第43話 テイマーは檻に閉じ込められる
翌日、俺達は王国騎士団の訓練場に向かった。
訓練場は、どうやら貴族区の一角にあるようだ。
「身分証を見せてください」
貴族区に入るには、目の前にある大きな門を通らなければいけない。
その前には門番がいて、不審な者が貴族区に入らないように警備していた。
身分証か、ギルドカードで大丈夫だろうか。
俺達は顔を見合わせて、門番にギルドカードを見せる。
「……Cランクの冒険者ですね。では、どうぞお通りください」
大丈夫だった。
貴族区に入れるランクとか決まってるのだろうか。
ダンジョンは、Dランク以上の冒険者じゃないと入れなかったし、同じような感じなのかな。
門が開かれ、貴族区に入る。
「へー、貴族区ってだけあって凄い上品な感じの場所だね」
レナが、そう呟いた。
確かに、商業区に比べると道は整備されていて、傍には花や木が植えられている。
人の気配はあまりなく、静かなところだ。
建物は大きな屋敷ばかりで、どこも庭が広い。
「別世界だな」
そう言って、苦笑いをした。
うん、ちょっと金持ちすぎて引いてしまうな。
「それで、王国騎士団の訓練場は一体どこにあるんだい?」
レナが、俺に問う。
「貴族区の一角にあるみたいだから、少し歩かないといけないな」
「ハァ〜、めんどくさいなー」
「だから、別について来なくてもいいって言っただろう」
レナは、武術祭にエントリーしていないし、攻撃手段も無いしで、見学しかすることが無い。
だから俺は、別行動でも良いと昨晩言ったのだが、レナはそれを断ったのだ。
「いやん、私が一人で街を歩いてたら多くの男にナンパされちゃうわ」
「あーはい、そうですねー」
そうかもしれないが、認めてやるのは癪なので、棒読みで答えた。
「もー! アレンはウザいなー! ね、シャルは私と離れ離れだと寂しいよね?」
「うん、少し」
「ほら、アレン! 君もシャルの素直さを見習ってよ!」
「少しだけしか寂しく無いらしいぞ」
「なに言ってるの! 少しもだよ!」
「……やれやれ」
ため息を吐いて、首を横に振った。
最近、レナはテレサに似てきたかもな。
やっぱり、類は友を呼ぶってヤツなのか?
◇
訓練場の前にやってきた。
訓練場というだけあり、屋外で訓練は行われている。
前に立っているだけでも騎士達の掛け声や剣を打ち合う音が聞こえてくる。
とりあえず、ラルフに会わないと話が進まないと思うので接触を試みたいところだ。
「む、貴様ら何者だ? ここで何をしている」
訓練場の前に立っていると、一人の騎士に声を掛けられた。
よし、ナイスタイミングだ。
この騎士の人にラルフに会えるかどうか聞いてみよう。
「副団長のラルフ=ファーディナンドさんに会いに来ました。会わせて頂けないでしょうか?」
「悪いが、副団長は今、忙しい身でな。会わせてやる事は出来ない。お引き取り願おうか」
団長が亡くなり、副団長のラルフは、騎士団のトップとしての役割を担わなければならない。
ヴァレンスの件も追っているみたいだったし、色々と大変なのだろう。
「あー、そうだよね。ヴァレンスって奴も追ってるみたいだもんね」
おい、それ秘密事項だろ。
「貴様、何故その事を知っている」
レナの呟きに騎士の表情は一気に鋭くなった。
よし、愛想良く事実を話してみよう。
上手く行けば、何とかこの場を切り抜けられるかもしれない。
「僕達、一度ヴァレンスと戦ったんですよ。で、そのときにラルフさんと知り合って――」
「言い訳は後で聞こう、事情が変わった。貴様らには副団長に会わせてやろう……ついて来い」
……あれ?
もしかして……俺たち、ヤバイ状況に陥ってない?
騎士について行った先に待っていたのは、檻だった。
牢獄と言えるほど檻は多くなく、3つほど檻が設けられている。
その中の1つに入れられ、俺たちは囚われの身になってしまった。
……いや、マジか。
どうしてこうなった。
「そこで大人しく待っているんだな」
「あの、もしかして僕達罪人として見られています?」
「少し、な。ヴァレンスの件を知っている以上、ヴァレンスの共犯者という可能性も捨てきれない。だから、副団長をお呼びして、貴様らが無実がどうか証言してもらうのだ」
「なるほど、ごもっともな意見だ」
問答無用で罪人扱いされなかっただけマシだったかもしれない。
俺達を連れてきた騎士は、部下を呼び、俺達を監視させるよう命令し、去って行った。
「うぅ……すみません……」
レナは肩身を狭くして、謝る。
「まぁ……失言だったとは思うが、ラルフと会えるんだ。結果オーライだよ」
と、フォローする俺。
「レナ、次からは気をつけて」
「はい……」
シャルは無表情で言うから慰めてるのか、攻めているのか、よくわからないな。
申し訳無さそうにしているレナも俺と同じようなことを思っているのかもしれない。
騎士に監視されながら、しばらく待っていると俺達を連れてきた騎士と一緒にラルフがやってきた。
「やぁ、君達。久しぶりだね。俺に会いに来たんだって?」
「どうも、ラルフさん。そうなんですよ、実は頼みたい事があって……」
「出来る限りの事はしてあげよう……だが、その前にそこから出してあげた方が良さそうだね。ティム、出してあげて」
「分かりました」
どうやら、俺達を連れてきた騎士の名前はティムと言うらしい。
「あなた達の言っていた事は本当だったようだ。無礼を許してくれ」
ティムは檻を開けると、謝罪をしてくれた。
良い人そうだ。
「いえいえ、失言をしたのは間違いないですから」
「うむ、それは間違いないな」
「うぅ……すみません」
どうやらレナに味方は居ないようだ。
ま、どう考えてもレナが悪いもんな。