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第38話 テイマーは強敵に出会う

 渓谷の奥へ進んでいく。

 小さな滝の水を叩く音が周囲に響いている。

 だが、それ以外の音が前方から響いてきた。


「この音聞こえるか?」

「「うん」」


 シャルとレナに問いかけると、首を縦に振った。

 どういう音かというと、キンッ、キンッ、と金属がぶつかり合う音だ。

 冒険者がモンスターと戦っているのかもしれない。


 幸い、音がする場所へは、この道を真っ直ぐ進めば辿り着けそうだ。

 万が一、冒険者がピンチに陥っていたら加勢出来るように一応確認しよう。


 走って音のする方へ向かうと、そこでは戦いが繰り広げられていた。

 人とモンスターの戦いではなく、人と人の戦いだった訳だが。


 1人の冒険者の男が3人の山賊に囲まれている。

 冒険者が手に持つ武器は短剣。

 対して山賊達はそれぞれ片手斧を装備している。


 どう見ても冒険者側が不利な状況だ。

 こんな現場、同じ冒険者として見過ごす訳にはいかない。


「何をやっているんだ!」


 声を張り上げてそう言うと、山賊達は一同にこちらを見た。


「何だァ? てめぇら、殺されたくなかったらとっとと帰りな」

「俺らは、コイツを――ぐはッ……」


 喋っていた一人の山賊は、冒険者の男に胸を短剣で刺された。

 俺が声をかけ、山賊に出来た一瞬の隙を男は突いたのだ。


「てめえ!」


 山賊は冒険者に片手斧を振り下ろすが、短剣で受け止められる。

 そして、懐に空いている片方の手を入れて、短剣を取り出すや否や、それを山賊に突き刺した。


「卑怯者……がはッ……」


 倒れる山賊。

 3人いた山賊は一瞬のうちに1人になってしまった。


「ひぃっ、ひぃぃぃ…………」


 残った山賊は腰が抜けて、地面に倒れこんだ。

 涙を流しながら、恐怖に表情を歪めている。


「さっきまでの威勢はどうした? 無様だな」


 男は、そう言って短剣を振りかざした。

 殺すつもりだということを察した俺は、無意識のうちに駆け出していた。


 ガキンッ


 剣を取り出して、男の短剣を受け止めた。

 短剣だというのに、かなり重い一撃だ。


「何してんの? 邪魔なんだけど」


 軽く眉を顰めながら、冒険者はそう言った。


「もうコイツは戦意を失ってるだろ。殺すことはないはずだ」

「おいおい、そいつは俺を殺そうとした奴だぜ? それで俺に殺されても文句は言えないさ」

「俺も目の前で人が殺されそうになっているところを黙って見てられないだけだよ」

「そうか……とりあえず、どけ」


 男は俺の横腹目掛けて、蹴りを入れてきた。


「あがッ……」


 思わぬ威力に俺は横に飛ばされてしまった。

 腹を抑えて、丸くなる。

 立たなきゃ、あの山賊は死んでしまう。

 立て、立て――。

 かろうじて立ち上がるが、もう間に合いそうにはない。


 そう思っていたが、


 男がトドメを刺そうとしたとき、持っていた短剣が飛ばされた。

 黒い剣が短剣を弾き飛ばしたのだ。

 そう、山賊の前には――シャルが立っていた。


 シャルは鋭い目付きで男を睨みつけていた。

 いつもの無表情なときとは違い、怒りが露わとなっている。


「はぁ……どいつもコイツもめんどくせえなぁ……」


 頭をかきながら、男は呟く。


「アレンに乱暴するな」


 低い声でシャルは言う。


「ああ、そりゃ悪かったな。俺は乱暴したつもりはないんだぜ。邪魔だったからどかしただけだ」

「そう、なら私は貴方が邪魔だから殺す」

「物騒だな。平和的解決といこうじゃないか」


 シャルは、それ以上返事はせずに、男に向かって飛び込んでいった。

 魔剣を振り上げて、勢いよく男に振り下ろす。

 男はそれを、半身をズラして回避する。


「聞く耳持たず、か……まぁいい、それなら少し遊んでやる」


 男は短剣を逆手持ちに変えた。

 シャルは、男の懐に飛び込み何度も何度も斬りかかった。

 それを男は余裕の表情で捌いていく。

 シャルの連撃は、単調なものではなく、速度を変えながら、狙う場所を変えながら、威力を変えながら、並みの者では捌き切れない攻撃だ。


 こいつ……何者だ。


 それを知るために俺は鑑定を使ってみるが――


 《対象の所有スキルにより鑑定不可》


 鑑定出来ないのだ。

 どういうことだ……所有スキルにより鑑定不可だと……。

 こんなこと今までで一度も無かった。

 相手の実力を知れない、そういう恐怖。

 奴の底の知れない実力に俺は震えてしまった。


「はぁ……はぁ……」

「どうした? 攻撃の質が落ちてきたな。もうスタミナ切れか?」


 シャルの攻撃は段々と単調になり、息も荒くなっている。

 男の言う通り、シャルの動きには既に疲れが見えていた。



「黙れ……」


 それでもシャルは諦めずに何度も攻撃を仕掛ける。


「ふん、この程度か。お前も所詮口だけという事だな」


 男は、シャルの手めがけて蹴り上げた。

 シャルが握っていた魔剣は、宙に浮かび、そのまま地面に落ちていった。


「――っ」

「これで遊びは終わりだ。楽しかっただろう?」


 男は見下したように笑みを浮かべていた。


「黙ったまま……か。ふん、お前にはユーモアのセンスがないな。それさえあれば、生き残れたかも知れないというのに」


 やばい。

 シャルが殺される。


「待ってくれ!!!」


 俺は大声で叫んだ。


「ん? さっきの奴か。アレンだっけ、名前。まぁ安心するといい。寂しくないようにみんな仲良く殺してやるからさ」

「邪魔して悪かった……だから、命だけは見逃してくれ……」


 俺は地面に頭を擦り付けて、謝った。


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[気になる点] 山賊を体張って守るってどうなの…?こんな主人公わたしは駄目だな
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