第46話 テイマーVS剣豪 ①
「どっちからやる?」
俺とシャルのどちらから先に模擬戦をやるか、という事を聞いているのだろう。
シャルは静かにしていて、もしかすると乗り気じゃないのかもしれない。
仕方ない。先に俺からやるとしよう。
「じゃあ俺からで」
「オッケー、ならとりあえず腰にある剣は外しておいてくれ。木刀で戦うからさ」
「分かった」
言われるがままに俺は剣を外して、それをレナに渡す。
「え? 私が持つの?」
「おう、頼んだ」
「仕方ないなー……重っ! これ重いんですけど!」
剣を渡すと、レナは剣を重たそうに両手で抱えていた。
そうか、レナの攻撃力ってゼロだもんな。
筋肉とか全然無いだろうし、そりゃあ剣を重く感じる訳だ。
「ごめんごめん。それ何気に重いの忘れてたわ」
慣れていたのもあるが、ステータスも上がったので、剣の重さなどすっかり忘れていた。
辛そうにしているレナから剣を取り上げ、それを地面に置く。
「もう! みんな私を何だと思ってるの!」
プンスカ プンスカ
レナは分かりやすく怒っていた。
こうなるとレナは面倒そうだ。
うーん、これは無視しないと話が進まなそうなので、
「剣は外したけど、使う武器はどこにあるんだ?」
と、ガッドに話しかけた。
「ほら、これだ」
そう言って、ガッドは木刀を投げ渡してきた。
受け取り、ブンブンと振ってみる。
軽いな。
ゲブランから貰った剣と比べると、木刀はかなり軽い。
少し違和感はあるが、これぐらいならあまり問題にならないだろう。
「よし、じゃあこっちに来て白線の上に立ってくれ」
すでに闘技場の上に立っていたガッドは俺を呼ぶ。
流石に毎日戦っているからか、準備に無駄がないな。
ガッドに言われた通り、白線で引かれた闘技場の上に引かれている白線の上に立つ。
分かりやすいところにあるが……白線多いな。
この広さがあれば、白線を引いてなくても十分なんじゃないか?
「始める前にルール説明をしておくぞ。制限時間は無し。この闘技場の中で戦っていれば、どう戦っても構わない。相手に一太刀浴びせれば勝ちだ。どうだ、シンプルだろ?」
闘技場の外にいるウォルスが模擬戦のルールを説明した。
「確かにシンプルで分かりやすいですね」
「おいアレン、騙されるな。親父は馬鹿だから単純なルールしか考えられないだけなんだ」
小さな声でガッドは俺に囁きかける。
「聞こえてるぞバカ息子。まぁ、その通りだから否定はしないが」
否定しないのかよ……。
やっぱり仲が良い……のかな?
「アレン、準備は良いか?」
と、ウォルスが言う。
軽くジャンプしたりして、体を慣らしていく。
うん……大丈夫だな。
「はい、大丈夫です」
「じゃあ始めるか」
ガッドに聞かなくてもいいのか、そう思ったが、既にガッドは俺に目線を集中させていた。
飢えた獣のような目をしている。
「二人とも白線の上に立ってるな? よし、では始め!」
ウォルスが開始の合図を告げると、ガッドは一目散に突っ込んできた。
斬りかかるのではなく、勢いを上手く利用するために木刀の先端を前に向けている。
木刀で受け止めては俺が不利になるな……躱すか。
――《通常スキル》【鷹の目】
鷹の目を使うと、ガッドの動きはよく見えた。
やはり便利なスキルだ。
そして俺とガッドのステータスの差は倍以上。
これなら躱せる。
スッ――
目論見通り、ガッドの攻撃を躱すことに成功した。
……が、ガッドは片方の足をもう一本踏み込み、木刀を横に振ってきた。
ガッドの口元はニヤリ、と右口角が上がっていた。
ガッドの狙いは、この二撃目だったようだな。
――《防御スキル》【ウッドシールド】
俺の唯一の防御スキルであるウッドシールド。
トレントの所持していたスキルで、通常はトレントの枝が盾のように動き、攻撃を防ぐスキルだ。
だが、俺が使うと通常より早く攻撃を防げるようになる。
カッ、と木刀がぶつかり合う。
防いだ事が意外だったのか、ガッドは一瞬驚いた表情をした。
しかし、すぐさま楽しそうに笑みを浮かべ出した。
「いいねぇ! そうこなくっちゃなぁ!」
声を張り上げ、果敢に攻撃を仕掛けてきた。
まるで獣だ。
だが、【鷹の目】を使用している事に加えて、倍以上差のあるステータスのおかげで俺は何とか攻撃を防ぐ事が出来ている。
一撃、一撃が重く、ステータスの差など本当にあるのか? と、疑いたくなるぐらいだがな。
これが訓練を積んだ剣士か……。
「どうしたどうしたァ! 守ってるだけじゃ俺には勝てないぜ!」
「そうみたいだな。では反撃させてもらうぞ」
――《攻撃スキル》【強撃】
Cランクモンスターのベアーの《攻撃スキル》である【強撃】は、名前の通りただ威力の高い一撃を放つだけのスキルだ。
威力が高いというだけで他には何も無いが、使い所が分かりやすく、シンプルに強い。
【強撃】を受け止めるガッド。
表情は苦しそうで、かなり効いているみたいだ。
「……やるな、アレン。悪いけど正直舐めてたよ。だから……本気を出させて貰うぜ」
――《職業スキル》【闘気】
そう言った後、ガッドの雰囲気が何か変わった。
何が起こったんだ?
鑑定を使い、試しにステータスを覗いてみると……
―――――――――――――――――――――――――――
種族:人間
名前:ガッド=レイヴァース
性別:男
年齢:17歳
職業:剣豪
レベル:51
HP:44800
MP:0
攻撃:56000
防御:43200
魔力:0
敏捷:48000
《職業スキル》
【闘気:レベル6】
《攻撃スキル》
【抜刀斬:レベル5】
《防御スキル》
【流水円舞:レベル3】
《通常スキル》
【閃空:レベル4】
―――――――――――――――――――――――――――
ステータスの値が跳ね上がっていた。
跳ね上がりすぎだろ!
これだけのステータス差があって五分五分だと思っていたが……まずいな。