第44話 テイマーは剣術道場を訪れる
「それで……僕に頼みたい事って?」
一段落ついたところで、ラルフが俺に問う。
「少し無理なお願いかもしれませんが、この訓練場で訓練させて欲しいんです」
「ふむ、それはどうしてだい? 何か訳があってのことだよね?」
「はい、来週に行われる武術祭に参加するのですが、対人戦の経験が少ないので、ぜひここで騎士達と同様の訓練をさせて頂けたらな、と」
「なるほど、理に適っているね。でも部外者の人を訓練に参加させる訳にはいかないな」
まぁ、そうだろうな。
ダメで元々と言った感じの頼みだったので、別に驚く事はない。
仕方ないさ。
「そうですか、お忙しいところ邪魔しちゃってすみません」
「いいよいいよ。部下を助けてもらった借りもあるしね」
部下とは、山賊っぽい格好をしていた3人組の事だな。
全然騎士に見えなかったが、ここでは騎士らしい格好をしているのだろうか。
「そういえば、あのときの3人はここにいるんですか?」
「いないよ。彼らは部下だけど騎士団の団員ではないんだ」
「騎士団の団員ではない?」
ラルフが部下だと言っていたので、あの3人は騎士なのだと勘違いしていた。
違ったのか。
「彼らは山賊でね、悪さをしていたのを団長が改心させたんだ。それで団長の仇を討とうと手助けをしてもらっているのさ」
「なるほど……素晴らしい団長さんだったんですね」
「そうだね、みんなが憧れていた騎士だったと言えるだろう。……だからこそ、俺達は何としてでもヴァレンスを捕まえなければいけない」
ギュッと拳を握りしめて、決意をあらわにするラルフ。
悔しいんだろうな……きっと団長はラルフの大切な人の一人だったのだろう。
それを守れなかったラルフの悔しさは計り知れない。
俺も出来る限り、ヴァレンスを捕まえられるように協力しようと思った。
「おっと、話が脱線してしまったね。アレン達は対人経験を積みたいんだよな。ここでの訓練は無理だけど、知り合いの道場なら紹介してあげれるよ」
「道場ですか?」
「うん、剣術を教えてるところでね。優秀な門下生が沢山いて、その中で武術祭に出場する奴もいるだろう。良い訓練の場になるはずさ」
剣術の道場か。
俺とシャルも剣を使用しているので、丁度良いかもしれないな。
「良さそうな場所ですね! では、そこに行ってみます」
「あ、俺の名前は出さない方がいい。ちょっと訳ありでな」
都合が悪そうな顔をしながらラルフは言った。
絶対にラルフの名前は出さないようにしよう。
「分かりました。約束します」
「よし、なら場所を教えよう。場所はだな――」
ラルフに道場までの道のりを教えてもらい、そこに向かう。
貴族区から出て、商業区に戻る。
静かだった貴族区と比べて、商業区は賑やかだな。
やっぱり、こっちの方が落ち着く。
「ここがラルフの言っていた剣術道場だな」
教えられた道のりを進むと、ラルフの言う剣術道場に辿り着いた。
広い空間に建てられた木造建築の建物は、この街に似つかわしくなく、異様な存在感を放っていた。
中からは、
ガンッ ガンッ
と、何かをぶつけ合う音が聞こえてくる。
金属音のような高い音でないことを考えると、ぶつけ合っているのは木刀か?
ドアを開けて、中に入ってみると、多くの門下生達が稽古に励んでいた。
客人が来るのはよくある事なのか、それとも集中していて気づいていないのか、分からないけども門下生達は俺達に視線を移さずにただ木刀を振っていた。
そんな中、一人の男性がこちらに近づいてきた。
少し年老いた男性で身体つきがしっかりとしていて、長身だ。
「お前達、何の用だ?」
「ここで訓練が出来ると聞いたのでやってきました。訓練させて貰えないでしょうか?」
「訓練か……さてはお前達、武術祭に出場する奴らだな?」
「はい、そうです。対人戦の経験が全然無いので、こちらの道場にやってきました」
「ハハハ、私は出場しませんけどね!」
と、高らかに語るレナが間に割り込んできた。
「話をややこしくするんじゃない! お前さっきの出来事反省してないな!?」
「あ……いや、反省してます……」
凄く嘘っぽい。
「ハッハッハ、変わった嬢ちゃんだな。まぁそうだろうとは思ってたから大丈夫だ」
グサっとレナの精神的ダメージが与えられた。
そんなのお構いなしに男は話を続ける。
「それで……訓練させてやるのは簡単だ。単純に、ここの門下生になれば良いだけだ。だけど、お前達は実戦経験……つまり、模擬戦がしたいって事だよな?」
この人……鋭いぞ。
その通りだった。
訓練させてもらえるなら有難いぐらいの気持ちで来ているが、実際のところやりたいのは模擬戦だ。
「凄いですね……その通りですよ」
「ほぉ。じゃあ丁度いいな。やらせてやるよ模擬戦」
「本当ですか!?」
「本当だとも。ウチの門下生でも武術祭に出る奴がいるんだが、一人だけズバ抜けて強い奴がいるんだよ。そいつと戦ってくれ」
「有難いですけど…… 見ず知らずの僕らが一番強い門下生さんと戦っても良いんですか?」
「構わんよ。だってお前ら結構強いだろ? 多分ウチの門下生で相手になる奴はアイツしかいねえよ」
見ただけで、そこまで評価されるとは思っていなかった。
剣術とかスキルレベルは高くなってきたが、習った事などないし、結構素人な感じだけど大丈夫なのだろうか。
「いや……そんな事ないと思いますけど……」
「謙遜すんなって。ま、そこで待ってろよ。今呼んでくるから」
そう言って、男は裏の方へ向かっていった。
そして、しばらくすると一人の男を連れて戻ってきた。
「待たせたな。一応、自己紹介がまだだったからさせて貰うぜ。俺は、この道場の師範のウォルス。で、こっちが――」
「俺は、親父の道場で一番強い門下生のガッドだ。これから模擬戦するんだってな、よろしく頼むぜ!」
ガッドはウォルスの言葉を遮って、自己紹介をした。
――って今ガッド、ウォルスのことを親父って言ってなかったか?