第28話 テイマーはキャラバンを救う
ガタガタ、と揺れる馬車の中で俺は窓から流れる景色をボーッと眺めていた。
今は、フォルトリアを出発して少し経ったぐらいだ。キャラバンに同行するのは初めての経験で、どんな冒険者が多いのかと鑑定を使ってステータスを覗いてみた。
その結果……なんと、このキャラバンでは俺達が一番強かった。
しかし、そんな事が商人に分かる訳もなく、俺達の待遇はあまり良いものでは無い。駆け出し冒険者として、あまり大きく無い戦力として見られている。そのせいで今乗っている馬車も乗り心地は良くない。ヴァスノスに着く頃には尻がかなり鍛えられそうだ。
「なに二人共ボーッとしてんの」
対面の座席にいるレナが話しかけてきた。
「いやいや、俺はちゃんと窓の外を見て周囲を警戒しているぞ。職務を全うしている最中だ」
「どーだか。眠そうな顔してるし」
「眠そうな顔なんてしてねーよ。してないよな? シャル」
隣の座席にいるシャルに顔を向ける。
「やる気の無いときの顔」
「……」
シャルなら、「うん」と、答えるはずだ。そう思っていたのだけどな。予想外の返事に俺は黙り込んでしまった。
レナは、クスクスと笑っている。
窓の外の景色も変わった様子など何もなく、今のところ平和の一言に尽きる。
「もう! これから私達の冒険が始まるんだから、もっと元気出してよ!」
「それはヴァスノスに着いてからでいいだろー」
「えー嫌だよ。なんでそんなやる気ないの?」
「ここぞという時にやる気を出す為に貯金してるの。モンスターが襲ってきたとき、やる気が出ないと困るだろう?」
「はいはい、そうですね」
実は昨晩、寝そうになったところを睡眠中のシャルに抱きつかれたのだ。引き剥がすと、起こしてしまいそうだから、そのままにしていたのだが……。
結局、俺は全然寝ることが出来なかった。一緒に寝るのも困ったもんだ。
そういう訳で、今は結構眠くて、睡魔と戦いながらボーッと外の景色を見ているのさ。ちゃんと起きてるだけ偉いと褒めてもらいたいぐらいだ。
「こうも平和だと、眠くなって仕方ないな」
「モンスターでも現れてくれれば、私達が活躍して名を売るチャンスになるのにね」
名を売るチャンスか。
確かに何人もの商人がキャラバンを組んでいるのを考えると、ここで活躍すると商人達に一目置かれるかもしれないな。
「でもレナは戦わないでしょ」
シャルの渾身の一撃がレナに刺さった。
「そうですよ……どうせ、私は戦いませんよ……回復しか出来ませんよ……」
予想以上に大ダメージを受けたようだ。
レナは下を向き、いじけている。
「レナ、ごめん」
シャルが頭を下げて、レナに謝った。
「……そこで謝られるともっと惨めになる」
しかし、その行為は火に油を注いだようだ。
仕方ない俺もフォローしておくか。
「レナが戦えない事は承知の上でパーティに入れたんだ。戦えない事を考慮してもお釣りがくる程のサポート能力があるんだから気にするなよ。シャルも冗談のつもりで言ったんだよな?」
「うん」
シャルは、こくりと頷いた。
「うぅ……ありがとう」
何とかレナの心に傷を負えずに済んだようだ。
よかったよかった。
そう安心していると、窓の外を四足歩行の大きな獣が高速で通り過ぎて行った。
「おい、今の見たか!?」
「今のって?」
「見てない」
二人ともキョトンとした顔をしている。
どうやら見ていなかったようだ。
そうしている間にヒヒーンと馬が叫び、馬車が止まった。
「モンスターが出たぞ!」
馬車を運転していた商人がそう叫んだ。
間違いない、さっきの奴だ。
「行こう、二人とも」
「「うん」」
レナの言っていたように今こそ名を売るチャンスだ。
俺たちは馬車の外へ飛び出した。
先頭の方では既に戦いが起こっているようだった。
大きい四足歩行の獣で背中には翼が生えている。鋭い牙に鋭い目つきがモンスターの獰猛さを体現している。
――鑑定
種族:ウルフ族
名前:ウィンドウルフ
レベル:45
HP:12000
MP:10000
攻撃:15000
防御:11000
魔力:8000
敏捷:12000
《攻撃スキル》
【ウィングスラッシュ:レベル4】
【噛みつき:レベル5】
《通常スキル》
【疾走:レベル5】
結構な強敵だな。
俺が知っているウルフより随分とデカイが、コイツもウルフ族のようだな。ゴブリンとホブゴブリンみたいな違いだろうか。
現在、先頭の馬車に乗っていた、俺たちを抜いて一番強い冒険者のパーティが戦っている。
どうやら苦戦しているようだ。
一人の男の冒険者がウィンドウルフの爪に引き裂かれ、重傷を負っている。
「レナ、回復を頼む」
「分かった!」
レナは重傷者のもとへ走り、ヒールを唱える。
「あ、ありがとう……助かったよ」
「いえいえ!」
あの様子だと、一大事にはならなそうだ。
それなら俺たちは、ウィンドウルフに集中するだけだ。
今、ウィンドウルフと戦っている冒険者は2人。
重傷を負ったメンバーを除いた一番強いとされているパーティメンバー達だ。
他の冒険者達は、ウィンドウルフを恐れて戦うところを見守っているだけだ。
商人達は怒っているが、ステータスの差を考えると仕方のない事だろう。
「助太刀するぜ」
俺は冒険者に襲いかかるウィンドウルフの爪を剣で止める。
その瞬間、ウィンドウルフの動きは止まり、大きな隙となる。
「シャル! 今だ!」
「うん」
ウィンドウルフの背後に回ったシャルは、翼を斬り裂き、背中に剣を突き刺した。
「グオアアアアアアア」
前足をあげ、怯むウィンドウルフ。
シャルはウィンドウルフの腹の下に滑り込み……一閃。
一瞬のうちにウィンドウルフは力尽き、光の粒子となって消えていった。
「君達は一体……」
戦っていた冒険者のリーダーらしき一人が唖然としながら呟いた。




