刀が身体に当たった。
「痛っ!」
間抜けな声が出た。
しかし同時に自分の敗北を悟った。
悔しいが、良い経験になったと思う。
自分の弱点が浮き彫りになり、これからどうすれば良いかがハッキリした。
「……おいおい、ガッドと同年代の奴でこんなに強い奴が他にもいるのかよ」
「……な。俺、武術祭出るの不安になってきたわ」
周りの門下生達はザワついており、どうやら俺の実力が評価されているみたいだった。
「……ふぅ」
そして目の前にいる勝者のガッドは、溜息をこぼした。
「強いなガッド」
俺がそう話しかけると、ガッドは不満そうな表情に変わった。
「お前さぁー、余力を残してる分際で何を言ってんだよ」
余力? 身体強化の事だろうか。
確かにあれを使えば、結果はどうなるか分からない。
だが、未使用の方がフェアな試合になるはずだ。
だとすれば、俺は余力なんか残してないし、全力で戦った事になる。
「何言ってんだよ。あれが俺の全力さ」
「嘘つけ。お前俺の攻撃を捌いてるとき、どんな表情してたと思う?」
「んー、レッドベリーを食べてるときみたいな表情かな」
レッドベリーは酸味の強い果物だ。
冒険者になってから一度食べた事あるのだが、あまりの酸っぱさに顔を歪めたよ。
「バカ、ちげーよ。お前は何か考えているような表情で終始戦っていたんだ。俺の行動を分析するようにな。そんな奴見た事ねえ」
えぇー……ガッドの動きを分析とかそんな事全然してないんですけど。
もう必死になって戦ってただけなんですけど。
「いやいやいやいや! だとしたら俺めっちゃ不気味な奴じゃん!」
「ああ、お前は不気味だ。キモいぞ」
ニッコリと笑って、親指を立てるガッド。
「ストレートに悪口を言うの辞めろよ……」
正直、ちょっと傷ついた。