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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第1部 出会い
8/82

8.信頼

「何匹いるの・・・」


周りには小型妖魔の死体の山が出来ている。

リンリはどこか敵の数の少ない場所から突破して逃げようと思ったのだが、

妖魔も馬鹿ではなく、逃げられないように要所に中型妖魔を配置して

小型妖魔で足止めして逃がさないようにしていた。

近寄ってくる敵を剣で倒すだけで、しばらく持ちこたえたが、

左腕が無い分、攻めに転じられず、

遠距離からの投石などで徐々にダメージが増えてきていた。

結界を張ろうにも中型は無理矢理突破してくるだろうし、

詠唱中に攻撃されれば下手すれば致命傷だ。

睡眠や閃光などの効果魔法も一定の範囲のみだから、

すぐに他の敵がカバーに入るだろう。


「夜になったら霊体の妖魔も活発になるし、

昼間のうちにどうにかしないと」


下層は常時暗いので霊体の妖魔も浮いているが、

襲ってくるのは地上の日が沈んでからなのは変わらない。

鎧の中にいれば霊の攻撃は基本的に受けないが、

上級の霊はその限りでもない。


中型の妖魔が指令を出して、

また小型の妖魔が同時に6匹ほど囲んで攻撃してくる。

一番近い敵から順に切り払うが、

ほぼ同時なので、左右の足や背中に打撃を受ける。

小型の打撃はほぼ傷を負わないが、

攻撃を受けている感触はあるので、

とても煩わしい。


「この」


急旋回して背後の小型妖魔を切り払ったその瞬間、

中型妖魔が何かをこちらに投げた。

回避が間に合わないと思い、剣でそれを弾こうとしたが、

その感触はとても鈍く、重かった。


「オーク?」


剣は投げられたオークに深く刺さる。

急いで剣を抜こうとしたが、刺されたオークが必死に腕に捕まって抜けない。

そのタイミングを逃さず、

周りで見ていた中型のオーガとオークが一斉にこちらに駆け寄ってくる。

剣が駄目なら砲撃で。

オークをそのままに鎧の肩から魔法の砲撃で寄ってくる中型を狙うが、

1撃で倒せる事はなく、撃たれた中型は痛みで止まるが、他の中型までは止められない。

仕方なく、オークが刺さったままの剣を打撃武器のように敵に振り下ろすが、

重量が予想以上で、1体にぶつけたものの、即座に持ち上げられず、

他の中型がこん棒で持ち上げようとする腕を猛打する。


「あっ」


たまらずリンリは剣を離してしまい、瞬間デュエナは丸腰になった。

武器が無くなればこっちのものと回りを囲んだ中型妖魔が寄ってたかって武器で殴り始める。

腰の短剣を抜ければいいのだが、手は相手の攻撃を振り払ったり殴ったりするのが精いっぱいで、

剣を抜く暇がない。

こうなるともうどうしようもなく、なるべく繭周りに攻撃が当たらないよう、

腕で庇うぐらいしか出来なくなってしまった。

ダメージを減らすように硬化の魔法を何とか唱える。

硬化の魔法は全身を硬く出来るが、その分スピードが下がる。

ただ身動き取れない今の状況には適しているが、継続時間も10分ほどだし、

ダメージが飛躍的に減るわけではない。


(このまま殴り殺されるのかな・・・)


そう思いつつも意外と自分が冷静な事に気付く。

死ぬのは嫌だが騎士団を裏切って逃げ、

アミアを見捨てて逃げた自分はここで死ぬのがお似合いかなとも思った。


『よかった、まだ生きてたみたいだね』


念話が突然入る。

レーダーに映るマーカーの方を見ると、

そこにはハルバードを構えたリグムが映っていた。


『アミアちゃん!』


『すぐに助ける』


走ってくるリグムは鬼神のようだった。

近寄る妖魔は紙のように切り裂かれ、小型だろうが中型だろうが1撃だ。

事態が変わった事に気付いた妖魔たちが体制を立て直して、

集団で攻撃しようとしたが、

周りを囲む前に次々と仲間が死んでいくのを見て恐怖を覚える。

やがて小型の妖魔から先に逃げ出し、中型の妖魔も後を追うように散り散りになった。


『結構やられたみたいだな』


立ち尽くすデュエナの前にリグムが立ち止まる。


『ご、ごめんなさい・・・』


色々な感情が押し寄せ、結局出た言葉はそれだった。


『謝らなくていい。

こっちこそ無理をさせてすまないと思っている』


アミアの言葉にリンリはどうして、という疑問しかない。


『巨人はどうしたの?』


『倒したよ。

少し手間取ったけど』


やっぱりアミアは凄いと思うと同時に、

自分は駄目だと再度実感する。


『腕は回収してきたよ。

あと、剣もそこに刺さってるし、

持って帰って一旦休もう』


アミアの声はどこか優しい。


『・・・無理だよ。

私はアミアちゃんみたく強くないから、

これ以上下層で生きていけない。

お荷物にしかならないから置いていって・・・』


リンリは素直に心情を吐く。


『・・・そんな事はない。

巨人だって最初におとりをやってくれたおかげで脇腹に攻撃出来た。

あれが無かったら動きが鈍らずやられてたかもしれない。

それに脛の傷を付けてくれたおかげで、転ばせる事が出来た。

二人で倒したんだよ』


アミアの言葉は事実かもしれない。

でも、そうなったのは偶然だ。

下手したら1撃も与えられずに自分は死んだかもしれない。


『こんなのがずっと続くかもしれないんだよ。

デュエナだってボロボロで回復に時間がかかると思うし、

私、また怖くなって逃げちゃうかもしれないよ』


『そんな事言うな。

リンリが助けてくれなければそもそもあたしは下層に落ちた時点で終わってた。

二人だったからこんな訳がわからないところでもあたしは冷静でいられたんだ』


アミアの言葉に心が揺れる。

二人で行きたい。

でも自分のせいで二人とも死ぬのは嫌だ。


『ごめん、もうアミアちゃんに迷惑かけたくないの。

アミアちゃんは強いもん。

一人でだってきっと出口を見つけられるよ』


『違うんだ。

あたしは初めて一緒にいて嬉しいって感じられたんだ。

弱くたっていい。

あたしが守ってやる。

リンリが逃げないでいいように!』


アミアの強い言葉にリンリは胸が熱くなる。


『いいの?

そんな事言うと私甘えちゃうよ?』


少し恥ずかし気にリンリは言う。


『ああ。

言ったからには責任は持つよ』


アミアもちょっと恥ずかしくなったようで、

照れくさそうにそう答えた。


デュエナのアーマーの剥落等は無く、剣を引き抜くだけで準備は済み、

二人は拠点とした地点に戻った。

使役した2匹のオーガも攻撃を受けた様子はなく、

しばらくは大丈夫そうだと感じた。


『しかし、結構ボロボロになったな』


『うん、左腕の接合は3時間ぐらいで出来るけど、

全身の回復は15時間ぐらいって出てる』


神聖鎧の傷の回復は自動的に行われる。

ただし神力とエネルギーの双方を使う為、

教団施設外での回復には時間がかかる。

装甲等が無くなった場合は代替する金属が必要になるが、

今回は傷は付いても剥がれなかったので、

時間さえあれば回復出来る。


『休憩する為には結界は必要だ。

リンリの方で無理して魔法をかけてもらってもいいか?』


『うん、勿論』


神聖魔法は基本は神力で実行するが、

それを搭乗者の魔力で部分的に肩代わりする事が出来る。

搭乗者に対する負担は増えるが、今回のように鎧の方が傷ついた場合は、

その方が鎧の回復が早くなるので、

背に腹は代えられない。

何よりリンリは先ほどのアミアの言葉が嬉しく、

アミアの為なら何でもしてあげたい気分だった。

結界の魔法をかけ、使役の魔法を延長してから、二人は鎧を降りる。


「何ニヤニヤしてるんだよ」


アミアがずっと自分の方を見ているリンリに文句を言う。


「もう我慢出来ない!」


リンリは言うと同時にアミアに抱きつく。


「え?」


全力の抱擁にアミアが戸惑う。


「ありがとう、大好き!!」


リンリは抱きしめながらアミアに頬ずりする。

アミアは固まって動けない。

リンリは自分の気持ちがどこから来るか分からない。

ただ、教団で褒められた時より、大昔両親に褒められた時より、

アミアが助けてくれて、自分を受け入れてくれた事が嬉しくてたまらなかった。


「やって欲しい事があったら何でも言ってね。

肩もみでも膝枕でもなんでもするから」


「わ、分かったから。

一旦離れてくれ」


リンリは名残惜しそうにアミアから離れる。

昨日までは子供みたいに思っていたが、今は頼れる存在になっていた。


「で、何かしようか?」


「・・・いや、今はいい。

二人とも疲れたし、まずは寝よう」


リンリはちょっとがっかりしつつ、寝る準備を整える。

台所とかお風呂とかあれば色々振舞えたのに、

と思うが、無い物はしょうがない。

鎧に乗っている時は汗もかかないし、

身体も汚れないので、汗を拭いたりも出来ない。

髪を撫でたら子ども扱いみたいで怒るだろうか。

色々考えている間に準備が終わり、

昨日と同じように並んで寝転がる。


「そうだ、またおっぱい触る?」


昨日は喜んでくれたかは分からないが、

触りたいならいくらでも触ってくれていいとリンリは思った。


「い、いや今日はいい」


「そう?」


アミアはさっきからどこかぎこちない。

まあ巨人を倒してあれだけ戦ったんだから、疲れてるんだろうと思った。


「じゃあお休みなさい」


「おやすみ」


リンリは触れ合う肌に幸せを感じつつ、眠りに落ちていった。


===========================================================================


(寝たかな)


リンリの寝息を聞いてアミアはようやくホッとする。

拠点に戻ってきてからのリンリの態度にどう対応していいか、

ずっとドギマギしていたのだ。

まあ、原因が助けた後の自分の言葉だと分かってはいるんだが。


(調子いい事言い過ぎたかな・・・)


ただ、リンリがいたからこそ自分が生きているのは事実だし、

守ってあげたいとも確かに感じていた。

そもそもアミアは友人がいた事が無く、

同世代の少女と集団以外での接し方が分からなかった。


(リンリの好意を素直に受け取っていいのかどうか。

あくまで一時的な感情かもしれないし)


そこでアミアは自分の気持ちを確かめてみる。

今までだったら部隊の弱い奴は価値が無いと思っていた。

敵前逃亡など以ての外だ。

でも、今は部隊の関係ではない。

あくまで対等であり、そしてここは常識が通じない場所だ。

だからリンリを許せたのだろうか。

彼女を守ってあげたいと思えたのだろうか。

どうも違う。

彼女が最初に助けてくれたのは確かに大きい恩だ。

でも、敵対する者だったし、それで好意が芽生えた訳でもない。

姉と重ねてるのか?

いや、それも最初だけだ。

姉とは全く違うし、そもそも彼女は年下だ。

彼女の雰囲気、感触、匂い。

そう、すべてが不快ではなく、心地よかった。

結局考えても結論は出ず、

やがて睡魔が思考を奪っていった。


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