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第2話 テイマーはゴブリンを仲間にする

 翌日、目覚めると俺は真っ先に冒険者ギルドに駆けた。理由は、武器を手に入れるため。

 冒険者ギルドでは、新人冒険者を支援する試みの一つとして武器の貸し出しを行なっている。粗悪でまともに手入れもされていない武器ばかりだが、木の棒よりは確実にマシだ。

 今までは、一撃で仕留めれるスライム相手だったから木の棒でも問題は無かった。

 しかし、今日の敵はゴブリンだ。

 ゴブリン相手に木の棒で挑むのは少し心許なく、得策とは言えない。冒険者としての経験が浅い俺だが、それぐらいは考えて行動しているつもりだ。


 冒険者ギルドの古びた木製のドアを開けて、武器をレンタルしに向かう。

 棚に剣、槍、斧の3種類の武器がいくつか立て掛けられている。3種類の武器は、それぞれ長所が異なる。


 槍は、この3種類の中で一番リーチが長い。だが、攻撃力は一番低い。

 一対一の時に限るが、リーチを活かして安全な距離を保ちつつ、一方的に攻撃を与える事が出来る。盾を装備すれば守備よりの堅実な立ち回りが出来るだろう。


 斧は、なんと言っても一撃の強さだ。この中で一番重量があり、繰り出される一撃はかなりのものだろう。しかし、その分隙が出来やすく、ソロで扱うには練度が必要になってくる武器だろうな。少し俺にはリスキーな武器だ。


 そして、剣。

 俺が選ぶのは剣だ。理由は2つある。


 1つ目の理由は攻守のバランスが優れていること。器用貧乏と言えばそれまでだが、状況に応じて立ち回りやすい。この3種類の中では一番ソロ向きの武器と言えるのではないだろうか。


 2つ目の理由はゴブリンが所持していた《通常スキル》に【剣術:レベル1】があったからだ。

 1体を仲間にして吸収してしまえば、そのスキルは俺のモノになる。剣術の様なこの類のスキルは、対象の武器を扱えば扱うほどレベルが上がると本で読んだ事がある。

 強くなる効率を考えると、剣を武器として扱う事が一番だ。


 棚から取った剣を手に持って、窓口に行き、レンタルの手続きを行う。

 窓口にいる受付嬢は、俺にボロクソ言っていた女とは違う女のようだ。


「武器のレンタルですか?……えーと、失礼ですがテイマーなのに必要なんですか?」


 受付嬢は困惑した表情で言った。


「はい。必要だからレンタルしに来ました」

「武器を損失もしくは破損した場合、罰金として銅貨10枚を払わないといけませんが、よろしいですか?」

「大丈夫です」


 最悪、破損した場合は払ってしまえばいい。

 ゴブリンは1体につき銅貨1枚の報酬金が出る。

 ちゃんと倒せれば、今までより稼げるのだから。





 ◇





 平原を歩き、ゴブリンの住む森にやってきた。この森にはゴブリンの住処があり、よくゴブリンの森と呼ばれている森だ。

 俺は、気配を殺すようにゴブリンの森に足を踏み入れる。

 草木に隠れながら森を進んでいくと、早速1体のゴブリンを見つけた。

 手には錆びた剣を持っていて、腰にはボロボロになった布地を巻いている。恐らく、どちらも冒険者の身ぐるみを剥いで手に入れた物だろう。

 身長は低く、恐らく100cm程。俺の腰より上ぐらいの高さだ。


 念には念を入れ、ゴブリンに鑑定を使用する。


 種族:ゴブリン族

 名前:ゴブリン

 レベル:14

 HP:120

 MP:20

 攻撃:98

 防御:74

 魔力:24

 敏捷:81


 《攻撃スキル》

【ショルダータックル:レベル2】


 《強化スキル》

【身体強化:レベル1】


 《通常スキル》

【剣術:レベル1】



 ッチと舌打ちをする。

 昨日、発見した奴より一回り強い。

 どのステータスも昨日の奴より高く、《攻撃スキル》のショルダータックルはレベル2だ。

 たぶん突進してくるスキルなんだろうが、レベルが2なのは脅威に値する。

 しばらく様子を見よう。あいつが大きな隙を見せたときに襲いかかればいい。

 それまで、ひっそりと身を潜めながら追跡していよう。



 しばらく追跡していると、作戦が功を奏し、例のゴブリンは地べたに横になり眠りについた。

 もう少し待つ。

 睡眠が浅い状態だと、近付いた時に目を覚ます可能性がある。

 ぐっすり眠るまで、ジッと待つ。



 しばらくすると、ゴブリンはいびきをかきはじめた。

 ……そろそろだな。

 俺は茂みから身体を出し、ゆっくりと足音を立てずにゴブリンに近づく。

 距離はもう僅か。剣の柄の部分を両手で持つ。刃先がゴブリンの心臓を貫くように狙いを定める。

 そして――突き刺す。


「グギャアアーーーー」


 ゴブリンは目を見開き、手に持った剣を俺の顔に向かって突き刺す。

 紙一重で避けたが、俺の頬は少し熱を帯びる。

 少しだけ頰から血が垂れる。

 だが、その攻撃が最後の悪あがきだったようで、ゴブリンは力尽きて粒子となり消えた。


 そこで、頭に無機質な音声が流れる。



 《ゴブリンが仲間になりたいようです。仲間にしますか?》



 きた。

 40%を引き。1体目で仲間に出来るとは運が良い。

 答えはもちろん、仲間にする、だ。



 《ゴブリンが仲間になりました》



 そして、粒子が再び集まり出して、ゴブリンが現れた。

 ゴブリンは、何故か俺に向かって敬礼をしている。

 不細工で気怠だった表情も今ではキリッとした顔つきになっている。

 何だコイツ、ゴブリンってそういうモンスターなのか?

 そう不思議に思っていると、また頭に中で音声が流れる。



 《ゴブリンを仲間にした事により、ユニークスキル【意識共有】を獲得しました》




 意識共有?

 一体どんなスキルだ。そう思い、スキルの説明を見ようしたそのとき、俺はこのスキルの能力を理解した。



『兄貴、一生ついていくッス!』



 声が頭の中に流れてきた。

 それは無機質な声ではなく、少し高い少年のような声。まさかな、と思ったが、次の一言で俺の予想は正しかったと証明されることになる。



『アッシ、こう見えても同族の中では強い方だったッス。兄貴の役に立てるよう頑張るッス』



 そう、この声の主は――ゴブリンだった。

 俺は少しショックを受けた。少年のような少し可愛げのある声がこんな醜いゴブリンから発せられていることに。吐き気が俺を襲う。だが、俺は負けない。

 ここで吐けば、俺はこのゴブリンの心を傷つけることになってしまうからだ。



『あーあー。これって俺の声聞こえてるか?』



 意識共有のスキルを使い、テイムしたゴブリンとコミュニケーションを試みる。



『聞こえてるッスよ。バッチリッス!』



 どうやら、無事聞こえているようだ。そして、この意識共有は自分が伝えたい事だけを伝える事ができるようだ。

 思考中に入って来ないのは助かる。さっきの吐き気の部分は聞かれてはマズイだろうから。



『そうか。では、これからよろしく頼むゴブリン。……種族名で呼ぶのは少し気が引けるな』



 ゴブリンに対してゴブリンと呼ぶのは、俺の事を人間と呼ぶような物だ。

 何か名前をつけれあげたいところだ。

 ……よし。決めた。



『今日からお前の名前はゴブだ。よろしくな』

『名前をつけてもらえて嬉しいッス!アッシ、兄貴の為なら何でもやるッス!』



 今、何でもするって言ったな。

 コミュニケーションが出来た時に、俺は密かに悪魔のような作戦を思いついたのだ。

 この作戦を使えば、楽にゴブリンを仕留めることが出来る。



『……じゃあ、悪いんだけどさ。元仲間だったゴブリンに近づいて気を引いて貰えるか?その隙に俺が倒すからさ』

『そんなの容易いッスよ。アッシの中での優先順位は兄貴が1番ッス。それにゴブリンを倒してくれれば、アッシの仲間も増えるッス』



 かなり肯定的に手伝ってくれそうだった。俺が頼んでいるのは、同族を殺すのを手伝ってくれという事なのに。

 ……まぁいい。おかげで楽に狩りが出来そうだ。




 気配を殺しながら森を歩くこと数分。

 ゴブの剣が頰にかすり、傷口から血を流していたが

 《ユニークスキル》の【自己再生】によって傷口はもう塞がりそうだった。

 以前の自然治癒力では考えられない治りの早さだ。


 気配を感じたので茂みに隠れていると、森の中からゴブリンが歩いてきた。間抜け面で尻をボリボリと掻いていて、手には棍棒を持っている。

 ゴブリンの武器は剣だとばかり思っていたが、他の武器も扱うのか?

 横にいるゴブにそのことを聞いてみる。



『アッシらの武器ッスか?森に落ちてた武器や冒険者から剥ぎ取った武器を使ってヤスね。適当に使ってる奴が多いんで、あまり気にしなくていいッスよ』



 流石は同族と言ったところか。

 一応、アイツも鑑定してみたらゴブよりステータスは高くなく、ショルダータックルもレベル1。

 だが、《通常スキル》には【棒術:レベル1】というのがあった。

 使っている武器によって、《通常スキル》は変化すると考えて良さそうだな。

 早速、アイツを仕留めるためにゴブに命令を出す。


『ゴブ、アイツの気を引いてこっちに誘導してきてくれ』

『了解ッス!……でも、どうすればいいッスかね』

『……そうだなー……ゴブリンって人間の女を犯したりするのか?』

『犯すッスよ。たまにやって来る冒険者が女冒険者なら住処に連れて帰って、皆んなで輪姦(まわ)してるッス』

『……なら、こっちに女冒険者が気絶してると言ってアイツを連れて来い』

『兄貴は天才ッスか!?アッシ、行ってくるッス!』



 ゴブは勢いよく駆け出し、標的のゴブリンに近付いた。何やら訳の分からないゴブリン語みたいなのを喋っている。ゴブと標的はケラケラと笑い、こっちに近づいてきた。

 ――ナイスだ、ゴブ!


 浮かれて近づいてくるゴブリンは、隙だらけだった。

 俺のリーチに入るまで待つ。急所を貫けるように腕を引く。集中して、奴の心臓に狙いを定める。

 そして、俺のリーチに足を踏み入れたゴブリンの胸に――剣を突き刺した。


「グガアアアアアアア」


 叫びながらゴブリンは、粒子となって消滅した。

 そして――



 《ゴブリンが仲間になりたいようです。仲間にしますか?》



 脳内に流れてきた音声に俺はガッツポーズをした。

 ゴブは、ゴブリンを狩る時に誘導役として使うため、今日1日は吸収しない予定でいた。だから、コイツを仲間に出来た事によって、やっと俺のステータスが上昇する。



 《ゴブリンが仲間になりました》



 よし、コイツは早速吸収するとしよう。


『吸収させてもらうが、文句は無いよな?』

『もちろんでゲス。でも、出来ればたまに外に出してほしいでゲス』


 コイツの語尾は“ゲス”か。

 たまに外に出して欲しいそうだ。機会があれば、出してやりたいな。


『ああ分かった』

『ありがとうでゲス!』



 《テイムモンスターのゴブリンを吸収します》



 種族:人間

 名前:アレン=ラングフォード

 性別:男

 年齢:16歳

 職業:テイマー

 レベル:12

 HP:230

 MP:175

 攻撃:211

 防御:195

 魔力:164

 敏捷:203


 《恩恵》

【獲得経験値上昇(小)】


 《耐性》

【痛覚耐性(小)】

【物理攻撃軽減】

【魔法攻撃軽減】

【状態異常軽減】


 《職業スキル》

【テイム:レベル2】

【鑑定(ステータス限定):レベル1】


 《攻撃スキル》

【ショルダータックル:レベル1】


 《強化スキル》

【身体強化:レベル1】


 《通常スキル》

【棒術:レベル1】


 《ユニークスキル》

【吸収:レベル1(MAX)】

【自己再生:レベル1(MAX)】

【意識共有:レベル1(MAX)】



 作戦はバッチリだ。

 この調子でゴブリンを倒していこう。

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[良い点] 『出せるの?!』 [気になる点] 出せるのかー。 [一言] ちょっと出してよ。 。。。ってゴブも収納できるのかー。。。
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